二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「……あー……光ちゃん? あの、しつこい骨ゾンビ君の弱点とか今、少しでも分かったら、ささっと教えてくれないかしら? 流石にお姉さんもこう連戦が続くとちょっと疲れて来ちゃってねぇ……」
と、デスボーンと化したタイラントの頭部から放たれ、Uシリーズの多くの装備を開発し慎吾がそれを試す様子を身近で見てきた光でさえ、理不尽だと感じる程の強烈な一撃で四機のISが落とされると言う緊迫した状況の中、突如唐突に、タイラントの獲物を狙う殺意の込められた視線を受けていても尚、全く怯んだ様子を見せない楯無が、まるで日常会話でもするかのように冗談っぽく、そう光に尋ねてきた
「……楯無会長?」
一方で光はそんな楯無の意図が読めず、自責から来る激しい怒りから解放され、一瞬呆けたように楯無に聞き返す
「今の光ちゃん……ちょっと自分を追い詰めすぎ。気持ちは分からなくは無いけど一旦、落ち着いてみなさい。私達が焦り始めたら状況がますます悪くなるわよ?」
その瞬間、楯無は真剣な表情をすると指を立て、静かにしかし、はっきりとした口調でそう光に忠告を送る
「……! ふぅ……楯無会長、ありがとう。危うく俺とした事が感情に任せて後先の事を考えずに闇雲に動くところだった」
そんな楯無の言葉で光はある程度ではあるが落ち着きを取り戻したのか、軽く深呼吸すると楯無に礼を言った
「あら、いいのよこのくらい。それで光ちゃん……」
楯無は光の出したその答えを満足そうに聞くと、すぐにそう尋ね
「勿論、もう既に手を見つけていますよ……打つべき奴の弱点を!」
光はそれに、力強くそう答えるとタイラントを睨み付けると短い時間で調べあげた事を語り始めた
「……先程見せた炎……と、言うよりはもはや熱線と評するべき一撃は確かに脅威的。疲弊した今の状況では命中どころが霞めただけで致命打になるとは恐れるばかりだ。だがしかし……奴の頭部、熱線を発射した部分を見てみてくれ……」
『gigi……giッ……!! 』
そう言って光が指差すのはタイラントの頭部と先程、熱戦を発射する際に大きく膨張した喉元。今、現在タイラントのその二部分からはもうもうと大量の白煙が吹き出し、相変わらず両腕の武器をそれぞれ構えて箒達を睨み付けてはいるタイラントも余程反動が大きいのか時おり空中でふらついていた
「見ての通り、あの一撃は奴が自壊してゆく体を更に酷使してもなお、決して連発などは出来ないようだ……そして、今まで交戦した事で得たデータから割り出せた奴の自己修復速度、エネルギー量から言って……」
そこまで言うと光は箒と楯無によく見えるように右手の人差し指一本だけを立てて見せた
「一分。最低でも奴が熱線を放つまでのエネルギーを充填するまでのタイムラグは最短でも、現在から約一分以上の時間が必要なはずだ。……加えてあの熱線を放つ為に奴はガトリング・レーザーを犠牲にしている。つまり奴の遠距離攻撃手段は、チャージに時間がかかる熱線だけと言うことになる。そして……ただでさえエネルギー不足で自壊しつつある体で超火力の熱線のチャージをしてるんだ……果たしてそんな状態で近接攻撃の回避の両方に力を入れられるか……? と、ここまで言えば俺の言いたい事は分かるだろう」
そこまで言うと光はちらりと箒と楯無に視線を向ける。
その瞬間には二人は既にタイラントに向かって動いていた
「必ず……一分以内に……今度こそ私が倒す!」
「うん、いい目をしてるわね。だったら私はそんな箒ちゃんの援護をさせて貰おうかしら……」
力強く刀の柄を握りしめ、決意を決めてそう言う箒。そんな箒に答えながら楯無はランスを構えると優しく、しかしタイラントに対する確実な殺気を込めた微笑みを浮かべる
『gigi…………』
箒と楯無の二人が再び身構え、明確な戦闘態勢に入った事を確認すると、タイラントは自身の頭部から立ち込める白煙をかぶりを振って払い、紫色に輝く目で二人を睨み付けると低いうなり声の電子音声を発しながら大鎌を構えて対応し、箒達を待ち構えるような態勢をとった
「………………」
途端、その場は周囲の空気が三者それぞれが発する殺気で極限までに張りつめ、箒も楯無も全神経を目の前のタイラントに集中させ無言になり、それにつられて光も何も発せようとはせず、そんな人間らしい意志があるのかどうかは不明ではあったがタイラントすらうなり声のような電子音声を止めて、ただ二人を睨み付けていた
そんな重苦しい時間が数秒ほど続いた時、静かに吹き付けた一陣の風か、あるいは眼下の岩場に打ち付けた波音か、ともかくそれを合図に
「はああぁっ……!!」
「ふっ……!」
『GYAaaaaッ!!』
箒と楯無、そしてタイラント。二人と一機は全く同時に動いた
『gigiッ!!』
両者が激突する瞬間、ほんの瞬きする程の差の早さで先に攻撃を放ったのはデスボーンとなった事で更に機動力が増したタイラントであり、二人が攻撃を放とうとする直前にさながら大剣の如く肥大した右手の大鎌を超高速で放った。が
「確かに……純粋な速さ事態は近接でも、先程より上がっているようだな」
「でも……逆に純粋な一撃自体は……さっきと比べれば軽くなってるわね」
その一撃は紅椿の刀、ミステリアスレイディのランスに容易く受け止められ、その激突時の勢いの激しさを示すように火花が飛び散り紅椿とミステリアスレイディは共に若干後退させられるが、それでも完全に二人はタイラントの大鎌の一撃を防いでいた
「よしっ……! やはり予想は当たっていた!」
二度に渡ってタイラントと交戦したことで、通常時のタイラントならばその近接攻撃が例え三機がかりでも正面から防ぐ事は出来ない程の破壊力を秘めていた事を知っている光は、自身の予想通りにタイラントの近接攻撃におけるパワーが低下している事に気が付き。小さくガッツポーズを作ると仮面の下で口元に笑みを浮かべた
『………!!』
機体の速さを生かして得た筈の先手を取り逃した事を判断すると、タイラントは咄嗟にたった今繰り出した大鎌を引こうと試みる
「あら、もしかして簡単に引けるとでも?」
「逃がさんっ!!」
が、タイラントが見せた隙を二人は決して逃さず、大鎌が戻して機動力を生かして後退しようとしま瞬間、すかさずタイラントに踏み込んでがら空きの胴体にそれぞれ一閃と突きを叩き込んだ
『Gi……gaッ……!! GiGyaaaッッ!!』
持ち前の機動力を生かして何とか回避を試みるタイラントであったが、それは叶わずタイラントの殆どフレームしか残っていない装甲に二人の攻撃が食い込みむと、タイラントの叫びと共にいくつかのパーツが吹き飛ぶと大きく揺れ態勢を崩す。が、しかし怯みながらもタイラントは左手の鉄球を乱雑に振り回して踏み込んだ二人を狙う
「そんな乱雑な攻撃が………!?」
それを容易く回避し、直後、箒はあることに気が付いて目を見開いた
「一夏!!」
そう、タイラントが鉄球を振り回す事で引き寄せられるように、この戦闘の場へと引っ張り上げられたのは先程まで倒れていて起き上がろうとしていた一夏。よく見ればその体には鉄球から伸びた不可視のワイヤーが幾重にも巻き付いており、更に達の悪い事にその拘束は一夏が零落白夜を持った右腕に特に集中して巻き付いており、一夏は全く腕を動かせないようであった
「だ、駄目だ……ほどけねぇっ!!」
一夏もどうにか自身を縛り付けるワイヤーの拘束から懸命に逃れようと額に汗を滲ませながら必死の抵抗を続けてはいたが、針にかかった魚が釣り人に水中から引き上げられるかの如く白式は徐々に徐々にタイラントに向かって引き寄せられていく
「今助けるぞ一夏!!」
当然、そんな危機的状況を迎えている一夏を放置出来る筈も無く直ぐ様、箒が刀を構えて一夏を拘束しているワイヤーを切断せんとタイラントに向かって飛び出した
『gi………!!』
「……!! 貴様……!」
と、その瞬間、ピッタリ狙ったタイミングでタイラントがワイヤーを更に自身に向けて巻き取り、強制的に白式はタイラントを守る盾ような位置に立たされた。しかも、たとえ箒とは言え僅かでも力加減が狂えばワイヤーごと白式を切り捨ててしまうような面を向けて
「くっそおおぉぉぉっっ!!」
身動きの取れない自身がタイラント攻撃の為の大きな枷になってしまっている事を嫌と言う程、自覚してしまった一夏は無理矢理にでもワイヤーから逃れようと声を荒げながら激しく暴れまわった。しかし、それでもワイヤーは軋むばかりで全く切れはせず、白式のエネルギー光で一瞬、タイラントの鉄球から伸びるワイヤーが光って見えただけであった
「……ようやく見つけたぞ、そこにワイヤーがあるんだな……!」
焦りが最高潮にまで達していた一夏の耳に、そんな落ち着いた。しかしどこか興奮しているような声が聞こえたのはその時だった
「おおっ……!?」
『Gya………!?』
その声と共に空中からリング状の光の刃が一つ、まっすぐにワイヤーに向かって降り注ぎ、想定外のその一撃にタイラントが反応出来なかった為に、全く障害無く光の光輪はワイヤーを切り裂き、急に拘束から解放された一夏は慌てたがどうにか自力での飛行を再開し、一方で光の輪はワイヤーを切断した勢いで大きく弧を描いてタイラントに命中して、装甲の一部を破壊し、タイラントは悲鳴をあげた
「あらあら、見せ場……取られちゃったわね?」
そして一足早く空中を見上げ、一夏を助けるべく光輪を投擲した人物を目撃した楯無は、今にも突撃せんと構えていたランスを下ろし、口元に柔らかな笑みを浮かべた
「今のは……? そ、そうだ……確か……ウルトラスラッシュ……?」
「と、なると……」
そして、一夏と箒がそう呟いた瞬間
「皆、到着が遅れてすまない」
『彼』は仲間達に背中を見せ、タイラントと正面から向き直る形で先頭に立ち、空中からゆっくりと舞い降りた
「さぁ……今こそ、力を合わせ、奴との戦いに決着を付けるぞ!!」
自身の愛機、ゾフィーを展開させた慎吾はつい先程まで病床に寝かされていたとは思えない力強い声でそう全員に向かって宣言するようにそう言った