二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 今回は全体的にシリアスを意識していますが……最後に桃色成分があります


111話 襲撃者『エム』

「……こんなものか……思っていたよりは面倒ものね……」

 

 軍関係者であっても知るものは極一部でしか無い場所、『地図に無い基地』と呼ばれる北アメリカ大陸北西部の第十六国防戦略拠点。そこでIS、『サイレント・ゼフィルス』を纏った一人の少女、エムは侵入者である自分に襲いかかってきた兵士達をあからた殲滅したのを確認すると一人、そう呟いた。

 

 しかし『面倒』と言ったエムではあったが、ライフル片手に果敢に攻撃を仕掛けてきた屈強な男達との戦闘の事では無い

 

「く、くそ……両腕が……」

 

「おい……! くっ……しっかりしろ……!」

 

「し、至急増援を……侵入者の狙いは、この基地に封印されている銀の……」

 

 現に数分前まで攻撃を仕掛けてきた彼らは『サイレント・ゼフィルス』を纏ったエムの凶弾を受けて全員が苦痛に呻いてはいたが誰も死んではおらず、致命傷も負ってはいない。エムとサイレント・ゼフィルスならばそれが実に楽に可能なのにも関わらずだ

 

「(『ISでの殺害はしない』……これだけの人数を相手に実行するのは億劫だが……ひとまず今は従っておくか……そうだ……『奴』と再び戦うために……!!)」

 

 自分に条件と共にサイレント・ゼフィルスを貸し出したスコール、そして『奴』の事を思い返した瞬間、受けた屈辱と完全にこちらを見下している『奴』の嘲笑をも同時に思い返したエムは、マグマの如く沸き上がる怒りのまま空中に浮き上がり、突進して立ちふさがる敵を将棋倒しにして行くと言うワイルド極まり無い戦法で毛散らかしながらマップを基にしながら、やり場の無い怒りをぶつけるように出くわした兵士を一人残らず殲滅しながら全く通路を奥へ、奥へと進んで行く

 

 そうして数分ほど進んだ時だろうか、今まで規則正しく、息苦しいまでに一定の大きさを保っていた通路は急激に広がってゆき、ふと天井と床に余裕を持って五メートルまでの空間が生まれるような広い場所へとエムはたどり着いた

 

「………………」

 

 そこには一人の先客、幾分か距離が離れている為にシルエットで、おそらく女性だろうとしか判断出来ない人物がいたが、そんな事はエムには関係ない。未だに消えぬ苛立ちを少しでも消すために、あばら骨でも砕いてやろうかと思案したエムは邪悪な笑みを浮かべ

 

 その瞬間、鳥の羽に酷似した一本の光の矢がサイレント・ゼフィルスの右肩に突き刺さった

 

「……なんだと……!? ちっ……!」

 

 完全に慢心していた所に放たれた予想外の一撃にエムが驚愕している僅かな瞬間、『羽』は盛大に爆発してエムは舌打ちと共に大きく体制を崩し、壁に向かって吹き飛ばされた

 

 が、高度高速制動に慣れたエムは当然と言うようにそのまま無様に壁に叩き付けられたりはせず、瞬時にしてスラスター制御で激突を回避し

 

 その瞬間、瞬き一秒よりも更に短い隙を狙って再び光の矢が発射されると、矢は脚のアーマに突き刺さり、慢心から立ち直る前に再びエムに強烈な一撃が炸裂した

 

「お前……何者だ……?」

 

 瞬時にして目の前の相手がこの基地に侵入してから、相手したこれまでの人間達とはレベルがまるで違うことを判断したエムは、返事が帰ってくる事も特に期待せずに警戒した様子でそう問い掛ける

 

「あら、聞かれたなら一応、名乗っておこうかしら……」

 

 問われた相手は放つ矢、同様に翼の形をした鮮やかな銀色の武器、『銀の鐘(シルバー・ベル

)』試作壱号機・腕部装備砲(ハンドカノン

バージョン)で決して連射の手を緩める事をせずに、口角を吊り上げて小さく笑うと力強く良く習った

 

「私は、ナターシャ・ファイルス。米国国籍のISテストパイロットで……『銀の福音』の登録操縦者よっ!!」 

 

 名乗り終える共に再びナターシャは生身の体に気合いを入れ、より一層激しくエムに向かってエネルギー・ショットでの砲撃を続けた。単純な出力ならば以前、意図せずして慎吾達と戦闘した時の福音に装備されていた物を越えるその一撃をナターシャは艶やかな金髪を揺らしながら撃ち続ける。そんな攻撃を続けていてはナターシャ自身にかかる負担も非常に大きい筈ではあったが、ナターシャは怯まない。

 

 いや、それどころか衝撃波に撫でられてナターシャの首に巻かれた写真入りの小さなペンダントが揺れる度により一層ナターシャの体ぬは気合い注入されているようにさえ見えた

 

「あの子の為にも……私の『赤い騎士様』の為にも……ここから先は通させはしない……っ!!」

 

 雛鳥を守ろんとする親鳥でありながら、恋に燃える乙女と言う一見、矛盾しているかに見える感情のまま苛烈な攻撃を続けるナターシャ

 

「ふん……無駄に吠えても無駄だ」

 

 しかし、やはり生身であるナターシャとISを纏っているエムとの差は強い想いだけではどうしようも無いほどの差が時間と共に壁となって立ち塞がり、立て続けに二発の攻撃を受けた事で、過去の怒りを振り切り、冷静さを取り戻したエムにはナターシャの攻撃がそれ以上エムに命中する事は無く、ナターシャはあっという間に保っていた距離を詰められてしまった

 

「……!!」

 

「邪魔だ」

 

 ナターシャが目を見開いた瞬間にあっという間に懐に飛び込んだエムは、砲撃を続けていた翼を踏みつけナターシャに右腕で追い討ちとなる一撃を放とうとし

 

「……まっ、だ、まだぁっ!!」

 

 瞬間、ナターシャは気合いの掛け声と共にさながらハリウッド映画のスタントマンのような動きでエムの追撃を紙一枚、いや軽くかすめて自身の美しくつややかな金髪数本を犠牲にしながらも回避し、サイレント・ゼフィルスの脚が完全に床に付く前に翼を取り戻すと床を数回転がって衝撃を拡散すると、不安定な体制でそのまま、ほぼ零距離射撃に近いような一撃を放った 

 

「……!!」

 

「くっ……うっ……!!」

 

 流石にこんな反撃は完全に予想になかったのかエムから驚愕の声が漏れ、それと同時に無理な体制で砲撃を行ったナターシャは衝撃で大きく背後へ吹き飛ばされ勢い良く床に激突する。と、その瞬間、翼が爆発し、結果的に背後へ吹き飛ばされた事でナターシャは危ういところで爆発の衝撃と熱からは逃れられた

 

「雑魚が……そこまでして、たたが一撃を与えて何になる……」

 

 しかし、ナターシャがそこまでの無茶をしてをもエムは怯んだ様子さえ見せず、心底冷えきった口調で床に激突した衝撃で何本かの骨にヒビが入り、立ち上がるのにもまごついてるナターシャを見下しながらさながら死神のように一歩、また一歩と近付いて行く

 

「ふふっ……そうね確かに私の役目はもうお仕舞い。でもね……目的はしっかりと果たさせて貰ったわ」

 

「……?」

 

 絶対絶命。なのにも関わらず突如として笑い出したナターシャ。その瞳に狂気では無く確かな闘志が込められている事にエムが気付き、疑問に感じた瞬間

 

「そこまでだぜ! 『亡国機業』! ここからは私が相手になってやる!!」

 

 突如として床が崩れ落ち、そこから虎模様のIS。アメリカの第三世代型『ファング・クエイク』。それに搭乗した国家代表のイーリス・コーイングが姿を表し、イーリスは威勢良くそう叫ぶと勢い良くエムへと向かって言った

 

 

「ありがとう……私の赤い騎士様。あなたのお陰よ? あなたがこうして私を見ていてくれると思ったから私は全力以上を出しきって、あの子を護る事が出来た」

 

 それから暫くして奮闘もむなしくイーリスが惜しい所でエムを取り逃してしまい、騒動が一段落した頃に医務室へと運ばれたナターシャは首元のペンダントを取り出すと中の写真を見ながら優しく、恋人に言うようにそう言った

 

 ペンダントに納められている写真は以前、自身が休日を利用して訪れたIS学園で撮られた秘蔵の一枚でたあり。ナターシャのとっておきの一枚の写真であった

 

「またいつか……ううん、近いうちにプライベートに二人きりで会いましょう? その時は……ふふっ」

 

 ペンダントに納められた困ったような顔でこちらに笑顔を向ける執事服姿の慎吾の写真を見ながら怪我のダメージを気にした様子も無く妖艶に微笑んだ

 

 なお、そんなナターシャの様子を医務室のドアの素とからしっかりと見ていたイーリスではあったが、ペンダントに治め写真が大人びた顔をしているが、どう見ても未成年の少年が恥ずかしそうにコスプレをしている写真だと言うことを目撃してしまい。流石の彼女も入る事を躊躇してしまうのだが、室内にいるナターシャはそれに気付く事は無く、満足するまで写真の慎吾に向かって甘い言葉を囁き続けるのであった




 今回、再びナターシャさん登場。と、言うわけで盛大に甘さを追加してみました。彼女の性格上イーリスが躊躇うかどうかは悩みましたが……言い方は悪いですが、流石に知り合いがコスプレした未成年の少年の写真を見ながら一人でニヤニヤしてるのを見たら、いかにイーリス言えども流石に躊躇はするだろうと、思ってこの形にしました

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