二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「なっ……んだ、これは……!」
目の前の光景に思わずリヴァイブを展開させた一人の
教師は思わず自身の立場も忘れて、直感的に感じた事をそのまま口走る
千冬が謎のISを纏った侵入者との戦闘を開始したとの情報を入手し、謎の侵入者の異常とも言える戦闘能力を前にされるがままにされた事ですっかり意気消沈していた教師陣は、途端に熱を取り戻し僅かに残った動ける者達をかき集ると、援護するべく我先にと千冬と侵入者が激突している、アリーナへと集合していた
「…………」
だが、半壊したアリーナの前に集合し、視線の先に激戦を繰り広げる千冬とベリアルの姿を見ながらも誰も援護に移ろうとする者はおらず、ただ呆然とした様子で立ち尽くしていた。いや、そうせざるを得なかったのだ
「はっ! はははぁっ!!」
目の前で心底楽しそうに獲物を振るい、無数に互いの獲物をぶつけ合いながら、ベリアルは激しく千冬と『対峙』していた
そう、戦えてしまっていたのだ。ここにいる教師陣は勿論、世界中の多くの人々が世界最強だと認めるであろうブリュンヒルデである千冬を前に、ベリアルは互いに一歩も引かないような猛スピードで激戦を繰り広げる事が出来ていた
それがあまりにも信じがたい、まさに悪夢のような光景である上に、もはや二人以外にはその残像をかろうじて捕らえられる事しか出来ぬ人知を越えた激戦に、駆け付けた誰もが支援どころか、動くことが叶わなかったのだ
「ぐっ……うおおおっ!!」
しかし、それはあくまでも『普通』の目で見た視点の話であり、実の所、ベリアルと千冬の戦いはまもなく決着がつこうとしていた
「どうした、もう手詰まりか。私を倒すのだろう?」
「ちっ! ……流石にブリュンヒルデと戦うまでに遊び過ぎたか……」
近接ブレードを構え、余裕を持ってそう語る千冬にベリアルは舌打ちをしながらそう返事をする。千冬との戦いでベリアルの装甲には幾重もの傷が付き、制御システムも安定していないのか浮遊しながらも波間に揺られる舟のようにふわふわと宙を上下していた。しかし、それでも尚、ベリアルは勝負を捨てておらず、バトルナイザーを千冬に向けている
「これで終わりだ」
そんなベリアルに千冬は何の躊躇いも無く、踏み込み、一気に近接ブレードで斬りかかる
「うっ……おおおっっ!?」
その攻撃をベリアルは咄嗟にバトルナイザーで受け止める。が、その瞬間、ベリアルの体はバットで打たれた野球ボールの如く、背中から勢いよく吹き飛ばされていき、最早残骸と化したアリーナに激突し、大きな土煙をあげる
「おお!!」
その瞬間、凄まじい決戦を前に最早、見物している他に手は無かった教師陣はどう見ても決着となるであろう千冬の一撃に感嘆の声をあげる。その顔から最早、恐怖は消え『やはりブリュンヒルデには誰も勝てないのだ』と言う確信が見えていた
「………………」
だがしかし、ベリアルを吹っ飛ばした筈の千冬本人は違和感を感じていた
確かに、今の一撃は迷う事無く本気で斬りかかった。だがしかし、だ。それで、あれほどまでに派手にぶっ飛ぶだろうか? 今の今まで自分に食らい付き、幾度も喉を食い破ろうとしてきたベリアルと言う相手が
「織斑先生! 後は私達にお任せを!!」
「ヤツを確保します!!」
千冬がベリアルが叩きつけられた方角に向けて近接ブレードを構えていると、もはや決着はついたと早合点したのか数人の教師が土煙へと向かって飛び立つ
「待て! 今はまだ……!」
ベリアルの行動に妙な違和感を感じ続けていた千冬は咄嗟にそれを静止しようとする。が
「うっ!? うわあぁぁっ!!」
「なっ!? これは一体!?」
その言葉は土煙の中から飛び出して来た、それぞれカミキミムシとクモに似た外見を持つ大型の二機の銀色のロボットがISを纏った教師陣を襲撃してきた事で強制的に中断させられた
「ハッハッハッ……ブリュンヒルデ! 今回は退かせてもらうぜ!」
その瞬間、立ち込める土煙を軽々と吹き飛ばし、ベリアルが大声で笑いながらその姿を表し、その瞬間に千冬以外の教師陣は一斉に銃の照準をベリアルに向けて、引き金に指を伸ばす
『!?』
が、土煙から現れたベリアルがいつの間にかバトルナイザーを持つ手、その逆側に握られている物を見た瞬間、全員がトリガーを引こうとする指を止めてしまった
「(やはりこのつもりで『わざと』吹っ飛ばされたのかアイツは……! あの瞬間、既に撤退するつもりだったか……!)」
その瞬間、先程のベリアルの行動の真意を理解した千冬は、言いように利用された事に内心で静かに怒りを感じる。が、同時に千冬もまたすぐには動くことは出来なかった。そう何故ならば
「だが……こいつは俺が預かって行く」
ベリアルの手に握られていたのは気絶し、口元から一筋の血液を流しながら身動き一つしない慎吾だった
「分かるなブリュンヒルデ? こいつを返してほしけりゃお前は俺とタイマンでやり合うしか無いんだよ……!」
そんな千冬を嘲笑うようにそう言うと動かない慎吾をISの腕でガッチリと拘束したまま見せつける
「…………!」
それは、あからさま過ぎる挑発であった。
が、しかし千冬は動かない。隙は非常に小さいがなりふり構わず、それこそ攻撃に巻き込まれた慎吾が負傷する事さえ全く無視して飛び出せば、間違いなくベリアルに引導を渡せると言うのに千冬にはそれが出来なかった
そう、何故ならば
『私に出来る全力で為して行きます。今までも……これからもです』
千冬は教師として一夏を通じて慎吾と一般生徒達より数歩程、深い交流を持っていた。彼の内心の想いや、その願いを知ってしまっていたのだ。だからこそ、慎吾を負傷させてしまうかも知れぬと言うリスクを前に千冬は歯噛みしながらも、生徒を想う一人の教師として動く事が出来なかったのだ
「それじゃあ……再戦を楽しみにしているぜブリュンヒルデ!!」
結局、千冬はそんな嘲りの笑いと共にどこからか呼び出した大量の銀色のロボットと共に、バトルナイザーから電撃の雨を降らせながら立ち去るベリアルを見送ることしか出来なかった
「大谷くぅぅぅうううんんっっ!!」
ベリアルが呼び出したロボットを駆逐した後も、千冬の救援の為に駆け付けた真耶の慟哭の叫びはいつまでも響き続けていた