二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 一ヶ月以上も遅刻して真に申し訳ありませんでした……。今回の話は大分難産になってしまいました


122話 交差する戦闘

「あらあらエムったらムキになっちゃって。やっぱり最初の一撃で二番目の彼を落とせなかったのはミスかしら? 彼、中々強いもの」

 

 サングラス越しに襲撃してきたゼフィルス。エムと激闘を広げるゾフィーや各種専用機達を見ながら赤色のスーツを着た女性は少し困ったように、しかしどこか楽しそうにそう笑って口にし鮮やかな金髪を揺らした

 

「あぁ、強いと言えばあの子が連れていた。小さな男の子も凄かったわね……光太郎くんだっけ? ふふっ……あの子は間違いなく将来化けるわ……」

 

 そこで女性はこの会場で偶然、遭遇した少女と幼い少年。蘭と光太郎の事を思い返し、光太郎が将来確実に身に付けるであろう強さを想像して再び笑みを浮かべた

 

「あら、随分とご機嫌じゃない。イベントへの強制参加はそんなに楽しかったかしら?」

 

 と、そうして見物とばかりに戦いを視ていた女性の背中から声がかけられる。しかし、女性は振り向かない。何故ならば既に女性は声の主の正体と、自身に近付いてくる『二人』の専用機の事も既に知っていたからだ

 

「IS『モスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)だったかしら? あなたの機体は。……あぁ、もちろんあなたのIS 『ヒカリ』は分かるわよ? あなたのレース、楽しませてもらったしね」

 

「……やはり気づかれていたか」

 

 女性が自身の専用機の名を呼んだ瞬間、柱の影や座席の後ろと言った物陰を最大限活用し、悟られぬように気配を殺してゆっくりと女性に近付いていた光が緊張した顔つきで姿を表した。あまり準備をせずに急行したのかその服装はまだレースで使用したISスーツのままであり激闘を繰り広げた証拠でもある大量の汗後も付着していたが光にはそれを気にする余裕などは無い。

 

 それまでに世間話をするようにあっさりと自分の存在に気付いた女性が驚異的な実力を隠し持っていると気付いていたのだ

 

「このままタイミングを伺って会長が仕掛けるのと同タイミングで俺も飛び出して同時攻撃を仕掛け、あわよくば初手で優位を掴もうと考えていたのだが……どうやら、そう簡単にはいかないらしいな」

 

「あら、光ちゃん以外と大胆な作戦を考えるじゃない。やるわね」

 

 そんな光に楯無は女性から決して目を逸らさないようにしながらも爽やかに笑いかけながら素直に誉め称えた

 

「ふふ、IS学園生徒会長にMー78社の研究部主任の二人と同時に謁見出来るなんて人によっては信じがたい程の奇跡じゃないかしら?」

 

 女性は迫る二人に背中を見せたまま、心底楽しそうにそう笑い

 

 次の瞬間、振り向き様に二人に向かって煌めくナイフが投擲された。その進行方向はさも当然のように人体の急所を狙っており命中すれば確実に二人の命を奪い取る一撃だった。が

 

「マナーがなってないわね……そんな女は嫌われるわよ?」

 

「確かに投擲速度自体は速い……だが、まだ甘い」

 

 その一撃はそれぞれ自身のISを瞬間的に展開させ、楯無は蛇腹剣『ラスティー・ネイル』で叩き落とし、光はナイトブレスから伸ばしたナイトビームブレードで刃をバターの如く軽く切断する事で回避すると、二人はそのまま返す刃で同時に攻撃を仕掛けた

 

「あら、私のマナーが悪いと言うなら、私一人に迷わず二人がかりで切り捨てようとする貴女達も大概じゃなくて?」

 

 だがしかし、女性は余裕綽々と言った様子でサングラスを外して投げ捨てると、瞬間、自身のISを両腕に部分展開させ、楯無のしなる蛇腹剣を右腕で受け止め。光がナイトビームブレードから放ったブレードショットの一撃を左腕で剃らして軌道を反らし二人の攻撃を笑みを浮かべたまま容易く防いで見せた

 

「……一応、聞いておくけど『亡国企業』。狙いは何かしら」

 

 しかし、そんな事は攻撃を放った時点で既に想定していたのか楯無、光の二人は動揺を見せない。ただ、楯無が相手が僅かでも動きを見せれば討って出れるよう警戒しながらそう女性に問いただすだけだ

 

「冗談でも言うわけないじゃない。折角、目の前で予想もしててなかったような楽しいショーが行われているのに、わざわざ貴女達に構うとでも?」

 

 当然と言うべきか女性はそれに応じる事は無く、顔に笑顔を浮かべたまま鋭い殺気を二人に向けて放ってきた

 

「……なら、こちらのやる事は一つ。だな会長」

 

「そうね、無理矢理にでも聞き出して見せるわ……!」

 

 その殺気を前にしても、光と楯無の両者は怯まず宣戦布告でもするかのようにそう女性へと告げた

 

「あら、貴女達二人だけで果たしてそれが出来るかしら?」

 

「望まなくても、成して見せるわよ……『土砂降り(スコール)』!」

 

 そんな短い会話の直後、三機のISは弾かれたように一斉に動きだした

 

 

「ぐうっ……くっ……!」

 

 空中戦の中、まさに嵐の如く、僅かな息継ぎの暇も与えてくれないゼフィルスの連激をついに回避しそこねた慎吾についにゼフィルスのBTライフルが直撃し、慎吾の苦悶の声と共にゾフィーはダメージと衝撃でバランスを失い木の葉の如くふらふらと落下してゆく

 

「ちょ……っ! あんた大丈夫!? しっかりしなさいよ!!」

 

 と、そんな慎吾を偶然、一番近くにいた鈴がゾフィーの背中を支える事で助け、激励の声を飛ばす

 

「鈴……す、すまない、君もダメージを負っているのに……」

 

 疲労を滲ませながら、そう鈴に礼を言いつつその身を案じる慎吾。事実、その言葉の通り鈴の甲龍もまたゼフィルスとの戦いで損傷を受けており、支えられた時点の一瞬で慎吾には片側の衝撃砲が明かに使用不能レベルの損傷。更に手にしている双天牙月の刃も先端部が欠け、刀身に亀裂まで入っているのが見えた

 

「今はあたしの事はいいから! 大丈夫なら早く戦線復帰するわよ!!」

 

 しかし鈴は虚勢か否か、全くダメージを受けている事を感じさせないような口調で言うと上空を指差す

 

「うぐおっ……! がはっ……」

 

「一夏!! うっ……くっ……」

 

「まだ……まだですわっ……!!」

 

 そこでは一夏と箒、そして鬼気迫る表情でセシリアがゼフィルスと空中で激戦を繰り広げている真っ最中であった

 

 だがしかし、3体1と言う優位性を獲得しているのにも関わらず、圧倒的な技量でまるでその差が存在しないかのようにゼフィルスが数で勝る一夏達を圧しており、飛行する術を失ったシャルロットとラウラ二人の援護も空しく、三人の損傷は徐々に広がり、特に最前線でゼフィルスと一夏と箒は今にも倒れてしまいそうな程に疲弊してるのが見てとれた

 

「だ、駄目だ……! 私も行かなくては……!!」

 

 それを見た瞬間、慎吾は気力を込めると、支えて貰っていた鈴の手から離れると体制を立て直し、ゼフィルスを睨み付ける。決死の覚悟で戦ってる仲間とまだ避難が完了していない観客達。この二つを守る為には絶対に負ける事は許されない。慎吾はそう決意し

 

 

「鈴……いきなりですまないが奴に強烈な一打を当てうる可能性が私にある。出来ればその策に行動してくれないか?」

 

 いつでも飛び出せるような体制でゼフィルスに注意を払いながらそう唐突に鈴に言った。

 

「はぁ……あんたねぇ……」

 

 そんな慎吾の背中を見た鈴は大きくため息をつく。一夏に比べれば遥かに短い付き合いで、シャルロットやラウラのように慎吾と兄妹の誓いを立てていない鈴にも、例えこの場で自分が断ろうとも慎吾は短い時間で何とか自分を説得しようと必死になって中々譲ってはくれないのだと言う事が鈴には理解できたのだ。これでは選択などあって無いようなものだ

 

 

「分かったわよ、あんたの策、あたしが付き合ってあげる。……その変わり、必ず決めなさいよ!」

 

「……感謝する! 手短に話すが、それで策は……」

 

 鈴が半ば呆れながら、了承の返事をすると慎吾は途端に仮面の下に小さく笑みを浮かべると鈴に手早く策を語り始めるのであった


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