二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 すいません遅れてしまいました


117話 キャノンボール・ファスト前夜

「ふぅ……流石に今日の訓練は些か疲れたな一夏」

 

「そ、そうですね……」

 

 寮へと戻る道を歩きながら、未だに止まらぬ汗をタオルで拭いながら少しばかり疲労の色が浮かぶ表情で隣を歩く一夏に同意を求めるように言う慎吾。ちなみに問われた一夏はと言うと遠目で見ても分かる程に疲労しきった顔をしており、足取りはフラフラとおぼつかなく、さながらホラー映画に登場する動く死体を連想させた

 

 ついに大会前日となった今日、慎吾と一夏はラウラがメイン指導の元、慎吾がサブに回り三人でそれこそアリーナ使用時間が僅かに過ぎて、見回りに来ていた教師から軽い注意を受けるほど長く猛特訓を続けていたのだ

 

「二時間以上、ほぼ休みなし。おまけに最後には複合戦としてで慎吾さんとラウラを二人同時に戦うなんてとてもじゃないけど体が持ちませんよ……」

 

 つい先程までアリーナで行っていた、閃光と拳とワイヤーと蹴りと刃がアリーナ中を縦横無尽に飛び交い、冗談や比喩でも無く一撃でもマトモに食らえば即座にシールドエネルギーが底を付きかねないような暴風雨のような戦闘を思いだし、一夏はげんなりとした様子でそう呟いた

 

「はは……それは私もだよ一夏。ラウラも、そして当然一夏も私のコンマ一秒程の隙を狙ってくるような猛攻を仕掛けてくるものだから私は戦いが終わるまでずっと自分に出来る最高レベルの集中を続けるしか無かった。……食事はいつも以上にしっかりと取るとして、食後のトレーニングは控えめにしないと明日には体が持ちそうに無いな。これは……」

 

「……慎吾さん、今から帰ってまだトレーニングするんですか?」

 

 今日の試合を振り返りつつ、静かにこの後の予定を立てる慎吾。と、その言葉の中に聞き逃せないような言葉がある事に気付いた一夏がぐったりとした表情で思わず信じられないように慎吾に問い返した

 

「あぁ……物心つく前から続けていたせいか私にとって毎日の朝夜のトレーニングは毎日の習慣になっていてな。例えどんなに疲れていたり体調が悪かったとしても、少しでもいいからトレーニングをしてから寝ないと熟睡しにくいんだ……それにな」

 

 問われると気恥ずかしそうに慎吾は薄く頬を染めながらそう答えると、静かに日が沈み、一番星が見え始めた空を見上げながら言葉を続ける

 

「終わってから後悔などしないように今日のうちに、やれるだけの事はやっておきたいんだ。皆の実力を見れば容易では無い事は明らかだが……私もキャノンボール・ファストでの優勝を目指しているからな」

 

 慎吾はそこまで言うと再び一夏に視線を向ける。その顔には既に先程差していた赤みは消え、強気な笑顔を浮かべていた

 

「折角だから、ここで宣言しておこう。明日のキャノンボール・ファスト本番は一夏、お前にも、そして皆にも私は負けるつもりなど毛頭無い。全力で挑ませて貰うから覚悟するんだぞ?」

 

「……慎吾さん……。ええ、それは俺もです。負けませんよ!」

 

 一夏も慎吾の宣言に疲労を気力で振り払い、残っている力で出来うる限り精一杯、力強く笑い、ガッツポーズまでしてみせた

 

「そうか……それは、楽しみだ。ふふ、明日が来るのが待ち遠しいな」

 

 釣られたように慎吾もそう言って笑い、一夏と共にゆっくりと寮へと続く道を歩き続けていった

 

 

「(……何か……やけに周囲が騒がしいな……?)」

 

 何やら急に自分の周囲が騒がしくなってきた事に気が付き、慎吾の意識は眠りの中から目覚めていった

 

 未だ覚醒しきれていない意識で目を開くと、シンプルなテーブルの上には一定時間操作しなかった為にスリープ状態になっている慎吾の携帯端末と、書きかけの慎吾愛用のノート。そして飲み干して空になったコーヒーカップがあり、そのコーヒーカップが自室で愛用している物ではなく学食で使われている物だと理解した所で慎吾は自身が眠っていたこの場所が自室では無いことに気が付いた

 

「(そうだ私は、自室で軽いトレーニングをした後にシャワーで汗を流して……着替えた後、学食で一夏達を待つついでに明日に向けた最後の努力をしていた所で居眠りをしてしまったのか……)」

 

 そこまで記憶が甦った自分がした事とは言え、子供じみたあまりにも情けない行動に思わず慎吾は赤面する。なるほど、確かに多くの生徒が集まる生徒が集まる学食で眠ってしまえば騒がしくなるのは当然か。と、結論付けようとした所で慎吾ははたと未だに続く周囲のざわめきを耳にしてある事に気付いた

 

「(いや、しかし……待てよ、いくら食事時で賑わっているとは言え騒がし過ぎはしないか? いや、それどころか騒ぎが徐々に大きく……)」

 

 そう感じた瞬間、慎吾は半ば無意識に騒ぎが大きくなって行く方へと視線を向け

 

「ねぇねぇ、あれ見てよ! あれ!! 織斑くんとボーデヴィッヒさん!! 超お似合い! まさにウルトラフュージョン!!」

 

「あぁ~織斑くんにあんなに触れて、ボーデヴィッヒさんいいなぁ……羨ましい。あ、でも待って、ボーデヴィッヒさんを私がぎゅってだっこするのもそれはそれでいいかも……ぐへへ……」

 

「……あんた、街中でそんな顔してそんな事言ったら逮捕されても文句言えないわよ」

 

 そこにいる学食の入り口付近を指差しつつ、実に楽しげに騒ぎながらそう話す生徒達(役一名ほど、危うい顔で危うい事を言ってる者もいたが)。そして

 

「ちょっ、ちょっと皆、待ってくれよ!? これは別にサービスとか、そう言うのじゃなくて……」

 

「…………」

 

 一体全体、いかなる理由があってそうなったのか細身の体に良く似合う黒いロング丈のワンピースに身を包んだラウラを所謂『お姫様だっこ』の形で抱き締めた一夏に気が付いた。

 

 ちなみに一夏は複数の女子生徒達に囲まれて質問攻めにされて汗を流すほど必死になって弁明をしているのだが騒動はやはりと言うべきか全くといいほど収まりを見せる事は無く。一方で抱き上げられているラウラはやはり恥ずかしくはあるのか頬をうっすらと朱に染めているものの、何故か少しばかり表情は誇らしげであり、良く見れば片手で一夏の服の裾を握っている。

 

「はは……まったく一夏の次の行動を予測するのは困難極まりないな……」

 

 そんな二人を見ていた慎吾は悪いと思っていながらも思わず吹き出してしまった。何にせよ、あんな行動が出来ると言うことは一夏はキャノンボール・ファストを前日に控えても全く緊張をしていないのだろう。その事実を確認して安堵した慎吾は席から立ち上がり、現在進行形でなんとか皆を宥めようとしている一夏に助け船を出すべく歩き始めた


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