二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
最初に彼がそれに気付いたのは牢獄に捕らわれ、いよいよ怒りより飽きが上回り始めた日の事だった。
「あん…………?」
拘束されほぼ首しか動かせぬ自身の視線の先、特に意味もなく暇潰しに見ていた単なる無機質な壁があるだけの筈の空間。そこが突如として歪んだかと思えばそこに悶えて苦しむ一人の地球人の姿がディスプレイ画面のように映し出されたのだ
「なんだこれは? あいつらの仕業……じゃあねぇだろうな……」
彼、かつてウルトラマンでありながら力に惹かれて悪の道を選び、光の国に反旗を翻したベリアルは訝しげにそう呟きながらも他にやることも無いので、見え始めた映像に視線を向け続ける。
意識して聞いてみれば直ぐに、そこにいる人間の口走る事が地球の事にしては全く聞き覚えの無いことあまりにもそこに映る人間の姿が激しく苦しんであげき、今にも死にそうな程に衰弱していたのでこの映像が自らをここに閉じ込めた『地球人にお優しい』連中が見せている物ではない事を理解した。
「……ふん、放っておいても直ぐに死ぬなありゃあ」
映像に映る地球人、過酷かつ非情な状況に苦しむ若い女性に触手の如く蠢きながら黒い物質が襲い掛かる姿を、何とも思わぬ様子でベリアルは見ていた。例え出来たとしても端から助けるつもり等は無い。彼は多くの同胞とは異なり、地球人に特たる興味を持ってはいなかったのだ。が
『や……めろぉ……! オレさまがっ……!! あ……ぐ……』
「………………!」
呻く女性のその一言を聞いた瞬間、ベリアルは身体をぴくりと動かして反応する。その瞬間に気が付いたのだ。その声の調子、苦悶の様子。そして何より状況そのものが自身の過去
光の国を追放されてレイブラッド星人に力を与えられた状況と性別以外は『まるで同一人物』と言うレベル酷似している事に
「く、クハハハハ……!! こいつは面白いじゃねぇか……! どうやら……思っていたより楽しみがいのある暇潰しなりなりそうだ……!」
ベリアルは身体を動かせぬ状況なのにも関わらず、声を上げて笑った。これが例え自分を利用しようとしている物の仕業だとしても関係は無い。どうせいつ出れるとも分からぬ投獄中の身だ。面白い見世物を見せられたからには駄賃を払ってやろう。そう決めるが否やベリアルは直ぐに行動に移す
『くっ……ククク……気が変わった……』
謎の空間の歪みから見える女性に向かってベリアルはテレパシーを送る。今の身体は拘束されて指一本動かすことは出来ない。しかし、こうして相手の姿がはっきり見えるほど近く、精神防御の方法などは知らない生物に対して念話のような形でメッセージを送るのはそう難しい事では無かった。だからこそベリアルは全く落ち着いて……『この状況に陥った自分なら』求めるであろう力を、自身が使用した中で理解したギガバトルナイザーの仕組みや作りを知識とし人間に送る
『これで精々、好きに暴れまわれ……この世界の【俺様】よ』
最後にベリアルがそう告げた瞬間、空間の歪みは圧縮されたように急速に縮こまって小さくなり……やがて溶けるように消えてなくなり後には数分前と変わらぬ殺風景な風景が帰ってきていた
「……ク、ククク……さぁて……アイツはどう暴れるかな……?」
歪みが消えた後もベリアルは含み笑いを続ける。この瞬間、捕らわれた事への怒りや退屈は既に吹き飛んでいた。自分が知識を与えたあの人間が、直感的に理解した並行世界の自分とも言うべき存在が、どう暴れるのか、世界を目茶苦茶にするのか? ベリアルはただその事を考えて笑っていたのだ
これによりある程度、冷静さを取り戻したベリアルがザラブ星人の手を借りる形になりながらも脱獄せしめるのは暫く後の話であった
◆
「……正体不明の空間の歪み? 発生場所は一体どこだ?」
M78星雲、光の国、宇宙警備隊。そこにある自らのオフィスで部下から報告を受けてゾフィーは改めてその報告を見直す。空間の歪みが起こる。と、言う事そのものは差程、おかしな事では無い。だが、しかし、ゾフィーの長年の戦闘で培った直感はこれがそうではない。と、言う事を告げていた。
「この数値は……別の事件で見られた物と部分的だが酷似しているな。……だが、これは……」
事実、胸騒ぎのまま報告にあった資料をゾフィーが調べていると、今回の一件で観測されたデータが過去の事件と一致していた。事に気付き、ゾフィーは思わず作業のために動いていた手を止め、まじまじとデータを見返す。それはゾフィーにとっては自分が大きく関わった以外の理由でも決して忘れられない事件であり、並行世界の『自分』と出会った忘れられぬ一件
「……彼との……『慎吾』との一件か……」
自身がかつて纏めた資料を見返しながら口に出してゾフィーはその名を口にする。
ゾフィーがヤプールが大谷慎吾と言う地球人の少年と出会った時間はごく短く、時間にすれば1日も無いだろう。だが、その時間はゾフィーにとってはもう一人の自分と話しているような掛け替えの無い時間であった。だからこそ、ゾフィーは自分達の世界と一時的とは言え交わった事で変わってしまう彼の今後を案じ……無理言って最悪の状況を覆せるような『とっておき』を渡したのだが。
「……この一件にはまたヤプールが関わっているのか? しかし、ヤプールの復活はエースが監視を続けているんだ、エースが復活を見落として私が先に発見するとは少し考えづらい。と、なるとこれはあの事件の余波と考えるのが自然か……と」
と、そこまで思考していた所で機器で解析途中だった空間の歪みが発生した詳細な場所の図が表示され
「場所は……ベリアルの監獄だと!?」
その文字が表示された瞬間、ゾフィーは思わず声を荒げて驚愕する。先程までゾフィーの中でも直感としてでしか感じる事が出来なった慎吾に起こりうる不吉な予感はベリアルの名前を見た瞬間、確信へと変わっていた
「間違いなく慎吾に恐るべき危機が起こる……! いや、もうすでに起きているのかもしれない……! くっ……慎吾……!」
慎吾の身を案じ、ゾフィーは出来ることならば直ぐにでも光の国を発って『責任はこちらにもある』として直ぐにでも彼助けに向かうか、最低でも警告を送りたかった。しかし互いの世界があまりにも離れすぎている上に繋がりさえ事件から時間が過ぎた影響で今にも切れそうな程に細く、テレパシーのような念話すら届く可能性は低い。つまりは、いくらゾフィー言えども『あの地球』に暮らす慎吾へ支援を送るのは無謀と言うより不可能に近い事であった
「信じるしか……無いのか……まだ少年でしか無い慎吾を……。彼が語っていた……兄妹のような仲間達を……」
だからこそ心中に押さえきれぬ気持ちこそあれどゾフィーはその場を動く事が出来ず、悔しげに歯噛みする事しか出来なかった
「慎吾……どうか無事でいてくれ……」
慎吾の無事を祈りながら呟いたゾフィーの言葉は緊張で張りつめたオフィス内に静かに響いていった