二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 何とか更新いたしました。何とか週一のペースを取り戻したいと少々、努力をしてゆきたいと思います


133 話 簪と光、光の決意

「し、慎吾さん……俺、やっぱりさっき、わりと不味い事しちゃったんですかね……?」

 

「……少なくとも今は光を信じて、お前は意識して慎重に行動するべきだと私は思うぞ」

 

 背後の一夏には一瞥もくれず隣を歩く光と真剣な表情で会話を交わしている簪の背中と慎吾の顔を交互に見ながら不安げにそう問いかける一夏に慎吾はあえて今は具体的な事を告げず、そう言って一夏を励ます事にした

 

 さて、いかにして現況に至ったかと言うと、時間は数分前、一夏が差し入れの缶ジュースを持ってきた所にまで遡る

 

 

 一夏の登場につい先程まで真剣そのものの表情と態度で会議に参加していた簪は途端、嫌そうな顔をすると一夏を無視し、その隣をそのまますり抜ける形で立ち去ろうとしていたのを咄嗟に慎吾と光が呼び止める形で踏みとどまり、どうにか簪と心の距離を普通に会話してくれる程度にまで縮めたいとせん一夏が手渡して来る缶ジュースを簪が受け取ろうとした瞬間、そこで第一の問題がおこった

 

 この受けとる際、簪は笑顔で正面から缶を差し出す一夏と直接視線を交わさないように若干、視線を反らす形で缶を受け取ろうとしていたのだ

 

『あっ……!』

 

『えっ……?』

 

 その結果、缶を掴む筈だった簪の手は誤って缶を持っていた一夏の手をしっかりと握ってしまい、妙な形ではあるが結果的に見ればまるで簪から求めて一夏としっかり握手を交わしているようになっていたのだ

 

『……っっ!!』

 

 それに気付いた瞬間、簪は弾かれたように一夏の手を離して自らの体に引き寄せ、返す手で呆然としたままの一夏の手から半ば引ったくるジュース缶を受けとると、そのまま背を向けて整備室から立ち去り始めた

 

『あ、ちょ、ちょっと待ってくれ!』

 

 そんな簪を見て一夏も焦っていたのだろう。良かれと思って自身が行ったことが予想外の出来事で悪手となってしまった今、何としても簪をここで呼び止めて落ち着かせ、どうにかタッグを組む話へ持っていこうとし

 

『そうだ……! 俺に一回でいいから簪さんの専用機を見せてくれないかな!?』

 

 結果的に言えばそれが原因で一夏は第二の悪手を打ってしまった

 

『っ!』

 

 一夏がその言葉を発した瞬間、小さな吐息と共に簪が腹立たしげに歯を食い縛る音が聞こえたかと思うと、次の瞬間には簪は右手で一夏の頬に鋭い平手打ちを決めていた

 

『……へ?』

 

『簪!?……待ってくれ!』

 

 突然頬に受けた衝撃に理解が追い付かず呆けた声をあげる一夏を簪は僅かに視線を向けると早足でその場を後にし、若干遅れてその後を光が追いかけてゆき、その後を刺激しないように一定の距離を開けて一夏が光の背中を追いかけるように続き、そのフォローの為に慎吾もまた一夏の後に続き……話は冒頭の状況へと遡る

 

 

「む……一夏、少し止まれ。あれを見ろ」

 

 一夏とならんで歩きながら前方の簪、そして光に注意を払っていた慎吾が何かに気付き、一夏を手で制して歩みを止めさせると、静かに光の背中を指差した

 

「あ、あれって……?」

 

 慎吾に言われた一夏が良く見てみれば、光は簪に気付かれないようにしているのか自身の背中にこっそりと手を回し、手と指で背後の慎吾と一夏に向けたハンドサインを一定のパターンと共に繰り返し送っていた

 

「『問題は昨日今日では解決不能、日を改める

必要あり、詳細は後に伝える』……か、仕方ない。引き上げよう一夏」

 

 光のハンドサインを見て、すぐにその意味を読み取った慎吾は、お手上げだと言うように頭を抱えながら目蓋を閉じると、ため息を吐き出しながらそう一夏に告げる

 

「よ、良くそんな長いメッセージスラスラと分かりますね……」

 

「あぁ、それは以前にも言ったが、光と私は付き合いが長いんだ。だから私と光は自然とお互いに相手の様々な事を良く知っているんだよ」

 

 微塵も迷った様子を魅せず、光からのメッセージを読み上げた慎吾に一夏は驚いた様子で尋ねるが、慎吾はそれを世間話でも言っているように軽く答えると、一夏を連れてその場から立ち去るのであった

 

 

「慎吾、朗報だ。簪が織斑くんに怒りを見せた真の理由が今しがた、俺ははっきりと分かったぞ」

 

 夕食後、日課のトレーニングを終えて自室のベッドに腰掛けながら、リラックスした様子で読書をしていた慎吾に光は戻ってくるなり、そう告げた

 

「光、どうやら自信があるようだが……何か確証はあるのか?」

 

 そんな光の態度が気になったのか慎吾は本を読む手を止めて本を置くと、興味深げにそう光に問いかけた

 

「あぁ、まず本人と良く話し、更に事情を話して実姉の彼女から聞き出した事だからまず間違いは無いはずだ。それを今から説明しよう」

 

 それに対して光は珍しく得意気に胸を張りながら自身のベッドに腰掛けると呼吸を整え、落ち着いた様子で語り始めた

 

 

「……なるほどな。確かにそう言われれば私も納得する事が出来る」

 

 腕組みをしながら光の話を全て聞き終えた慎吾は少々顔をしかめながらそう声を漏らして頷いた

 

「あぁ……結果論かもしれないが、今まで自分の感情を閉ざし、一人で自身の専用機を組み立てようとしていた簪が、織斑君との出会いで今回、怒りを見せたのは寧ろ進歩だと言えないか?」

 

 一方で語り終えた光はと言うと、何処か簪の成長を誇らしげに思っているのか、顔に僅かに微笑みを浮かべ満足げにしていた

 

「その言葉が本当ならば喜ばしいが……そうなると、これからより注意して二人を見守って行く必要があるな? 光」

 

 と、そこで慎吾は目を開き、決意した様子でそう確認するように光にそう告げた

 

「あぁ、今回は俺も全面的にお前に協力しよう。……俺、個人としても簪が生まれ持った才能を彼女自身で消してしまうのはとても悲しい事だからな……」

 

 そう、慎吾の言葉に迷わず返事を返す光の声は何処か悲しげでありながら彼女にもまた、簪を助けると言う確かな想いが感じられた


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