二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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114話 部活動の慎吾

「全くもって今更だとは思うが……すまない。皆、私は本当にこれで……この格好とポーズでいいのか……?」

 

 月曜日の放課後、全くと言っていいほど落ち着かない様子で周りを見渡しながら慎吾は360度隙間無く自らの周囲を囲んで休み無く熱心にスケッチを続ける女子生徒、美術部の部員達に尋ねた

 

「全然、大丈夫! 全く問題など塵一つとしてありませんとも! ええ!」

 

「むしろ良い所しかありません! あえて言うなら全てがグレート!!」

 

「あ、すいません慎吾さん。集中したいのでもうしばらく静かにお願いします。ポーズもそのままで」

 

 困ったような慎吾の問い掛けに帰ってきたのはいっそ怪しさすら感じる程の謎の情熱に満ちた部員達からの肯定の声。と、言うか数名の部員に至っては全神経をスケッチに向けているのか、早口かつ抑揚の無い声でそう返事を返しながら、さながら機械のような正確さで書き上げ絵てゆく

 

「そ、そうか……」

 

 その熱気に押された慎吾は再び最初に指定された通りの片手を上空に上げ、手のひら程の大きさの青い水晶玉をもう片手に持ったポーズを取り、じっと虚空に向かって真剣な視線を向ける

 

「(暖房が聞いていて決して寒くは無いし、芸術の為とは理解しているが……やはり、恥ずかしい物だなこんな姿をあまり同世代の女の子達に見られるのは……)」

 

 再び熱心に筆を動かし始めた部員達を眺め、全身に感じる視線に困りながら慎吾は内心で苦笑しながら大きくため息を付いた

 

 そう、今の慎吾の姿は武士の情けか下半身にはメンズ向けのショートパンツ(何故か予め用意してあった上に教えてもいないのに慎吾にピッタリのサイズ)を履いてるものの、その丈が短い為に殆んど下着を晒しているのと変わらず、上半身に至っては文字通り一糸も纏わない裸の姿だった

 

 何故、慎吾がこんな極端に言ってしまえば半ば羞恥プレイじみた事をさせられているかと問われれば答えは一つ。今週から始まった生徒会による一夏と慎吾の各部活動へのレンタル。楯無が一夏と慎吾二人に語って見せた正式名称『生徒会出血サービス!織斑一夏・大谷慎吾。W男子貸出しキャンペーン』であり

 そこで全部活動参加。および『織斑一夏部門』、『大谷慎吾部門』の2試合に別れて行われたビンゴ大会で、運動部を押し退けまさかの玉が五回出たのみでビンゴを繰り出して『大谷慎吾部門賞』で一位に輝いたのが美術部であり、放課後になって美術部部室を尋ねた慎吾は瞬間に部員総出で絵のモデルを頼まれ、ショートパンツ一枚と言うあまりにも大胆な衣装に一度は断ったものの、美術部部長と副部長が土下座しかねない程の勢いで『どうか! どうか、この衣装でお願いします!! 我が部の芸術の進歩の為なんです!』と頼み込んで来たために流石に他の部員達もいふ前で仮にも部の長である二人にそんな事をさせる訳にはいかないと慎吾が慌てて折れ、現在の状況に至るのである

 

「(今の私に出来るのは……精々動かず、最初に指定されたポーズと表情を維持しながら早く終わる事を祈るだけか……そう言えばテニス部に向かった一夏は大丈夫だろうか……セシリアもいるから、よもや私のような事には巻き込まれてはいないだろうが……)」

 

 晒され続ける視線に羞恥心は尽きないが半ば強制的ではあるが自分が選んだ道ゆえに誰にも文句を言うことを出来ない慎吾は一刻も早く部活動終了の時間が終わってモデルの役目を終わる事と、一夏の無事を胸の中で祈りながら、じっと耐える続けるのであった

 

 

「そうか、昨日の放課後にそんな目にあっていたのか……どおりで夜中、うなされてた訳だ」

 

「すまん……おかげで迷惑をかけてしまったな……」

 

 翌朝、寮の食堂までの道のりを並んで歩きながら美術部での出来事を光へと慎吾は目元にうすく隈の残る顔で語り、光は思わず苦笑した

 

「どういう訳か、皆が昨日一日の部活動時間で絵をほぼ完成させたらしくてな。二度、皆の前であの格好になる事は無いらしいが……」

 

 そう言うと、部活動の終わり、何故か三日三晩不眠不休で動き続けたように疲労していながらも矢鱈に満足そうな顔で文字通り『燃え尽きた』死屍累々の美術部の部員達の姿と、長時間ほぼ裸に近い姿を近い歳の少女達からあらゆる方向で見られた事で何やら妙な気分になって上手く寝付く事が出来ず、まだ余裕が残されているものの朝の訓練をいつもの半分ほどしか出来ないレベルにまで寝坊してしまった自身を思い出した慎吾は、光につられるように苦笑した

 

「……そう言えば、昨日はお前が酷く疲れているので言うのを避けたが……織斑くんの方も昨日はテニス部でそれなりに大変な目にあったようだぞ」

 

「……一夏がか?」

 

 と、そこで同室の慎吾につられて同じく起床時間が平常時より遅れてしまっているが、特にそれを慎吾に問い質す訳でも無く話を聞いていた光が思い出したかのようにそう呟き、その言葉に反応した慎吾は歩みを進めながら光に視線を向ける

 

「……昨夜、俺が寮に帰宅している途中でテニス部に所属しているクラスメイトに遭遇してな……何やら疲労困憊の上に見て分かる程に落ち込んでいたんで軽く相談代わりに話を聞いたんだが……」

 

「…………」

 

 語り始めた光の言葉を慎吾は相槌もあまりせずに耳を傾ける。その時点で何やら騒動。それも他クラスの生徒達から『名物』と揶揄されてしまうまでに日常的に発生している一夏絡みのトラブルの前兆を感じ取った慎吾の額からは、短い朝練で流した爽やかな汗とは全く違うじとっとした汗が滲み始めていた

 

「何でもテニス部では『織斑一夏、マッサージ権獲得トーナメント』と、言うのが行われたらしくな。俺が話を聞いた彼女は死ぬものぐるいで戦って決勝戦まではたどり着いたんだが、そこで完膚なき程に敗北してしまって、そのショックがまだ取れていなくて落ち込んでいたんだそうだが……更に、もう一つ優勝者がな……」

 

「まさか……」

 

 脳内で慎吾が予想していた事が確信に代わり、思わず声が漏れたその瞬間だった

 

「「今朝セシリアが部屋からパジャマで出てきたってどういうこと!!」」

 

 そんな、学食近くの廊下にまで響き渡るような鈴、そしてシャルロットの声が二人の元に聞こえてきた

 

「……間に合わなかったか……」

 

「……伝達を送らせた俺にも責任はある。今回は協力するさ」

 

 自身が予測していた事より、更に事態が悪化している事を悟り、この騒動をどう平和的に宥めた物かと、朝から大きくため息を吐く慎吾の肩をそう言って光は優しく叩きながら励ますのであった




 ちなみに慎吾のポーズのモデルは、バラージの石像です。

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