二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「これより判決を告げる。被告人アリア・◼️◼️◼️は……」
事件が終わって一週間の後、かつてアリアと名乗っていた女性であり全世界に凄まじい被害を出したこの一件をただ一人で起こした女、ベリアルの裁判が行われていた。
が、ベリアルの起こした事件の規模の大きさとベリアル自身の計り知れない程の戦闘能力から、この裁判は傍聴人を入れず、日時や場所さえ秘匿とし、重症から未だに回復してしないベリアルを何重もの拘束具で押さえ付けながら武装した複数の兵士の銃口が常にベリアルに向けられている──と、それは裁判と言うにはあまりにも異質な形で行われており、事実、法廷に集った検察官や弁護士、そして何より判決を読み上げる初老の判事ですら異質な空気に飲まれて汗を隠せずにいた
「(あー……暇だ……つまらねぇ……)」
そんな中、当のベリアル本人とは言うとそんな空気など知らぬとばかりに裁判の内容を右から左へと聞き流しながら退屈げにあらぬ方向へと視線を向けていた。口にも枷をかけられて無ければ間違いなく大あくびをしていただろう
「……よって特別措置付きの終身刑を言い渡す。何か異議は……」
「そうだな……一言言うなら随分とお優しい判決なんだな? え? 今、世界の有利に立っている『女性への配慮』とか言う奴か?」
『…………!!』
と、そこまで沈黙を貫いていたベリアルが初めて口を開き、明らかに愚弄した態度で判決を読み上げた裁判官を見て、せ、せら笑いを浮かべる
「生かしておく以上、どんな手段を取ろうが俺は帰ってくるぜ? 精々、顔を覚えて報復されないように目隠しをしておくべきだったなあ? あぁ?」
「……っっ!! 判決を一部変更する! 被告人は終身刑の上『特殊措置』を施した刑務施設へと送る! さっさとそいつを連行しろっ!」
さも当然のようにそう言いながらニタニタと笑みを浮かべるベリアルに怒りを感じたのか、あるいは恐怖か、裁判官はそう判決を言い直すと指示を出し武装した兵士達に指示を出し法廷から退場させる
「くくくっ…ハハハハハハハハッッ……!!」
彼女の笑い声はベリアルが完全に法廷から見えなくなっても尚、響き渡っていた
その後、控訴を進めた人権派の弁護士を『目障りだった』と言う理由で暴力を振るった事で日程は早まり、ベリアルはキングも設計に加わった孤島の牢獄に一人、拘束される事になった
彼女が宣言通り脱獄を果たすかどうか、それはまたこれから先の話である
◇
「まさか貴方から直接呼び出しがあるとは。……もしや投獄されたアリ……ベリアルに何かあったのですか?」
Mー87社の地下研究室。その最奥、社内でも上層部の極々一部にしか立ち入れないエリアにケンはキングによって呼び出されていた
この、あからさまなまでに他人の耳を警戒した様子からケンはそれが下手をすれば国際問題にすら関わるベリアルについての件では無いかと判断し、早々に話を切り出す。が
「いや、そうではない。彼女は今現在も独房でしっかりと拘束されているのは確認済みだ」
キングは早々にその言葉を否定する。そして
「しかし……彼女に関係ない話では無い」
「ケン、私が伝えたいのは気付いた事実。慎吾や早田や諸星達……そして何より光太郎の身体に関わる事だ」
「…………!」
キングの言葉ににわかにケンの表情がこわばる。勿論、Mー78社の代表としては慎吾達も当然、気がかりではあった。しかし
それと同時に一人の親として、あの事件の中で唐突に息子である光太郎がIS『タロウ』を起動させた事、その理由が現在に至っても糸口すら掴めてない事が、どうしてもケンにとっては気がかりであり、キングの話は正に渡りに船だった
「端的に言おう、全ての要因はブラズマスパークにあったようだ」
そんなケンの反応を予測していたのかキングは端末を操作すると、何人かの検証から導きだした一つのグラフといくつかの数値が表示された画面をケンに見せる
「当時の私達の技術では分からなかったが……今回、チェックも兼ねて改めて調べた事で偶然ながらプラズマスパークから全く未知の物質が放出されていた事が分かった。……それを詳しく調べ、どんな影響をを示すか表したものがこれだ」
「これは……! まさか……そんな……!」
そのグラフと数値を見せた瞬間、ケンは愕然とする。今こそ一線を退いているとは言えケンはMー78社で長年技術開発にも関わっていた。だからこそ一目でその異様さ、そして起こした影響がいかなる物かを理解出来ていたのだ
「ブラズマスパークに関する安全確認は入念に入念を重ねるレベルで行われた……! 当然、人体には悪影響を及ばさない事も確認した……! それなのに何故……」
「この物質そのものは殆どの人間に対しては触れたとて何の影響を及ばさないが……ごく特定の人間が接触したのみにこの特異な反応を示すようだ」
ケンの呟きにキングはそう言って答えつつケンを見つめると再び端末を操作するとサンプルデータの対象となった人物の名前を写し出す
「そう……それがサンプルデータの持ち主である慎吾や光、早田や諸星にベリアル……そして光太郎のような人間らしい。今の所、あの時、あの場所にいたメンバー以外からは反応が起こる事を検出出来ていない」
「っ……キングよ、私にもこの物質についてより詳しく調査させてくれませんか? 彼等を預かる身として、そして何より光太郎の父親として……私にはその義務がありますから」
動揺で心拍数が大幅に上がり、口の乾きに言葉がつまりそうになるのを堪え、冷静さを維持しながら、そう口にする。ここで狼狽える等と言う事はケンの鋼鉄の如く鍛え抜いた理性と責任感がそれを許さなかったのだ
「それは勿論。と、言いたい所だが……実の所、今日の用件は君にこの物質に関する研究の協力の要請に来たのだ。願ってもない話……と、言う所さ」
ケンの言葉をキングはそう笑って受け入れると早速とばかりにケンと資料を見せながら会議を始める
「ひとまず仮称として私はこの物質に『ディファレーター』と名前を付けたが……どうだろうか?」
こうしてキングとケンによりディファレーターの研究は始まり、成果は着実に進んで行く事になった
が、『この世界』でディファレーターが真の意味で理解され、正しく人々が利用するようになるにはまだ気の遠くなる程に長い時間を必要とするのであった
◆
「……ふぅ。学園に来るのも久しぶりになると少しは緊張するな」
つい昨日、病院で袖を通した新調したての制服に身を包んだ慎吾は感慨深げにそう呟く。寮からでは無く病院から通学しているような病み上がりの身のせいか、少しだけ息苦しいような気もしたがそれよりも尚、再び学園へと通える事になった高揚感が勝っていた
ベリアルとの激戦を終えてしばらくが過ぎ、仲間達かは幾分か遅れて慎吾が退院して学園へと戻ることが出来た今、ベリアルによって一時は無惨な著被害を受けた学園も破壊の爪痕こそ残れど概ね修繕され、元の様子を取り戻していた
「……それも全ては『命』を送ってくれた『ゾフィー』おかげ……か」
あの後、検査を経て慎吾の中に入った赤い石は体内で一体化して欠片も残さず消滅した事が確認され、ヒカリの内部データに残っていた赤い石に関するデータはケンの見解を経て合意したヒカリ、そしてMー78社上層部立ち会い元、念入りにフォーマットされ、元からさっぱり解析不能だった『固形化された命』のデータはこの世界から消え失せた
「『仮にあれを人類が手にする時が来るとしたらそれは精神的に今より遥かに進歩した時だろう』……か」
一組の教室に向かって歩きながら、フォーマットを実行する寸前、ケンが言った言葉を誰に聞かせるわけでも無く、反復するように慎吾は口にする
ケンの、その言葉は慎吾も完全に同意だった。人間が互いを信じきれずに憎み合うこの世の中、命を産み出せる等と言う技術が知れればそれが戦争の火種になりかねない事は簡単に予測出来る。だからこそあの技術は進化した人類が自らの手で掴むべき物であり、世間一般には大谷慎吾の復活は『奇跡』としておく。それがベストな判断だと慎吾も判断したのだ
「(唯一の気掛かりはあれが起きた現場を自国でも他国でも諜報員にでも見られてないかだけど……それは言われた通りケンさんやキング老師に頼るとしよう……)」
そう考えながら慎吾が教室のドアを開いた正にその瞬間
『大谷慎吾君、お帰りなさい!!』
「…………!?」
突如として集まったクラスの仲間達による扉に取り付けられた窓が大声での歓迎の挨拶が待ち構えていた
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
「おにーちゃん、もう身体は大丈夫なのか?」
「兄さん……本当によかった……!」
「お兄様、どうかこの花束を! クラスの皆様で購入した物ですわ」
突然の事に動揺する慎吾の前に続いてシャルロット、ラウラ、セシリアと言った慎吾の妹である三人が代表するように姿を表すと、次々にそう言い、慎吾に花束を差し出した
「……は、はは、うん、ありがとう。完全にいつも通りとは行かないが、こうして日常生活を送る程度には全く問題ないレベルにまで回復している。大丈夫だ。……それからセシリアも退院出来たんだな。……おめでとう」
その勢いに一瞬は圧され、呆然とした表情を浮かべていた慎吾ではあったが、すぐに笑顔で彼女達に応えると花束を受け取りそう言う
「そいつら今日、あんたが復帰するって知ってから毎日ソワソワしてうるさかったのよ?」
「まぁ、気持ちは分からなくも無いがな……」
「それだけ慎吾が慕われている事の証明だろう……さ」
そんな四人を苦笑しながらも微笑ましそうに見るのは二組から駆け付けた鈴、そして箒。車椅子に乗った状態ながらも光もいた
「……やれやれ、あまり騒がしくはするなよ」
そうして慎吾の帰還に賑わうクラスを眺めながらも千冬は一言そう言うだけで後は目を閉じ、苦笑するだけで済ませそれ以上は何も言おうとはしない。どうやらこの騒ぎも鈴や光と言った他のクラス、果ては学年の違う生徒が来ているのも黙認しているようだった
「……お帰りなさい慎吾さん」
「……一夏」
と、そんな中、一夏が姿を見せ慎吾に微笑みかけた。その額には仲間達と同じように包帯が巻かれベリアルとの戦いの傷跡が生々しく残っている
そう、包帯と言う形で怪我が残っているのは一夏だけでは無い、怪我の大きさや服に隠れてるか否か等の差異はあれどベリアルと交戦した者達全員が未だに傷を残しており、千冬の頬にも小さくはあるがガーゼが張られていた。しかし、それでも
「私は……皆とこうしてまたこの教室再び会えて……嬉しいよ」
それでも命を落としたり、後遺症が残るレベルの怪我を負ったものは誰一人おらず。それが何より慎吾には誇らしく感じられた
「(ベリアルの一件が解決したからと言って全てが丸く収まる筈もない。きっとこれからも困難は私達に待ち構えているだろう。だが、それでもこの皆となら……)」
慎吾はそう思いながら自身の心が熱く震えるのを感じていた。だからこそ
「す、すいません失礼します! こちらが一組で合っていますか!?」
ノックと共に扉を開け入ってきたあまりにも聞きなれた声に慎吾は心底、驚愕し、その声の主の姿を見た瞬間、更なる驚きで硬直した
「ぼ、僕は本日からこのクラスに転校する事になりました東 光太郎です!」
少し緊張した様子でそう語る光太郎、慎吾にとって顔を合わせるのは学園祭以来になる彼が身に包むのは皺一つ無いピカピカの制服。それは間違いなく慎吾や一夏と同じIS学園の男子用の制服であり
「皆さん、僕はご覧のとおり『三人目』の男性IS操縦者となりますざ……どうかよろしくお願いします!」
『えええええええええええっっ!?』
そう行って礼儀正しく一礼をする光太郎を前に事情を知らぬ一組の生徒達から絶叫にも似た叫びの渦が巻き起こる
どうやら大谷慎吾の学園生活にはまだまだ想像がつかない波乱が続くようであった
最低限回収したかった話を入れ、2014年から続いたこの作品を一つの終わりとさせていただきます
終盤ぎわどうにも思うように書くことが出来ず、文章が大きく乱れてしまい、自分でも納得仕切れないようにしか書き上げられなかった事は申し開きも無いほどに単純な私自身の力不足であり、強く未熟さを痛感させられました
また、この作品に強い情熱を取り戻せた場合、何とか続編、即ち『三人目』となる光太郎の物語を始めさせて頂きたいと思いますので、もし僅かでも私に期待していた抱けるのならばお待ち頂けると本当に嬉しいです
最後にもう一度、本作を長年に渡ってご愛読いただいてありがとうございました