二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「い、今のは一体!?明らかに衝撃砲や零落白夜が出すような音では……」
ビット内で試合を見守っていた突如として発生した爆に慎吾は思わず叫ぶ。モニターに移るアリーナのスージ中央からはもうもうと煙が立ち込め視界を遮る。状況から判断するに『何か』がアリーナの遮断フィールドを突き破って入って来たらしい。そして、煙が晴れた瞬間
『!?』
千冬を除く、ピット内にいた全員の驚愕の声が重なる。
煙の中から姿を表したのは巨大な一機の異形のISだった。
そのISは深い灰色の体に、異様な程に長い腕にはビーム砲口が並び、肩と頭が一体になってるかのような頭部にはセンサーレンズが不規則に取り付けられ。そして何より特徴的なのが
「全身装甲!?……慎吾さんのゾフィーと同じ………?」
セシリアは思わずそう声に出す。そう、そのISはゾフィーと同じく肌を全く露出しない全身装甲のISだったのだ。最も、ゾフィーが持っているような神秘性や優しさはそのISからはまるで感じれず、不気味な冷たさを放っていた。
「一夏!?」
と、そこで静止していた謎のISが様子を伺っていた一夏と鈴目掛けてビーム砲を発射し、その様子を見た箒は一夏の身を案じて思わず悲鳴を上げる。
が、危うい所でビームが命中する直前、一夏が鈴を庇う形で回避し二人は難を逃れ、熱線は地面に着弾して小爆発と共に小型のクレーターを作った。
「織斑くん!凰さん!すぐにアリーナから脱出してください!先生達が制圧に行きますから!」
そこで真耶がアリーナの一夏と鈴に向かって、そう指示を飛ばす。余程焦っているのか声を出す必要が無いプライベート・チャンネルなのにも関わらず、小柄な体から一生懸命叫んでいた。が、慎吾は既にその意見が二人には通らない事を、モニターに映る一夏の表情を見て察して苦笑した。
「(……あのISはアリーナのシールドを貫通する程のパワーを持っている。そんなISの攻撃から客席の人々を守るために自分が戦う………そうだろう?一夏)」
「もしもし!?織斑くんも!鳳さんも!聞いてます!?もしもぉーし!?」
直後、慎吾の予想は的中したようで真耶は大いに焦った様子で二人に必死で呼び掛けていた。そんな中でも千冬は特に動揺した様子は無く、優雅な動きでコーヒーをカップに注ぎだした。
「本人達がやると言ってるのだ。やらせても構わないだ……おい、何をする大谷」
「織斑先生……塩コーヒーはおすすめ出来ません」
が、やはりどこか心に迷いがあるのか、コーヒーに塩を投入した所で気付いた慎吾が苦笑しながら千冬を止めた。
「む…………」
指摘された千冬はただ一言、しかしどこか恥ずかしそうにそう呟くと静かに塩を運ぼうとしていたスプーンから塩山を落とし、改めて砂糖をすくってコーヒーに投入した。
「先生!わたくしにIS使用許可を!すぐに出撃出来ますわ!」
「私も準備は出来ています……織斑先生、どうか」
と、そこでセシリアが手を上げて千冬に懇願し、慎吾も後に続いて真剣な表情で千冬に頼み込む。
「お前達の意気込みは分かった。だが……これを見ろ」
そんな二人を見ると、千冬は溜め息と共にブック型端末にこの第2アリーナのステータスチェックの画面を表示させた。
「遮断シールドがレベル4に設定……!?」
「どうやらあのISの仕業のようだな……おまけに扉は全てロック。つまりは避難も救援を不可。くっ、万事休すか……!」
そこに表示される最悪の情報にセシリアは顔を青ざめ、慎吾は歯噛みした。
「既に政府に助勢の要請は済ませた。現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ……」
千冬が落ち着いた様子でそう語る。が、よく見てみればその手は苛立ちを押さえれないようでせわしなく動いてる。
「むむむ……むっ、箒?」
と、そこで慎吾はどうしたものかと思い悩む視界の先に、何かを決意した様子でビットから出ていく箒の後姿を見つけた。それを見た瞬間
直観的に嫌な予感が慎吾の体を走った。
「すいません織斑先生、少し出ていきます!!」
「おい、大谷!?」
直後、慎吾は千冬が止めようとする声も振り切り、ビットから走り出した。
◇
「待て箒、何処に行くつもりだ!」
ビットから数十メートル先で慎吾は箒を見つけ、肩をつかんで箒を止める。
「は、離せ大谷!このっ……!」
肩を捕まれた箒は慎吾の手を振り払おうともがき、武術まで使おうとした。
「……そうまで離してほしいなら、私を納得させるんだな」
が、剣での試合なら兎も角、格闘武術では慎吾の方が優れているらしく、箒の肩から慎吾の手が剥がれる事は無かった。
「……私は!黙って見ているだけなんて出来ない!」
慎吾の手を振り払うのを諦めた箒が観念したように思いの丈を叫ぶ。その肩は叫びながらも静かに震えていた。
「行くんだな……アリーナに」
「……………………」
慎吾の問いに箒は無言の沈黙で返し、一瞬、周囲は静けさに包まれた。
「分かっているのか箒?その決断がどれだけ甘いのかを。ISを持っていない無防備のお前がアリーナに出るのだ、今も戦っている一夏や鈴の戦いの邪魔になるのかもしれないのだぞ?」
「それでもっ……!」
咎めるように箒に告げる慎吾。それに箒は勢い良く振り向いて慎吾の手を払うと、真っ正面から慎吾を見て言い放つ。
「それでも……一夏が自分も危ないのに、皆を守る為に必死に戦っているんだ………。それをただ見ているだけなんて……やっぱり私には出来ない!」
箒の目からは一滴、また一滴と静かに涙がこぼれ落ちていた。が、その表情は悲しみや怒り等のマイナスな感情は無く、真っ直ぐに揺るがない、強い決意を込めたものであり、慎吾はそれが例えどんな言葉を投げかけたとしても決して揺るがない事を理解した。
「箒…………やはりお前が一人でアリーナに行くのは無茶だ。私はクラスの年長者としてそれを止める義務がある」
淡々とそう告げる慎吾に、箒の表情が一気に曇り絶望の色が見えだした。
「だからな……」
が、その瞬間、慎吾は口角を上に吊り上げ笑顔を見せた。
「私が箒に同行して共にアリーナに行けば、私がゾフィーで箒を守れるから問題は無いな」
「へっ?」
慎吾の突然の提案に箒は思わず間抜けな声を上げてしまう。
「さぁ、早く行くぞ。一夏に何かしてやりたいのだろう?」
慎吾はそう言うと箒に向かって静かに手を差し出す。
「あぁ、行こう!」
箒は力強く慎吾の手を握って答え、二人は同時にアリーナに向かって走り出した。
◇
「一夏!!」
「気持ちは分かるが焦りすぎだ箒……後で二人に謝ろうな」
アリーナの中継室に付くなり、真っ先に窓から見える一夏の姿を見て叫ぶ。ゾフィーを展開させた慎吾はそんな箒を注意しながら、箒が勢い良く開けたドアに運悪く頭部を強打して気絶してしまった審判とナレーターを介抱しながらドアを開き中継室の外へと移動させる。
「一夏!男なら……い、いやっ、一夏!負けないでくれっ!お願いだ!」
そして、箒はアリーナの館内放送を利用して一夏に今、自分が出来る精一杯の気持ちを込めた言葉を叫ぶ。そんな箒の目は潤んでいた。
『し、慎吾さん!?箒が何でここに!』
アリーナの窓から驚愕した様子が見えたのと同時に、プライベートチャンネルでそんな慌てた様子の一夏の声がゾフィーに受信される。
「すまないが説明は後だ。今、私が言えるのは……」
と、そんな中、侵入してきた敵ISが先程の館内放送に興味を持ったのか発信者である箒に視線を向ける。
「箒は絶対に私が守る!お前は迷わず自分の策を実行しろ!」
その瞬間、敵ISから箒の盾となるようにゾフィーが立ちふさがり、同時に慎吾は一夏に告げた。
『……はい!』
慎吾の声に、すかさず一夏は返事を返して動きだし……数秒後に決着は付いた。
◇
「なるほど……鈴の衝撃砲を利用してさらに瞬時加速の速さを高めて攻撃するだけでは無く、さらに零落白夜で遮断シールドの破壊……そしてセシリアの射撃で決着………いい手だな一夏。しかし……無人機のISだったとは……」
「むむむ……仕方が無いとは言え……一夏の奴め鼻の下を伸ばしおって……」
ゾフィーを展開したままアリーナの地面に倒れた敵ISを見ながら分析し、一夏の戦略を褒め称えながら何かを考え込む慎吾。一方で箒は今回の勝利の功績者であるセシリアと楽しそうに話す一夏を見て悔しげ呟く。
「あぁ……私があの場にいれば……」
「箒、今は………っ!?」
ぼそりと恨めしそうに何かを言おうとする箒を慎吾がゾフィーの展開を解除してフォローに回ろうとした瞬間、慎吾は気付いた。
倒れたはずの敵ISが起き上がり、白式へと狙いを付けているのを。
「……箒、ドアの向こうに避難するんだ」
「し、慎吾!?ちょっと待………!」
気付いた慎吾は有無を言わさず、箒をドアの向こうに移動させるとゾフィーのフルパワーのスクリューキックで中継室の防護ガラスを破ると外に飛び出した。
「(あのISの放つビームは具体的な数値は不明だが遮断シールドすら突き破る力を持っている……白式を守りに行くには間に合わない………。ならば『確実に倒せる』攻撃で一撃でビームごとあのISを撃破する!)」
そう判断すると、慎吾は空中でゾフィーの両腕を水平にして胸の前で構え、敵ISに狙いを定めた。その瞬間、構えたゾフィーの腕は青く輝き凄まじいエネルギーがゾフィーの腕へと蓄積されていく。
「みんな、後ろに下がれ!」
慎吾が間もなく発射する技を前に、警告の声をアリーナ内にいた三人に叫ぶ。突然アリーナに表れたゾフィーに驚きを見せる三人だったが、慎吾の明らかに何時もとは違う鬼気迫る慎吾の声に、咄嗟に指示通りに後退した。
と、その瞬間、敵ISの最後の一撃、今まで放っていた物より太いビームが発射された。が、
「M87光線っ!!」
そんな一撃はこの技の前では風の前の塵に等しかった。
水平にした右腕を胸に付けたまま、真っ直ぐに伸ばしたゾフィーの左腕から放たれた青白い光線は唸りをあげながら敵ISのビームに当てると、ビームなどまるで関係ないが無いかのようにねじ伏せて押し返しながら敵ISへと一直線へと向かって行く。そして
M87光線は見事敵ISへと直撃し、その体を凄まじいエネルギーによる爆発と共に粉々に砕いた。
「こ、これが慎吾さんの……とっておき……」
M87の直撃で跡形も無くなった敵ISを見ながら一夏が呆然としたように呟く。鈴とセシリアもまたその破壊力に圧倒され手何も言えず、アリーナ内には爆発による煙が静かに漂っていた。
M87光線、呼び方は所説ありますがこの小説内では
M87光線(えむはちじゅうなな)とさせていただきます。