二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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137話 心機一転……?

「なるほど……事情は理解したが……」

 

 一夏からの説明(とは言っても、それは何時ものように『俺と組もうぜ』と話しかけたら何故かいい返事で許可を貰えたと言う簡潔極まりない物だったが)を聞き終えた慎吾は腕を組みながら、小さく唸り声を上げた

 

「と、言うか……思ったんだが、相手から許可を貰った瞬間、有無を言わさず書類にサインをさせる……って、言い方は悪くなるがまるでたちの悪いキャッチセールスのようだな」

 

「うぐっ!」

 

 更にその後に続くように光が思案するように顔をしかめながらそう言うと、一夏は自覚してしまったのか光の言葉を聞いた瞬間、胸を押さえて苦悶の声を上げ、それを見ると光は申し訳なさそうに『悪い、少し無遠慮過ぎた』と、一夏に謝罪した

 

「……まぁ、ともかくタッグが決まったのは今はめでたい事だとしておこう。皆もそれで構わないな?」

 

 何やら気まずい雰囲気が漂い始めた、空気をどうにか晴らそうとしたのか慎吾は普段の口調より少々、大きな声でそう語りかける

 

「では……何時ものように整備室に行くとするか」

 

 誰も反論するものがいない事を確認すると慎吾は先陣を切って歩きだすと、一歩遅れてその後に一夏達も続く

 

『…………』

 

 が、しかし、彼等の間に流れるのは無言。無論、こんな状況は四人の誰もが決して望んではいなかったが、それぞれがそれぞれの理由でいかんせん何時ものようには会話し辛い故にこうなってしまっており、事情を知らぬ端から見ればその光景はまるで、確実に落ちると理解している学校の受験会場に向かう受験生のようにも見えていた

 

 

「なるほど、それが君の専用機。『打鉄弐式』……か、しかし、良いのか簪? 今は協力関係にあるとは言え、一応、私達は対戦相手でもあるのだが……」

 

 トーナメントが近付いているせいか、機体を整備する生徒で溢れ何時にも増して騒々しい整備室。そこで、慎吾は自身がかつて事故にあった親子を救おうとし、初めて動かしたISであり、こうして今も待機状態で腕にある自身の専用機ゾフィーを手にした理由、そして何より、自身が世界で二人目のISを使用できる男性だと発覚するきっかけとなったIS、『打鉄』の後続機であり、発展型でもある打鉄弐式を何処か感慨深げに見つめながらそう呟いた

 

「いえ、私も新武装開発の時にゾフィーやヒカリのデータやスペックは見させて貰ったのでこれは……イーブンです」

 

 打鉄と比べるとより装甲をスマートに、機動的に変わった機体であり、自身の専用機。打鉄弐式を展開させた簪はそんな慎吾の問いかけに、迷いなくそう答えた

 

「ん……あれ? もしかして機体は既に完成している?」

 

 と、そこで慎吾や光と共に並んで打鉄弐式を見ていた一夏が何かに気付いたように、顎に手をあて、首を傾けながらそう呟いた

 

「あぁ、俺と慎吾は大まかな話には聞いていたが……織斑くん、君は打鉄弐式に関しては今日が初めてだったな。まぁ……今日まで簪の方から避けていたから寧ろ知っていたら妙な話だがな」

 

「…………」

 

 光がそう言うと、簪は少し思う所があるのか恥ずかしそうに一夏から視線を外し、簪のその行為の意味が分からない一夏な不思議そうに首を傾げた

 

「確か、不足しているのは……武装と稼働データだったか? 新武装製作に協力してくれた礼に俺のヒカリや慎吾のゾフィーのデータを貸したい所だが、Uシリーズそのものが他のISと比べてもかなり独特でな……。すまん、力にはなれそうにない」

 

 しげしげと打鉄弐式を見返しながら光はそう、申し訳なさそうに簪に言った

 

「だがしかし、俺達二人が駄目だとしても今ここにもう一人、君の力になれるデータを持つ物がいる」

 

 と、その直後、光は首を動かし一夏へとその視線を向けた

 

「織斑くん、打鉄弐式の武装にはマルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイルに加えて、荷電粒子砲が採用されている。白式のデータが役立つ時だとは思わないか?」

 

「……! 確かにそうですね!  よぉし……」

 

 光の言葉によって一夏ははっと気が付いたような仕草を見せると白式のコンソールを呼び出してデータを探りながら躊躇いもなく簪へと一気に近付いていった。と、その瞬間に簪の頬が朱に染まり、簪は恥ずかしそうに視線をそらす

 

「……すまん慎吾、俺としてはこれからタッグを組む二人がこれを切っ掛けに互いに親身に話せるようになると思って言ったんだが」

 

 そんなあまずっぱい恋の始まりの予兆を見せる簪の様子を見て光は結果として自らの成した事が、ただでさえ箒や鈴、シャルロットと言った一夏に明らかな恋愛感情を持っている者が五人もおり、その五人を例え妹言えども一夏をめぐることで贔屓しないように、かつそれぞれ揉めないように連日の如く気をかけて熱心に動いている慎吾に更なる負担をかけてしまうかもしれない。口にしてからそう気付いた光はばつが悪そうに慎吾に謝罪した

 

「何、気にするな光……君に悪気が無かった事は分かっているし、判断も間違っていないさ」

 

 それに対する慎吾はこれから自信に降りかかる事になるであろう負担の予感に、じんわりと胃が痛み始めるのを感じながらも決して光に苦言を言うことも無く、少々ひきつった笑顔でそう光に答えるのであった

 

 

「おーりーむー。かーんちゃーん~。あー、しんにーに、せっちゃんも~」

 

 何はともあれ心機一転、一夏と簪、慎吾と光の本来のタッグメンバー通しの二組に別れ、時折互いに意見交換をしながら機体調整を続けていた最中、ぱたぱたぱたっと言うような可愛らしい足音と特徴的な間延びするような呼び方で人を呼び、一夏からは、のほほんさんと呼ばれる少女、本音が姿を表し、(おそらく当人としては駆け寄っているつもりなのだろうが)隣を歩く生徒よりも遅い速度で此方へと近づいてきた

 

「君は……本音か。ところで……せっちゃん。と、言うのはもしかして俺の事なのか?」

 

 突如として呼ばれた『せっちゃん』と言う、童謡を思わせるような可愛らしい名前に光は困惑で顔をひきつらせ、恐る恐ると言うように簪へと問いかけた

 

「そうだよ~、せりざわ。だから、せっちゃん~。いいでしょ~」

 

 しかし、本音はそれを気にした様子は無く、無邪気に光に向かって本人の体の動く速度同様の、ゆったりとした口調でそう言い切り、最後には笑顔さえ向けて見せた

 

「そ、そうか……俺としてはその呼び方は少し、恥ずかしいんだけどな」

 

「え~? そんなことないと思うんだけどな~?」

 

 そんな風に一切の悪意が無い表情を向けられた以上、光は強く拒絶する訳には行かず、結果としてお茶を濁す程度の言葉でやんわりと呼び方を変えるように本音に頼むが、本音にその秘めた想いが通じた様子は無く、本音は光の言葉にそう言って不思議そうに首を傾げるだけであった

 

 


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