二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 一応、これでキャノンボール・ファスト編の本格的スタート。と、タイラント編ラスト辺りのの蛇足に近い説明です


112話 残る違和感、新たなる始まり

「えっ、じゃあ慎吾さんも『キャノンボール・ファスト』に出場出来るんですね!?」

 

 タイラントの事件が解決してから暫くの日が過ぎたある日、寮での夕食中に今月9月27日に市のISアリーナを会場とした特別イベントとして行われ、慎吾達IS学園の一般生徒も参加する『キャノンボール・ファスト』の話をしていた時、慎吾から『参加』の返事を聞いた瞬間、一夏は嬉しそうにそう言った

 

「あぁ、幸いな事にMー78社に優秀なメンバーが増えてな。彼等の奮闘もあってこうしてゾフィーの修理が当初の予定よりも早く終了したんだ。私の体の方もマリさ……私の担当医からお墨付きを貰ったから私も当初の予定通りキャノンボール・ファストには参加させて貰うよ」

 

 一夏の言葉に慎吾は食事の手を一旦止め、小さく微笑みを見せると、修理を終えて銀色に光る待機状態になっているゾフィーと自身の腕を軽く動かして体の無事を証明して見せた

 

「良かった……あの時、タイラントに慎吾さんが襲われて病院に搬送されたって聞いた時は慎吾さんもゾフィーも大丈夫なのか本当に心配しましたから……」

 

「うん……あの時は僕もお兄ちゃんの事が、凄く心配だったよ」

 

「私もだ。おにーちゃんが傷付いて倒れるのは……その、凄く嫌だし悲しいからな……」

 

 そんな万全の様子のゾフィーを見て安堵の溜め息を付く一夏、それに続いてシャルロットとラウラも慎吾の身を案じるような言葉を口にした

 

「……あぁ、皆には本当に迷惑をかけてしまったな……すまない。……助けに来てくれてありがとう」

 

「「…………?」」

 

 そんな三人に慎吾は一旦、不自然に遅れながらも苦笑しつつ礼を言って小さく頭を下げる。そんな慎吾のの様子を見てシャルロットとラウラは若干の違和感を感じるがそれは本当に小さなものだったため、二人は特に追及する事は無かった

 

「(やはり、エクセラ博士を始末したのは……いや、しかし……未だに確信の持てない話を皆の、特に箒に決して語るわけには……)」

 

 意図せずして、一夏の口から語られたタイラントの話題。しかし、その時から慎吾の胸の中で思い出したかのように渦巻き始めていたのは昨夜、慎吾と共に利用している寮の自室に重い足取りで消灯時間ギリギリの所で顔を青ざめさせた光に、慎吾が『未確認な部分も多いために、代表候補生達でも他言無用』と、何度も念を押された上でようやく語られた余りにも衝撃的な二つの情報。そう、それは

 

 暴走したIS『タイラント』による一連の事件、通称『T事件』の黒幕と思われる科学者を発見

 しかし、その科学者エクセラが潜伏していた島が、ISで武装した捜査員が出動せんとした直前、発生した海底火山の噴火に吹き飛ばされて文字通り島は『跡形も無く』消滅

 

 と、端的に言ってしまえば『偶発的事故による事件の首謀者死亡』と言う短いながらも素直にそれで『良し』とも『安堵』する事も出来ない程に明らかに不自然な情報。まるで誰かが書いた脚本の如く余りにも話が出来すぎていた

 

 事実、光がギリギリの危ない橋を渡り、それこそ学園寮の消灯時間の事を忘れてしまう程に集中して調べた結果、やはりと言うべきなのかその海域には島一つを丸ごと吹き飛ばしてしまうような大規模な噴火を起こすような規模の海底火山は確認出来ず、ますます『噴火による事故』とは考えにくくなり、更に光が、調査を続けた結果、これと似たような事が『最近』になってもう一件発生していたと言うのだ

 

 それこそが以前、アリーナにてラウラが暴走してしまった原因。シュヴァルツァ・レーゲンに組み込まれていたVTシステムを研究、開発していた研究所であり、こちらはエクセラの一件とは違い意図的だろうが死者は一人もおらず。そして、この研究所もまた原因不明とはなっているがエクセラが潜伏していた島、同様に文字通り『消滅』していた

 

 そして、こんな隠す気がないのかと思える程にダイナミックなのにも関わらず証拠が全く残らない。こんな人知を逸したような滅茶苦茶が可能で動機があり、組織にも属せず個人でそんな事を容易く可能とするような人間。そんな人間は慎吾も光もただ一人しか思い当たる事は無かった。

 

 それは何を隠そうISの開発者であり……

 

「-さん、慎吾さん。大丈夫ですか? さっきから、

ずっと難しい顔をしてますよ? 何回、呼び掛けても返事もしないし……」

 

 と、そこで身動き一つせずに思考に没頭していた慎吾は心配そうに一夏が声をかけてきた事で思考を中断させられた

 

「……あぁ、大丈夫。少し考え事をしていたが大した事では無い。……悪いが集中していた為に話を聞き逃してしまった。もう一度、話してはくれないか?」

 

 この事件はこれ以上、この場で自分一人が一心不乱に考えていて解決出来るとは思えず、それ故にこの思考が必要とは思えない。それに、皆に考え事ばかりにして無用な心配をかける訳にはいかない

 

 そんな事を短い間で判断した慎吾は悟られぬよう少しだけ、無理をして顔に笑顔を作ると一夏にそう語りかけた

 

「あ、はい、キャノンボール・ファストの話なんですけど、慎吾さんはどうするのかなって」

 

「ふむ、私はそうだな……。ゾフィーはあくまでUシリーズのプロトタイプで何かと実験的な部分や未完成な箇所多くてな……高機動パッケージも光が奮闘してはいるが未だに実装されてはいないから……無難に駆動エネルギーやスラスターの調整。装備の見直しが中心となるだろうな……」

 

 少し戸惑った様子を見せながらも、慎吾の頼みを聞いて話を再開する一夏に対し、そう何事も無かったかのように自然な調子で答える慎吾

 

 こうして慎吾の中では何か引っ掛かる形が物がありながらも、当然ながらそれで時間の流れが緩やかなどにはなりもせず、『キャノンボール・ファスト』は静かに始まりだそうとしていた


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