二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 また危ない所でした……やはり連休明けは油断してしまいますね


27話 セシリアの料理とゾフィー

「……どういうことだ」

 

「その怒りは理解出来なくも無いが……少し落ち着け、箒よ」

 

 憤慨した様子の箒を落ち着かせるように慎吾は軽く箒の肩を叩いてそう静かに言う。

 

 あれから時間は移って今は昼休み、場所は美しい大理石が敷き詰められた床と色とりどりの花段が鮮やかなIS学園の屋上。そこに一夏、慎吾、箒に鈴とセシリア。それに加えてシャルルの計6人が昼食を取るべく集まっていた。

 

「うん、天気もいいし皆一緒に屋上で食べるってのは正解だったな」

 

 そしてこれを提案した一夏当人はと言うと、箒の呟きは聞こえてはいなかったようで雲ひとつ無い空を見つつ、満足げにそう言っていた。

 

「まぁ……一夏の言う事も正論ではあるし、今日は転校したばかりで右も左も分からぬシャルルがいるんだ。勘弁してやってはくれないか箒?」

 

 そんな一夏を目に止めつつ、シャルルを一瞬指差し慎吾は小声でそう箒に言った。

 

「ぐぬぬ……次はないぞ……」

 

 箒はあまり納得していない様子ながらも慎吾の説得を聞き入れ手にしていた弁当箱をテーブルの上に置くと気持ちを収めた。

 

「はい一夏、これアンタの分」

 

「コホンッ……実は私も何の因果か偶然にも早く目が覚めまして、こういった物を作って見ましてね……」

 

「「あっ……」」

 

 

 と、その合間を付くように一夏に鈴はタッパーに入った酢豚を、セシリアはバスケットに綺麗に並べられたサンドイッチを一夏に手渡した。その瞬間、出遅れたと感じた箒は焦りで、慎吾はセシリアの手作りサンドイッチを見た瞬間に顔を青ざめ、思わず声を漏らした。

 

「(セシリアの手作り料理か……気持ちを入れているのは分かる……分かるのだが……)」

 

 

 慎吾の頭の中には数週間前、セシリアから『お世話になっている慎吾さんに』と訓練の休憩後に渡されたお菓子を食べたときの事を思い出し、その顔にはじわりと脂汗が滲み出していた。

 

「(寮に戻ってあのお菓子を食べた瞬間、一瞬だが意識が飛び、意識が戻ったかと思えば次は腹痛を起こし、数日ほど苦しめられた……あれは堪えたな……)」

 

 

「ど、どうしたの慎吾?さっきから顔色が悪いよ?」

 

 と、自身の持ってきた弁当を食べる手が震え、時間と共にどんどん顔色が悪くなる慎吾を心配し、シャルルが声をかける。

 

「大丈夫だシャルル……私は大丈夫だ……」

 

 そんなシャルルにぼんやりとした返事を返しつつ慎吾はある一点から目を話せずにいた。

 

「!……!?」

 

「ど、どうかしら?」

 

 鈴の野菜と肉のバランスが素晴らしいコントラストを描いた酢豚、箒の肉魚野菜でバランスが取れた和食風の弁当に先程までは舌鼓を打っていた一夏。それがたった今、セシリアのサンドイッチを口にした瞬間から豹変していたのだ。

 

「ぐぐっ……がっ、そ、そうだなぁ……」

 

 何とかセシリアに返事を返そうとする一夏。が、その肩は生まれたての子羊を思わせるかの如く小刻みに震え、貧血かと思うほどに青ざめた顔からは慎吾の倍かと思える程の量の汗が流れ落ちていた。

 

「(一夏……)」

 

 そんな見るからに辛そうな一夏を放置していることは慎吾には出来なかった。慎吾は覚悟を決めると深呼吸し、出来うる限り平静を装ってセシリアに向き直り、口を開く。

 

「……セシリア、悪いがそのサンドイッチ私も一つ貰ってもいいか?」

 

『!?』

                        

 瞬間、一夏、鈴、箒の視線が一気に慎吾へと集まる。言葉にこそ出さなかったが目が『正気か!?』と語っていた。

 

「あら……ええ、どうぞ慎吾さん」

 

 セシリアはその三人の視線に特に気付いた様子は無く穏やかな笑みを浮かべてサンドイッチの入ったバケットを差し出す。

 

「ありがとう……」

 

 慎吾は礼を言ってサンドイッチを受けとるが相変わらず脂汗は止まらない。いや掴んだ瞬間にサンドイッチがサンドイッチにあるまじき感触をしていた事がより慎吾の汗を増加させた。が、もう後には引けない、慎吾は覚悟を決めると一気にサンドイッチにかぶり付いた。

 

「がふっ………!」

 

 瞬間、プロボクサーのアッパーカットの如く暴力的な甘味が慎吾の舌に襲いかかり慎吾は思わずうめき声をあげた。目眩のように意識がぐらつき、胃が『これ以上食べれば命にかかわる』と慎吾に警告するが慎吾はそれを『構うものか』と振り切り、二口目でサンドイッチの残りを一気に口の中に放り込み、なるべく味を感じないように機械的に手早く咀嚼すると、自信の持ってきた鳩麦茶を一気に飲み干す事でどうにかこうにか食べることが出来た。……その代償と言わんばかりに明らかに慎吾が疲労困憊の表情に変わってはいたが

 

「……セシリア」

 

「は、はいっ!?」

 

 慎吾の急な行動に呆然としていたセシリアは急に慎吾に話しかけられ、ビクリと体を動かした。

 

「一つ聞くが、このサンドイッチは味見はしたか……?」

 

「い、いえ………」

 

 未だに動揺が残るような顔ながらもセシリアは慎吾の質問に答え、ゆっくりと否定する。

 

「そうか……」

 

 それを聞くと慎吾は今にも崩れ落ちてしまいそうな程に儚い笑顔を見せ、セシリアに微笑みかける。その何かを悟りきったかのような慎吾の表情に押され、セシリアだけでは無く一夏や鈴までもが思わずビクリと体を震わせた。

 

「セシリア、自分では完璧に決まっていたと思っていても実の所は上手く行ってない……そんな事は多々あるものだ。私との練習試合でビットでの攻撃が完全に命中したと思ったら私に上手く受けられていた事があっただろう?」

 

「あっ………」

 

 慎吾の話を聞いたセシリアは思わず口に手を当てて声を漏らした。そんなセシリアを見ながら慎吾はもう一度優しく微笑みかけた。

 

「そうだ……料理も実戦も最後まで油断厳禁。次からはきちんと自分で味見をして納得出来るものを持ってくるといい……私はセシリアならばきっと出来ると信じ……てるぞ……」

 

「慎吾さん!?」

 

「ちょっ!アンタ大丈夫!?」

 

「おい、慎吾!しっかりしろ!」

 

 話を終えた瞬間、崩れるようにテーブルの上に突っ伏した。セシリアが悲鳴を上げ、鈴が慌てて立ち上がり慎吾の背中を揺さぶり、箒は声を上げて呼び掛ける。

 

「慎吾大丈夫!?……って、一夏何してるの……?」

 

 そんな中、慎吾の元に同じく駆け寄ろうとしていたシャルルは一夏の変化に気が付き、思わず足を止めて一夏を凝視していた。

 

「ありがとう……慎吾さん……ありがとうっ!」

 

 

 一夏は無意識のうちに涙を流し、慎吾に向かって敬礼をしていた。

 

 言葉にせずとも一夏は慎吾の思いを感じ取っていた。圧倒的感謝がそこにはあったのだ。

 

 こうして一夏は慎吾の自己犠牲により、学園在学中一つの驚異を退ける事が出来るようになったのであった。




 この話ってシリアス何でしょうか……ギャグ何でしょうか……?

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