二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 お待たせしました、前回(103話)の続きです


105話 暴君の憎悪

「はぁ……はぁ……もう少し長引けば危うい所だったが……無事にいったようだな……」

 

「箒! 大丈夫か!?」

 

 崩れ落ちたタイラントがピクリとも動かなくなったのを見ると、つい先程まで極限と言っても差し支えの無いレベルまで神経を集中させていた箒は、糸が切れたように空中でふらついて崩れ、それを見ていた一夏はその側に慌てて駆け寄ると、その体を支えて肩を貸す

 

「なっ……わ、私は大丈夫だ! その……別に、肩など貸して貰わずとも……」

 

「あのなぁ……大丈夫ってのにそんなフラフラじゃ全然、説得力無いぞ? ほら、顔もこんなに赤いじゃないか。大人しく肩を預けろって」

 

 戦闘が終わって限界まで張りつめていた集中が切れた瞬間、突然、一夏が眼前に現れただけでは無くIS越しにではあるが体を支えられた箒は一瞬にして赤面した

 

「こ……この疲労さえ無ければ……今ごろこれを投げつけてやったのに……!」

 

「ふーん……今の今まで誰も一秒も気が抜けないような状況だったのに、戦闘が終わった途端、すぐに女の子に向かって動けるなんて、一夏は流石だなぁ……」

 

 無論、その様子は激戦を終えて息を抜いていた仲間達にもしっかりと見えており、鈴は荒い息のまま双天牙月を構えたまま怒りでプルプルと体を震わせ、シャルロットは言っている言葉の内容こそ落ち着いた物ではあったが、その口調は非常に冷ややかな物であり、視線もまた絶対零度に近く、視線だけで一夏の背中に鳥肌が立ち始める程に凍てついていた

 

「嫁よ……今後の為にも、おにーちゃんも交えて嫁のこれからの事をよく協議……いや、家族会議をする必要があるみたいだな……」

 

「あらあら……ふふっ……大変みたいだけど、頑張ってね?」

 

 ラウラも二人に同調するように頬を膨らませながら腕を組み、不満げにそう言い、その全てを見ていた楯無は、鈴、シャルロット、ラウラの三人に詰め寄られながら、こっそりと助けを求める目を送ってきた一夏にそう言って笑顔だけを送り、特に何もしようとはせずに現状を楽しく見物していた

 

「はは……みんなが元気そうなのはなによりだが……俺は出来れば、早くタイラントを回収して帰還したい所だな。あんなあらゆる意味で物騒極まりない物を放置して置くわけには……」

 

 と、そこにタイラントが起動停止したのを確認し終えた光が、戦闘中共にいた一夏の姿をタイラントの目から隠すためにキングブレスレットを発動させ続けていた上空から降下して皆と合流しようとし

 

「……くっ……はぁ……いかないだろう……?」

 

 その途中で顔を苦しげに歪めて胸を押さえ、それと同時に機体のヒカリも一瞬ぐらりと不安定に揺れた

 

「光さん!?」 

 

 偶然、ヒカリの降下地点のすぐ近くにいたセシリアはそれに気付くと素早く反応して、装備していたスターライトmkⅢを手放すとふらついたヒカリをのボディを両腕でしっかりと支えた

 

「す、すまない……少し痛みでふらついて……もう、大丈夫だ」

 

「光さん……戦闘は終りましたし、心身も機体も満全でないあなたがあまりお体に無理をされてはいけませんわ。タイラントの回収は私達に任せて、光さんはどうかお休みになられてはいかがですか?」

 

 助けられた光はどこか普段より気力を感じられないような弱々しい声で苦笑しながらそう言ってヒカリのボディを支えるティアーズの腕からそっと離れようとした。が、それでもセシリアは腕を決して離さず、静かにあくまで落ち着いた様子で光をそう制す

   

「しかし……いや……そうだな、正直に言えば体は辛いし……断るようなしっかりとした理由もない。ここは大人しく君の好意に甘えさせて貰うとしよう。ありがとう……セシリア」

 

 光はその言葉に少しの迷いを見せていたが、観念したかのように笑うと、大人しくその体をセシリアに預け、自然と皆から安堵と共に暖かい笑顔が溢れ始めた

 

「あれ……? ある程度は仕方ないにしてもな……それでも俺と光さんで皆の対応が違いすぎないか……?」

 

「そんなの決まってるじゃない、普段の行いの差よ」

 

「えっ!?」

 

 そんな中、一夏だけが今一つ納得できていない様子で箒を支えながら不思議そうに首を捻るが、その言葉は穴が空くほどじっくりと箒を抱き抱える(ようにも見える)一夏を見ていた鈴にドライな一言で躊躇無く切り伏せられた

 

「さ、光ちゃん、私も支えてあげるわ。ここは若い子達に任せて大人しく休んでおきましょう?」

 

「楯無会長……すまない……世話になる」

 

 一方でこちらは、セシリアに続いて楯無も光の救助に加わり、光は大人しくそれに従って楯無に身を預けた

 

「どこか近くに休めるような場所があると良いのですが……」

 

 セシリアと楯無の二人で支える事によって、より安定して光の体は空中に保持されてはいるが、しかし光は病人だ。やはり一度、地上で落ち着いて腰を降ろして様子を見た方が良いと判断したセシリアは、光の体を支えたまま眼下の海原を見渡し

 

「……っ!?」

 

 

 セシリアは一早く、それに気付いた

 

 

 そう、零落白夜の一撃を受けて致命的なダメージを負い、鉄屑のような姿へと変わっているタイラント。ピクリとも動かないそのボディの頭部。エネルギーを失った事で真っ暗だった、その瞳に怪しい紫色の光が灯っている事を

 

 まさか、あれほどのダメージから、さらに零落白夜の一撃を受けているのに、この短時間でそれはありえない。だが今の輝きは錯覚とは思えない。そんながセシリアの脳内に渦巻いていく。その瞬間、再び倒れているタイラントの瞳が紫色に輝いた

 

「っ……! みなさんっ!!」

 

 もはや一刻の余裕も残されていないと判断したセシリアは、普段から意識している優雅さも投げ捨て咄嗟に危険を知らせようと叫ぶ

 

 その瞬間

 

「なっ……!? があぁっ……!!」

 

 一瞬にして白式のボディにワイヤーが絡み付いて、その身を拘束すると一夏が反応する隙すら与えず、白式を大地に叩き落とした

 

『ギgi……ッGiYAAAAaaaaaaaaaaaaっッ!!』

 

 獲物を捉えたタイラントの咆哮は損傷のせいか、よりひび割れや霞みなどのノイズが酷くなり、その声はもはや獰猛な獣のそれとは事なり、まるで押さえきれない怨差と憤怒に満ちた人間の叫びに似ていた

 

「んなっ…………」

 

「なんなんだ……何だと言うんだ、こいつは一体!?」

 

 一夏が打ち倒された、と言うのにも関わらず再び起き上がったタイラントのあまりにも異質な姿に誰も身動き一つ出来ずに息を飲まされていた

 

 

 激しい攻撃によって装甲が吹き飛ばれてフレームのみになり、まるで白骨化した死体が動いているかのような外見に変わったおぞましさを感じる外見

 

 元々、巨大だった刃が更に肥大しもはや片手で一本の大剣を構えているように見える鎌。その鎌と同じく肥大しただけでは無く、より相手を効率的に砕けるように表面に生えた刺が鋭利に変わった鉄球

 

 そして何より、特徴的なのが人魂を思わせるような紫色に爛々と輝き、箒達を誰から狩ってやろうかと睨み付ける獰猛で自分を傷付けた者達への憎悪に満ちた邪悪な目

 

 エネルギーが一度枯渇してもなお使用出来る、タイラントにとって文字通りの最後の切り札『デスボーン』と、呼ばれる姿へと変わったタイラントの姿がそこにあった




 はい、今回EXをぶっ飛ばしていきなりデスボーン状態でタイラントが復活した訳ですが……一応、これには理由があります。詳細は次回の本文でお伝えしようと思います

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