二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「慎吾さん……っ慎吾さんっ!!すいません……大変なんです!力を貸してください!」
夜、寮の自室のシャワーで汗を流し、そろそろ夕食を取ろうとしていた慎吾の元にただならぬ様子の一夏が訪問してきた。
「どうした一夏、一体何があったんだ?」
「えっと……シャルルの事なんですが……その、何て言ったものか……」
慎吾から質問されると一夏は頭を抱えてうんうんと声を上げて悩み出す。どうやら事態は説明も出来ない程に切迫した事らしい。
「と、とにかく俺の部屋に来てください。来れば、すぐ分かりますから!」
「わかった……すぐ行こう」
そう一夏に了承の返事をすると慎吾は廊下に出て、一夏と共に現在シャルルと一夏が共に過ごしている1025室へと向かった。
「んなっ………?」
そして数秒後、部屋のドアを開けて中に入った慎吾の口から少し呆けたような声がこぼれた。
◇
「……と、言うこと何ですが、大丈夫ですか慎吾さん?」
「あぁ、すまん……私としたことが取り乱してしまったようだ」
一夏から現状の説明を受けつつ幾度か呼吸を繰り返して、何とか落ち着きを取り戻した慎吾は未だに悩むように額に手を当てながらそう言った。
「うん……慎吾が驚くのも無理は無いよ……」
そんな慎吾に自嘲するように苦笑しながらベットに腰掛け、シャープなラインが特徴的なスポーツジャージを着たシャルルはそう言う。表情だけを見れば、シャルルの様子は多少、気力こそ無いものの何時もと変わらぬように見えた。そう、問題は
「シャルルが女性とは……正直、私も想像してはいなかったな」
深くため息を付きながら慎吾は呟き、再び部屋の中には沈黙が訪れる。そう、今のシャルルが普段と大きく違うことは一つ。
ジャージから浮き出るシャルルの体には『男子』なら無いはずの確かな胸の膨らみがあったのだ。
それがシャルルが男性では無く、女性である事を表す事は誰の目から見ても明らかだった。
「えーっと、シャルル……なんで、男のカッコなんかしていたんだ?」
「…………」
そんな重苦しい空気を何とか打破しようとしたのか口火を切って一夏がそうシャルルに話しかけた。その瞬間、目に見えてシャルルの表情が曇るが、一瞬の間を置いて勇気を出すように静かに口を開いた。
「うん……それは実家の方からそうしろって言われてね……」
「シャルルの実家……デュノア社からか?」
「そうだよ慎吾、それも僕の父……社長からの命令なんだ……」
慎吾の質問にシャルルは弱々しく答えると、静かに、まるで自分の罪を自白するかのように語り出した。
父の愛人の子と生まれ実の父とも殆ど会えず、父の本妻の相手に虐げられた壮絶な過去。そして経営危機に陥ったデュノア社に利用され男装して注目を集める広告塔にされている現状。そして
「一夏……慎吾ごめんね……僕はIS学園で君達に接近して……白式とゾフィーのデータを盗むように言われているんだ。学園生活を助けてくれた二人に……嘘を付いちゃってたね……」
最後にシャルルは悲壮に満ちた痛々しい表情でそう言うと深く二人に頭を下げた。
「……かよ、それで……」
「え……?」
と、そこで何かを堪えきれなくなったように一夏が小さく呟き、思わずシャルルは聞き返す。
「それでいいのかよシャルル!?」
「い、一夏……?」
次の瞬間、一夏はシャルルの肩を掴んで顔を上げさせると強くシャルルにそう語りかけた。
「親が何だって言うんだよ!親がいなきゃ子供は生まれない……そりゃそうだろうだけど、だから子供の自由を親が踏みにじって良い訳が無い!どんな子供にだって夢を求めて輝くチャンスはあるはずなんだ!」
「落ち着け一夏……お前の言うことが正しいと私も思うし共感も出来るが……シャルルを怯えさせては駄目だ」
必死にシャルルにそう熱弁する肩を軽く叩いて慎吾は一夏を落ち着かせた。
「あっ……悪いシャルル……つい……」
と、そこでシャルルの様子に気付いた一夏は慌ててシャルルの肩から手を離し、謝罪した。
「う、うん……でも、どうしたの一夏?」
「それは……」
一夏の手から解放されたシャルルは多少ドキマギした様子ながらもそう尋ねる。その言葉に一夏は迷いを見せたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「それは……俺と千冬姉が両親に捨てられたから……」
一夏がその言葉を口にした瞬間、資料で知っていたのかシャルルはハッと息を飲んだ。
「ご、ごめん…………」
「気にしなくていい、俺の家族は千冬姉だけだし……今更、親に会いたいとも思わないさ」
シャルルは慌てて一夏に謝罪するが一夏は対して気にした様子は無く、そう苦笑しながら言った。
「……ところでシャルル、君はこれからどうしたい?」
と、そんな中、何かを考えるように黙っていた慎吾が口を開き、シャルルにそう質問した。
「えっ……どうって言われても……フランス政府に真相を知られれば僕は代表候補生をおろされて、良くて牢屋行きに……」
「あぁ、そうじゃないんだシャルル」
慎吾の意図が読めないと言った様子でそう言うシャルルの言葉を、慎吾はやんわりと止めた。
「私は純粋に気持ちを聞きたいんだ……政府やデュノア社の事は関係ないシャルルの気持ちをな……」
そう、優しくシャルルに言い聞かせるように言いながら慎吾は再び問いかける。
「シャルル……改めて聞こう、君はこれからどうしたいと思うんだ?」
「僕は………」
慎吾の問いにシャルルは迷いを見せ、言葉につまる。そして、次の瞬間シャルルは少しづつ、思いの丈をぶつけるように語り出した。
「僕は、もう少しIS学園で知り合った皆と過ごしたい……一夏や慎吾、箒やセシリアや鈴と一緒に居たい……!」
「そうか……」
シャルルの想いを聞くと慎吾はそう言って深く頷き
「ならば私はシャルルのその想い……その気持ちを全力で守ろう」
そう満面の笑顔で慎吾はシャルルに言った。
「えっ……?」
「何……私達は互いに知らない中では無い……それどころがシャルルは私達の立派な仲間だ……ならば、守らない理由がどこにあると言うんだ?」
状況を良く理解出来ていない様子のシャルルの右肩にそっと手を乗せ、慎吾はそう優しく言い聞かせる。
「勿論、俺だってシャルルを守るぜ!」
「慎吾……一夏……」
そのシャルルの左肩に一夏もまた手を乗せ、一夏もまた誓って見せた。
「それに、これもまた皆より少しばかり年上の私のつとめと言う奴さ……」
最後に付け足すように慎吾はそう冗談っぽく笑って見せた。
「慎吾さん……それ口癖みたいに言ってますね」
「私のポリシーのような物だからな……」
そんな慎吾に一夏がからかうように笑いかけ、慎吾もまたそれに笑顔で返した。
「(慎吾っていつでも、落ち着いていて親切で強くて凄く頼りになるなぁ……まるで……)」
そんな中、シャルルの心の中に慎吾に対して一つの思いが芽生えつつあった。優しく、暖かい、いつでも見守ってくれる……そんな慎吾を例えるのならば……そう。
「……お兄ちゃん?」
「「……えっ?」」
シャルルの小さく、しかしながらその破壊力はとんでもない発言に再び室内に衝撃が走った。
慎吾、まさかの妹誕生です
……正直、かなりの冒険でした