二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「時間切れか………互いのチームの残りシールドエネルギーは………」
「はぁ……ひ、引き分け……ですわね……」
「くっ……流石に零落白夜とゾフィーの光線技の二つが相手では攻めあぐねる……」
時間切れを知らせるブザーと共に、ゾフィー、ブルー・ティアーズ、打鉄が一斉に攻撃の手を止めて制止する。戦闘で乱れた息を整える慎吾、セシリア、箒は多少の差異はあるが三人とも汗を滲ませており、表示される互いのISのシールドエネルギーの平均低さが熾烈を極めた戦いを否応なしに連想させた。
そんな中、流石に疲労を見せている箒とセシリアを遠目に見ながら慎吾は額の汗を軽く拭い、アリーナの地面を歩いて他の三機に比べても特に少なく、首の皮一枚と言った様子でギリギリシールドエネルギーが残って倒れている白式を助け起こし、肩を貸して起き上がらせる。
「大丈夫か一夏?………すまない二人に翻弄されて何度か援護が遅れた」
「ぜぇぜぇ……い、いいですよ……ぜぇ……慎吾さんがいなかったら……俺袋叩きでボロ負け確実でしたし……」
謝罪する慎吾に、今にも消えそうな弱々しい声と、非常に荒い息、そして滝のような汗と正しく疲労困憊と言った様子の一夏が弱々しく笑いかける。
「無駄な動きがまだ多い、鍛えてないからそう……いや、これほどまでの接戦では無理もないか……」
そんな一夏を見て箒は軽く睨み付け叱責しようとしたが、ふと自身の体からも未だに汗が滲み出ている事に気がつき、言葉を止めた。
「ほ、箒、頼みがあるんだが……」
と、そこでゾフィーに肩を貸して貰った状態のまま一夏が箒に話しかける。声は幾分か落ち着いたのか、大分元に戻っていた。
「今日は先にシャワー使わせてくれよ……流石にこの汗のままじゃあ……」
「……あぁ、私は構わないぞ。早く汗を流しておけ」
声や呼吸こそ落ち着いて来たものの未だに滝のごとく流れている汗に気づいた箒は少しの間を了承する。
その後、四人は今回の訓練を振り返って軽く話し合うと、男女に別れてそれぞれのビットに戻っていた。
なお、一夏と共に慎吾がビットに戻る際に箒とセシリア両名から若干恨めしげな目で見られたのだが、疲労している一夏を気にしていた慎吾は気付く事は無かった。
◇
「一夏、今日の訓練での動きは良かったぞ。頑張っているようだな」
ゾフィーの展開を解除し、ピット内で常備していたタオルで顔の汗を拭いながら慎吾がそう一夏に告げる。
「あ、ありがとうございます慎吾さん!」
言われた一夏は慎吾と同じく汗を拭っていた手を止め、非常に嬉しそうに頭を下げてすぐに返事を返す。
と、そんな一夏を横目で見つつ、慎吾はぽつりぽつりと静かに口を開き始めた。
「初めて戦ってた時に思ったんだが……一夏には生まれつきの才能がある。一夏は私より確実に強くなる……そう思うんだ………」
「お、俺が慎吾さんよりですか!?まさか、そんなぁ……」
慎吾の言葉を聞いた一夏は信じられない、と言った様子で慌てて手で制してそれを否定する。
「何、謙遜する必要は無い。それに、これはあくまで私個人の意見だからな」
しかし慎吾は特に気にした無くそう言いながら、最後に小さく笑う。と、その時だった。
「一夏っ!おつかれ!」
ビットのスライドドアが開き、そう元気良く言いながら鈴が入ってきた。
「はい、これ濡れタオル。あとスポーツドリンクもあるわよ」
鈴はそう言いながら次々と一夏にタオルとペットボトルを手渡す。
「お、サンキュー鈴!……お、しかもこのスポーツドリンクちゃんとぬるめだ……」
「えへへ……それが良かったんでしょ?」
濡れタオルで体についた汗を拭き取りっていた一夏は思わぬ鈴の配慮に気が付き思わず感嘆の声をあげ、それを聞いた鈴もまた嬉しそうに笑い、気付けば自然と二人は楽しげに会話を始めていた。
「一夏と鈴……二人は本当に仲が良いんだな。私も少し羨ましいくらいだ」
そんな二人を自身は会話に参加せず、微笑ましく見守りつつ着替えていた慎吾が着替えを終え、未だに会話を続けている二人に呟く。
「ふにゃっ!?……い、いきなり何言ってんのよアンタは!」
その一言に鈴は一瞬で顔を真っ赤にし、大分うろたえた様子で答え。
「セカンド幼馴染みですからね、仲良いのは当然ですよ!」
一夏は一切の悪気が無いであろう矢鱈に爽やかな表情でそう答えた。
「「…………………」」
瞬間、鈴と慎吾二人の沈黙が重なる。その沈黙は言葉にこそしなかったものの確かな呆れが共に浮かんでいた。
「な、何だよいきなり?………ってか、慎吾さんまで」
そんな二人の態度に一夏は軽く冷や汗を流し二人に訪ねる。
「べっつにー……」
その言葉に鈴はぷいっと視線を反らしながら面白くなさそうに答え。
「一夏………それはお前の良さの一つなのかも知れないが……人を傷付けてしまう事も同時にあるんだ。発言には気を付けろ」
「うぇっ!?」
慎吾は一夏の肩に手を置いて真剣な眼差しでそう告げ、そんな慎吾の態度の変化に一夏は不意を付かれて奇声を上げ、混乱した。
「まぁ、考えるのは後で構わない。今は早く着替えを済ませておけ」
そう、一夏を落ち着かせるように言い聞かせながら慎吾は表情を緩ませて視線をゆっくりと外す。
「そ、そうですね……今日はせっかくシャワーの順番を譲って貰った事だし」
慎吾の言葉に何とか一夏は落ち着きを取り戻し、そう元気良く答えた。
「シャ、シャワー!?しかも『今日は』!?ど、どういう事よ一夏!!」
………最後にとんでもない爆弾を残して。
「(………注意はしたが早速か……)」
食い付くように次々と一夏に質問していく鈴、状況が上手く出来ておらず困惑する一夏。そんな二人を眺めつつ慎吾は小さく、これからどう一夏をフォローすべきかと悩んで溜め息をつくのだった。
いつも皆も見守ってピンチの時に駆けつける………慎吾をそんな尊敬できるお兄さんにしようと苦戦しながら書いてます。