二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「ウルトラ……フロスト!」
アリーナの中心でゾフィーを展開させた慎吾がそう叫ぶのと同時にゾフィーの手には青くキラキラとした光が一瞬きらめく。と、次の瞬間ゾフィーの両手から白い冷気が発射され、狙いを付けたターゲットは冷気を浴びると一瞬のうちに凍りつき、氷の塊と化した。
「スペシウム!」
ターゲットが完全に凍り付いたのを確認すると慎吾はすかさずゾフィーの腕を十字に組み、スペシウムを放ち、次の瞬間スペシウムは見事氷の塊の中心に直撃して、ターゲットを粉々に砕いた。
「ふぅ……これで一通りゾフィーの装備の動作確認、および訓練は終了……と、言った所か」
砕けたターゲットの破片を眺めながら、そう言うと慎吾はため息と共に肩の力を抜く。本日、第三アリーナで慎吾は珍しく一人でISのトレーニングをしていた。その理由は単純に一夏や箒との予定が上手く噛み合わなかったのもあるが、実際には『自分一人の為の訓練に皆を付き合わせる訳にはいかない』との慎吾の独断の配慮が主であった。
「それにしても……騒ぎが収まるどころかより白熱しているな……予想以上に」
訓練を終え、少しばかり緊張が抜けた慎吾は軽く笑いながら今朝の教室での事を思い出して呟いた。今に始まった話では無いが、『学年別トーナメントで優勝した者は織斑一夏あるいは大谷慎吾と交際出来る』との噂は日を追う事に大きく膨れ上がりもはや学園の女子で知らぬ者はいないであろうほどの大騒ぎになっていた。今日も今日とでクラス内で女子達が夢中になって気付かなかったのか、廊下にまで聞こえるほどの音量で話をしていた為に危うく登校してきた一夏に気付かれそうになり、盛大に取り乱し訳も分からぬ程に慌てていたのだ。
その女子達の慌てぶりを思い返し、再び慎吾はくすりと仮面の下で笑う。
「しかし……一夏はともかくとして、私のような堅物と交際したいと思う女性などはいるのだろうか……?」
と、誰に言う訳でも無くふと思い返し、慎吾がそう呟いた時であった。
「あら?慎吾さん」
「あっ……あんた先に来てたの?」
全く同じタイミングで甲龍を展開させた鈴、そして同じくブルー・ティアーズを展開させたセシリアがアリーナに姿を見せた。
「鈴とセシリアか……私は今丁度、訓練を終えて引き上げる所だが……二人は今からか?」
二人に気付くと慎吾は軽く手を上げ、そう言いいながら挨拶を交わす。
「……ええ、奇遇にもこれから学年別トーナメントに向けて特訓を」
「そう……ホント奇遇な事にあたしも今から始める所だったのよ」
慎吾の言葉に二人は一瞬、視線を交わすと合わせたようなタイミングで口を開いた。
「う、うむ、そうか……」
二人が視線を交わした一瞬、確かに二人の視線の間に見えない火花がぶつかり激しく弾けたのを確認した慎吾は思わず苦笑いしながら返事を返す。どうやら、両者共に優勝を狙って精神が相当に熱くなっているようだ。
「目的が同じなら丁度いいわ……セシリア、あんた『実践的訓練』に付き合ってくれない?……お互いの為にも……ね」
「えぇ勿論構いませんよ鈴さん?……この際どちらがより強く、優雅なのかをここで証明しましょうではありませんか」
現に今もセシリアと鈴の二人は口調だけは穏やかながらも互いにメインウェポンを構え、空気が震えるほどの気迫を構えて対峙し、今にも激突しそうな雰囲気を漂わせている。慎吾はそんな二人を見ながら再び小さく苦笑した。
「(ふふ、この気迫……私が止めても聞かないだろうな……丁度、訓練も終えた事だし私はここで引き上げて……!?)」
次の瞬間、身震いするような急激な殺意を感じた慎吾は直ぐ様意識を切り替え、殺気がした方向へと勢いよく向き直り構えた。
「……一応、聞いておくけど背後から殺意剥き出しで近付くなんてどういうつもり?」
どうやら殺意は鈴とセシリアにも向けてられていたらしく鈴は連結した双天牙月を、セシリアはスターライトmkⅢを慎吾が殺気を感じて構えた方角と全く同じ場所に向けていた。
「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』、そして日本の『ゾフィー』……三機そろって仲良く訓練か?ふん、程度の低い貴様らには丁度いいだろう」
そこにいたのはシュヴァルツェア・レーゲンを展開させたラウラだった。3対1と言う圧倒的不利な状況にいながらもラウラは全く臆した様子も無く、三人に向かってそう見下した視線で挑発するようなセリフを口にしてきた。
「……二人とも、この程度の挑発に乗るなよ?」
ラウラの言葉に鈴とセシリアの両方が口元を引きつらせたのを確認すると慎吾は構えを崩さぬまま静かに二人に告げた。
「言わなくても分かってるわよ……それくらい」
「この程度の挑発に乗るほど私、安くはありませんわ」
不機嫌全快な表情でラウラに殺気を向けながらも二人は慎吾の言葉に頷き、挑発に乗って軽々と動きはしなかった。
「ふん、そう言えば貴様には偶然だろうとは言え、攻撃を止められた借りがあったな……」
するとラウラは今度は慎吾へと視線を向け、残忍な笑みを浮かべ品定めでもするかのようにゾフィーに狙いを付けた。
「丁度いい、今この場で貴様を叩き潰して借りを返してやるっ!」
「……私が断ったら、無理矢理にでも襲ってくるのだろう?……鈴、セシリア、ここは私に任せてくれないか?」
慎吾はそう落ち着いた口調でラウラに向かって一歩また一歩と近付きながら、そっと穏やかな口調で鈴とセシリアを下がらせた。
「ならば……かかってこいボーデヴィッヒ。私が相手になろう」
「話が早いのだけは評価してやろうっ……」
ラウラが満足そうにますます狂暴に笑い、セシリアと鈴が振り返りながらもビットに下がったその瞬間。
シュヴァルツェア・レーゲンとゾフィーその二機が銃弾の如く相手へと向かって同時に動いた。
◇
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ど、どうした一夏?」
「一夏、何かあったの!?
」
一夏は追いかける箒とシャルルに返事もせず、第三アリーナへと続く道を早足で進んでいた。理由は先程から妙にアリーナへと向かう生徒達が慌ただしい事、第三アリーナに近付く程に聞こえる模擬戦にしては異様と言えるほどに激しい物音、そして自主訓練を終えた後に一夏達と合流し、一夏とシャルルの訓練を見学すると約束していた慎吾が姿を見せていなかった。
全ては偶然かもしれない、しかし一夏はたまらなく嫌な予感がしていた。
そして一夏が第三アリーナ入った瞬間に見たのは
仰向けに地面に倒れ、全身にダメージが目立ち、今にも消えてしまいそうな程に激しくカラータイマーを鳴らすゾフィーと
それを冷たく見下ろすシュヴァルツェア・レーゲンを展開させたラウラの姿だった。
次回、一夏が発見するまでの戦闘描写をやります