二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「ぐ………。ん……慎吾……?」
最初にその異変に気が付いたのは箒に支えられながら息を整えつつ、慎吾とベリアルの戦いの状況を丹念に観察していた光だったが、ふと違和感を感じて病床から抜け出した無茶の代償のような痛みに吐き出していた荒い呼吸を止める
「何かあったのか光? ……新たな問題か?」
「いや……慎吾の様子が……」
光を支える箒が光の変化に気が付くと、箒がその口調から只事では無いことを察して光、同様にM87光線を撃ち終え、光線の熱で蒸気を全身から吹き出すゾフィーの背中を見ていた。と、まさにその瞬間、その背中が、ゾフィーの身体が大きく揺れ
突如、糸が切れたように真っ逆さまにゾフィーは海面に向かって落ちていった
「慎吾っっ!?」
「慎吾さんっっ!!」
それにいち早く反応したのは視線を向けていた光、そして何より一番近く慎吾の側にいた一夏であり素早く白式を駆けると崩れ落ちるゾフィーをしっかりと両腕で支えて受け止める。と、丁度その瞬間に展開されていたゾフィーが限界を迎えたらしく解除され、ISスーツに身を包んだ慎吾が姿を表した
「慎吾さん! しっかりしてください慎吾さん!!」
「慎吾!? おいっ!! どうした! しっかりしろ!!」
「目を覚ませ慎吾!!」
「お兄ちゃん!? しっかりして!!」
「おにーちゃん大丈夫か!?」
一夏が受け止めた後、光、箒、シャルロット、ラウラ、と仲間達が慎吾の元へとかけより懸命に慎吾へと呼び掛ける。しかし慎吾は目を閉じたままぴくりとも動かず、まるで声にも反応もしない。そして何より
慎吾の着てる紅白が特徴的なISスーツはベリアルとの激闘によりボロボロに傷付き、胸元も素肌同然にまで露にされていた。のにも関わらず
慎吾の胸はピクリとも動きはしなかったのだ
その事には全員が気付いてはいたが誰も口には出さず懸命に声を張り上げ、慎吾を眠りから覚まそうとしているかのように呼び掛け続ける。そうしなければまるで慎吾がISの操縦者保護すら間に合わぬ程に全ての力を使い果たして燃え尽きて───
「……っ! 待ってろ慎吾! M78社を中心とした救護チームは既にすぐ近くにまで来ている! それまで俺が応急措置を行うから堪えるんだ!!」
全員の頭の中に最悪の予感が過る中、それを振り払わんとばかりに光がふらつきながらも前に出ると、慎吾との新型装備実験用に使っていた医療用の心電図と脳波を測定する機器を起動させ
ピーーーッッ
「…………!!」
そこに無情に表示された呼吸停止、心肺停止、脳波停止の知らせに強制的に次の言葉を停止させられる
決して奢らず、仲間達を思いやり、どんな強敵にも恐れず立ち向かい続けた少年
大谷慎吾はこの場で既に死亡していた
『うわあああああああああああああぁぁぁぁっっ!!』
永遠かと思われる程に長く感じたベリアルとの戦いが済んだと言うにも関わらず、この場に勝ちどきを告げる声は無く、海風に仲間達の絶望の悲鳴が響き渡るだけだった
◆
「そんな……そんな……嘘だ……! 嘘だよね……!?」
戦いによる損傷が比較的に少なかった廃船の甲板の上、その上に戦闘を終えたメンバーが動かぬ慎吾を中心として集まっていた
ベリアルとの戦いに全力を注いだ為に武装以外の装備が殆ど無く、冷たい甲板の上に寝かされ、徐々に体温が下がっていく慎吾の手を抱き締めるように握りながらシャルロットが涙を流しながら絶望を前に必死に呼び掛ける
「起きてくれ……起きてくれ、おにーちゃん……! 頼む…………!」
その隣ではラウラが懸命に慎吾の側に座り、溢れる涙を隠さずにいながらも懸命に心臓マッサージを続けていた。慎吾の心肺停止が確認されて既に五分。軍人であるラウラも光に助力して先程から自分の持つ知識を総動員して慎吾の応急措置を手伝っていたのだが既に万策付き、もはや絶望に必死に抗いながら効果があるかも分からぬマッサージを続ける事しか出来なかった
「くそっ……!! くそっ!くそっ! くそおぉぉっっ!!」
「一夏…………」
一夏は甲板の上に手を付き、悔しさに歯噛みをしながら指が避けて血が流れ始めるのにも関わらず何度も何度も何度も握った拳を叩きつけ叫ぶ。そのままでは指の骨すら折れてしまいかねない勢いに箒は一夏の身を案じるが、その無力感と悔しさが痛い程に理解が出来た為に動くことが出来ず、ただ一夏の側によりそう事しか出来なかった
「俺はバカだ…………! やれ天才だともてはやされても……目の前の友一人をも救うことは出来ないなんて……」
そんな光景を見ながら光は流れる涙をも枯らしたのか、力無く朽ち果てた船舶の壁面に体重をあずけながら座り、仲間達を眺める事しか出来なかった。既に通信であと3分もしないうちにケンが急がせてくれた救護班が到着する事は知ってはいたがそれで治療を受けた慎吾が何事も無かったように復帰できる。……と、信じるほどに光は楽天的になりきる事が出来なかった
「やはり俺があの時、どうやってもウルトラダイナマイトでベリアルを仕留めるべきだったんだ……いや、そもそも倒れずに慎吾と戦い続けていれば……いや待て……」
今や光に出来ることは虚ろな目のまはま過去の事を振り返り、重箱の隅をつつくように己の失態を過ちを追求して嘆き続ける事だけであり、それ以外の事は何も出来る気力が沸かなかったのだ
勝利したのにも関わらずこの場にいる誰もが立ち上がれず、うちひしがれるその様はまさに絶望そのものである光景としか言えなかった
だからこそ
「(心臓マッサージ……人工呼吸……ISを使っての電気ショック……いづれも効果を示さなかった……やはり……俺では救えないのか……あれほど優れた精神を持つ人間を……)」
絶望の最中、光の脳内には走馬灯のように次々と慎吾と過ごした過去の記憶が蘇り始めていた。始めての出会い、考え方の違いからの対立、そして和解。無二の親友となったこと、自身が作り出した新型機ゾフィーを慎吾が所有する事になった事、そして学園に通うようになってから共に戦うようになった数々の強敵……
「(あぁ……そう言えば慎吾は以前、『地球より遥かに科学力が進んだ星に暮らす並行世界の自分に出会った』なんて話もしていたな……。しかも土産まで持って帰ってくるのだから本当にあいつは数奇な運命の元に……)」
その時、光は本当に深く何も考えず、思い出に浸ろうとして自身が慎吾から以前預かり、それ以来自身の機体、ヒカリに保管していた「赤い石」を取り出し
「え………………?」
その瞬間、否応なしに気が付いた。M78社にある自身のラボにある最新の機器で調べても『所持していても危険性は無い』と言う事しか分からなかった赤い石
その石が太陽のように目映く輝きながら心臓の鼓動のように脈を打ってる事を
全員がベストを尽くしても尚、果たせないその時こそ
鮮やかにウルトラの奇跡は巻き起こる