二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「い、ち、か……織斑、一夏……」
一年寮の自室のシャワールームで熱めのシャワーを浴びながら胸を高鳴らせながら簪は静かに、しかし想いを込めて一夏の名を呟く。その顔はまだシャワーを浴び始めてさほどの時間が立っていないのにも関わらず、朱に染まっており、その声色には今日の事故が起こるまでは朧気でしか無かった愛情がはっきりとした形となっていた。
そう、それこそ、あの事故の後に一夏への礼と共に心が想うまま一夏の手を握り、下の名前で呼んでいいと言ってしまうまでは
「格好……よかったなぁ……二人とも……」
恍惚しているかのような口調で簪は再び呟く
そう、今現在、簪の心を大きく占めていたのは自覚する事が出来た一夏への恋心ではあったが、それと同時にまるで当然の事であるように一夏と自身の二人をしっかりと抱き止めて救助した慎吾への感謝と、自身の好きなテレビに出てくる完全無欠ヒーローを見ているような憧れの気持ちを抱いていたのだ
「二人がいてくれるなら……きっと私も……」
簪にとっては出会ってまだ一月も過ぎていない筈の一夏と慎吾。端から見れば奇に思えるかも知れない事だが今の簪にとっては憧れであり、優秀で強く、かつ魅力的で、決して手が届かない程に完全無欠にして、優しい自身の姉、更式楯無を前にしても押し潰されない勇気を、そして心を奮い起たせてくれる力を与えてくれる存在へとなっていた
◇
「よし…いよいよ最後の工程だ、光、高周波カッターを取ってくれ」
タッグマッチ大会前日の夜、第二整備室で慎吾は空中ディスプレイと睨みあいをしながらウルトラブレスレット制作、その最後の作業に取りかかっており、慎吾の顔からは緊張と長時間の作業を続行した事による疲労が滲み出ていた
「あぁ、任せろ。……お前が立案者だとは言え本当に今までよく頑張ったな、慎吾」
そんな慎吾に何でも無いような様子で高周波カッターを渡す光の表情にはやはり、幾分かの疲労と緊張が隠しきれてはいなかったが、それでも慎吾に最後の鼓舞の言葉を送り
「……勿論、皆も言わなきゃな。本当に手伝ってくれてありがとう。本来は簪の打鉄弐式を完成させる為に集まったメンバーなのにも俺達のウルトラブレスレット完成に力を貸してくれるとはな……」
続けてそう言うと、背後で固唾を飲んで見守っていた何人かの二年生整備科メンバーに向かって振り返った
「気にしない、気にしない! 僕ら君や大谷君が好きで隙を見て手伝っただけだからね!」
「そもそもだやぞ光? こんな常識を大きく覆すような発明品を目の前にして見るだけでおあずけなんて整備科としては生殺しもいい所や!」
「そうデスよ! それに私達はfriend! 困った時は持ちツ持たれつ……デス!」
と、光の感謝の言葉に様々な体格、髪型の整備科の三人の生徒が口々にそう笑顔で答え集まっている他の整備科メンバーも同意するように頷いた
「井出……堀井……それにショーンも……このウルトラブレスレット完成は君達の助力無しでは出来なかった……本当にありがとう。君達の善意に心から感謝する」
三人から向けられた暖かい言葉に慎吾は胸が温かくなって行くのを感じながら光から受け取った高周波カッターを動かし、最後の行程を終えた
「出来た……これが今、出来る技術全てを積み込んだウルトラブレスレット。……名付けるならウルトラブレスレットプロトタイプと、言った所か」
慎吾が部分展開させたゾフィーの腕で完成したての銀色に菱形の装飾が特徴的なブレスレット。ウルトラブレスレットを手に取るとその瞬間、周囲からわっ、と歓声があがった
「お、大谷くん? 良かったら……なんだけど早速、そのウルトラブレスレットプロトの性能の一部をここで見せてくれないかな?」
と、そんな慎吾に向かい少しおどおどした様子がらも何処か期待と興奮を隠しきれない様子で一人の女子生徒、井出が懇願するように話しかけた
「あぁ、勿論。ここでウルトラブレスレットを使ってみるつもりだよ。無論、安全性を考慮したものを出すが……なっ!」
井出の言葉に慎吾は軽く頷いて答えると、少しだけ緊張した様子でウルトラブレスレットをゾフィーの腕に装着すると力を込めて声を発し、その瞬間、腕に装着されたブレスレットが目映く光輝き、慌てて近くにいた何人かの整備科の生徒が目を手で覆った
「成功した。これがウルトラブレスレット第一の携帯。その名もウルトラディフェンダーだ」
光が収まるとウルトラブレスレットはその形をブレスレットから大きく変え、ブレスレットと同じ銀色が目映い一枚の盾となってゾフィーの腕に装着されており、再び整備科のメンバーからは歓声があがった
「うむ、見事にウルトラディフェンダーは当初の設計通りに完成したな。脳波コントロール装置には何ら問題はなさそうだ」
出現したウルトラディフェンダーを見てそれこそ、慎吾が発案した時から側にいた光は計器を用いてウルトラブレスレットが問題なくディフェンダーへと変化出来ている事を確認すると、満足して頷いた
「以降の装備は後々、ブレスレットに組み込んで行くとして、一先ず現状はこのウルトラディフェンダーと……おや、向こうも完成したようだな」
チェックを行う光にならって自身もコンソールを使い、ウルトラブレスレットが現在、移行させる事が出来る形態を慎吾が確認していると、慎吾達とは反対の方角、つまりは打鉄弐式の制作に関わっていた簪を初めとした一夏や残りの整備科メンバー達から歓声が上がり、それによって慎吾は打鉄弐式が満足出来るレベル形で完成へと至った事へと至った事を悟った
「当初はどうなるものかと思ったが……薫子と京子。あぁ、それからフィーに本音の働きも大きかったな。ともかくその四人が来てから大きく進歩したな……しかし、何より忘れては行けないのは……」
ウルトラブレスレット開発のさがら、打鉄弐式の開発について簪、一夏の両名から話を聞いていた光は感慨深げに呟いていたが、その声は周囲のざわめきにかき消され、最後までは隣にいた慎吾以外は聞き取れる事が無かった
◇
「ふぅ……やはり、一汗書いた後のシャワーは落ち着くなぁ……」
シャワーを終え、部屋着へと着替えを終えた慎吾はタオルで汗を拭いながら慎吾は気持ち良さそうに部屋を出る。
と、言うのも慎吾はウルトラブレスレット開発を終えた後、一夏が機材の後片付けをしているのを手伝い、ある程度の汗を流すのと同時に着ていた作業着を機材の思わぬ汚れで汚してしまっていたのだ
「確か光が指定していたのは……っ!」
そして今、現在、慎吾は先にシャワーを利用した光が提案した慎吾、光、そして簪の三人きりでのひっそりとしたウルトラブレスレット完成記念パーティーに参加すべくゆっくりと廊下を歩いていた。と、その時だった
「---ッッ!!」
廊下の向こう側を遠目から見て分かる程に悲壮感に満ちた顔で目一杯に涙を浮かべ、両手で何かを抱き締めたまま簪が走り去って行くのが慎吾の目にはしっかりと見えていた
「おい簪! 待て! 何かあったのか!?」
その姿を見た瞬間、慎吾は迷うこと無く簪の元へと向かって走りだして行った