二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「そんな……そんなバカなっ……!!」
熱と黒煙が立ち込める廃墟同然のアリーナの中、まるで力が入らない体でそれでも光は目を見開き、かすれそうな声で叫ぶ
先ほどのベリアルの声は自分の恐怖心から生まれた幻聴ではあると信じたかった
だがしかし、いくら瞬きしようともベリアルは表面装甲に多少、焼けただれた後があるものの、それでも確かにボロボロになったアリーナの大地に立っており、それがダメージで身動きすらままならぬ光にどうしようも無い絶望を植え付けさせていた
「俺にバトルナイザーを持たせまま切り札を使う。その時点でお前はミスしてたんだよ……こんな風に出来地舞うからなぁ!」
一方のベリアルは光を無造作に見下ろすと、手にしたバトルナイザーを棒術の型を見せるように器用に腕を動かし、自身の周囲で勢いよくバトルナイザーを回転させてみせる
と、その瞬間、ベリアルの周囲に立ち込めていた熱気と黒煙はたちまちのうちに吹き飛ばされてゆき、数秒程でウルトラダイナマイトの余波でサウナのような熱気が立ち込めるアリーナ内でベリアルの周囲の気温だけがアリーナ外の外気温と大差ないレベルにまで下がっていった
それを見た瞬間、光はベリアルがいかにしてウルトラダイナマイトから逃れたのかを察する
「(俺が気絶した隙を突いたのか……!!)」
そう、光はウルトラダイナマイトを発動させた瞬間、あまりの破壊力で意識を失い、それと同時にガッチリとベリアルを締め上げていたヒカリの両腕での拘束は僅かながら緩んでいたのだ
ベリアルはそのほんの僅かな時間を使い、爆風が自身に命中するよりも早くヒカリの腕から逃れ、瞬時加速も用いて飛び退き、距離を稼ぐとバトルナイザーを素早く回転させ、迫り来る爆風と衝撃波を霧散し、被害を最小レベルにまで留める
もはやいくら高性能なISを纏っていたとしても人間に可能な領域を超越している技ではあったが、それしか可能性は無かった
「(何故だ……何故、ここまでの連戦、それも相手は教師陣や代表候補生達も加わってパワーが枯渇しない……!? 何故、常に全力で戦闘する事ができる!?)」
呼吸も困難なばかりの苦しみと薄れゆく意識の中、もはや戦闘出来ぬ相手に用は無いとばかりに嘲笑うベリアルの視線を受けながらヒカリの頭の中にあったのは、ベリアルへの恐怖でも怒りでも無く、先程から見せ付けられ続けるベリアルの異常なまでのスペックへの疑問だった
「うっ……ぐ……」
M-78社やケンを半ば裏切るような形で持ち出した切り札さえもが通用しなかった上に反動でこのダメージ。もはや自分は戦う事など出来ない。だがしかし、光は諦めずに最後の力を振り絞り、油断しきっているのか無警戒のベリアルに壊れかけたヒカリのハイパーセンサーを向け
「あっ……」
その瞬間、全く光が意図しない形で奇跡は起きた
どうみても苦し紛れの最後のあがきにしか見えない光のこの行動、しかしセンサーがベリアルの持つ『バトルライザー』を捕らえた瞬間、そこに隠された秘密を知った
「(まさか……これは……!?)」
それがウルトラダイナマイトの破壊エネルギーで僅かに損傷した故に感知出来たのか、それとも単なる偶然なのかは光には分からない。だがしかし、それは間違いなく無敵のような強さを見せつけるベリアルを撃破する為の重要な鍵になるに違いなかった
「(伝え……なくては……!)」
ヒカリはその想いだけで最後の力を振り絞ると、右腕を動かし、その瞬間、今度こそ意識を失った
◆
「はっ……ハッハッハッハッハッハッ!」
意識を失い、力無く倒れているヒカリを見下ろしながらベリアルは突如『堪えきれない』と言った様子で大笑いを始める
「いやいや……この学園に来てずっと雑魚ばかりを相手していてな、いい加減飽きてきたんだよ……」
ベリアルが真っ直ぐ見据えるのは半壊したアリーナのはるか上空。そこから一機のISが悠然と真っ直ぐに自分に向かって下りてくるのが見えていたのだ
「とうとう出たな! ブリュンヒルデ!!」
「参る」
そこにいたのは打鉄を纏った千冬だった。千冬はベリアルにただ冷たく一瞥と共に一言だけ呟くと更に加速し、一直線にベリアルへと向かっていく
「ふっ……ははははははっっ!!」
そんな千冬とは対照的に、ベリアルはようやく現れたターゲットをぶちのめすべく、バトルナイザーを構えながら大地を蹴って飛び立つと一気に加速する
瞬間、アリーナ上空で打鉄の白とベリアルの黒、その二色が互いに獲物を構え、激しく交差した
「がっ…………!」
近接ブレードとバトルナイザーが交差すると、ベリアルは苦痛の声と共に体制を崩す。見ればその胸部装甲にはたった今、千冬に斬られたらしい、刃での傷跡が残されていた
無論、そんな隙を千冬が逃す理由も無く、ベリアルが反応する事すら許さないとでも言うように、振り向き様千冬が近接ブレードによる二撃目をベリアルに向かって放つ
「ははっ……!! そうだ、それだ! それでこそ倒す価値がある!!」
が、しかし、ベリアルは心底楽しそうに笑いながら、その一打を片手に持ったバトルナイザーで軽々と受け止めると、すかさず体を捻らせて千冬の腹部に向けて右脚で前蹴りを放つ
「遅い」
しかし、この一撃を当然のように千冬はベリアルが蹴りを放つ前から既に読んでいたかのような動きで、ベリアルの蹴りを避けるのと同時に、蹴りを放った事で僅かにバランスが緩んだベリアルをの懐に入り込むと、瞬時に柔道にも似た動きで空中へと投げ飛ばした
「はっ……これも読むかよ! おっと!」
攻撃を塞がれ投げ出されたのにも関わらずベリアルの余裕は崩れない。むしろ心地よさそうに笑うとすかさず空中で瞬時に体制を整え、投げるのと同時に放たれた千冬が二連続で放った近接ブレードの刃での追撃を異様な体勢から新体操のような動きで軽やかに避けてみせる
「今度はこいつはどうだ!」
と、避けながらもバトルナイザーにエネルギーを貯めていたベリアルは、千冬が刃を戻すほんの短い感覚をついてバトルナイザーを向け凄まじい破壊力を持つ青白く輝く電撃を発射する
「……その程度で初代ブリュンヒルデに挑んだのか?」
その攻撃を前に千冬は挑発するかのように薄く笑うと、迫り来る電撃をまるで紙切れか何かの如く余裕を持って近接ブレードを振るい、一刀両断の元に電撃を切り伏せて見せた
「ぐっ……おっ……!?」
しかも、それだけでは無い。千冬の斬激はあろうことか、十二分に距離を取っていた筈のベリアルの頭部にまで届き、殺気に反応して咄嗟に体を捻って回避したベリアルの頭部装甲の一部が浅く切り裂かれ、その衝撃と動揺でベリアルは思わず声をあげて怯み、千冬の前で僅かな隙を晒した
「……!」
が、その瞬間、弾かれたように千冬は背後へと飛び退きベリアルから距離を取る。と、その行動が終わらないうちに、先程まで千冬がいた場所にバトルナイザーから伸びた光の鞭が宙を舞い、僅かに打鉄の装甲を掠めてその一部を裂いた
「ちっ、これも避けるかよ……」
それを見ながらベリアルは舌打ちしながら易々と鞭を引っ込め、再び千冬に向かいバトルナイザーを構える
「…………」
『厄介な相手だ』決して口には勿論、態度にも微塵も出さぬものの、千冬は密かにベリアルに対してそう感じ始めていた