二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 今回も色々と悩みながら決めました。意見を貰えるととても嬉しいです


44話 天災とゾフィー

 一夜が明け合宿二日目の朝、四方を崖に囲まれた専用ビーチに慎吾達、一学年全員がISスーツを着用して集合していた。……いや、正確に言えば約一名、更に言えば珍しいことにラウラが五分の遅刻をしたのだが、そんなラウラに注意をするより先に千冬はISのコア・ネットワークについて一つ問いかけをし、それを見事にラウラが答えて、その事で遅刻の件を見逃して貰ったラウラは心底安堵した様子で溜め息をついていた

 

「(まぁ……当然、ラウラは織斑先生がドイツで教官をしていた時代にみっちりと叩き込まれたのだろうな……それはもう)」

 

 背筋を伸ばした真っ直ぐな姿勢で地面に屹立しながら、慎吾はラウラが体験してであろう苦労を想像してほんの僅かに顔の筋肉を動かして苦笑した

 

「さて、それでは……」

 

 全員が集合したのを確認してから、千冬が口を開き本日の目的である各種装備試験運用とそのデータ取りの開始を告げようとした時だった

 

「ちぃぃぃちゃぁぁぁぁん~~!!!」

 

 そんな声と共に誰かが砂塵を巻き上げ、信じがたい速度で走ってきた

 

 

「……信じられん……我が目を疑うような性能だ……」

 

 数分後、慎吾は腕を組み上空を見上げながら心に思っていた感情を思わずそのまま口に出してしまっていたが、周囲のクラスメイト達でそれに何か意見を言う者は誰もいない。誰もが今しがた起こった光景に圧倒され、慎吾と同じ事を感じていたのだ

 

「やれる……本当にこの紅椿なら……絶対に……」

 

 その光景を作り出した一人が、たった今手にした専用機『紅椿』を纏い感慨深げな様子でゆっくりと降下してくる箒。その両手には二振りの刀を持っていた。その片方が対単一仕様で箒の打突の動きに合わせてエネルギーの刃を発射して周囲に漂って積乱雲になりそこないだった雲をあっという間に蜂の巣に変えて霧散させてしまった『雨月』。片方が対集団仕様で箒に迫った慎吾が思わず息を飲むほどの凄まじい数のミサイルを一閃、箒の放った斬撃に合わせて発射された帯状の赤いレーザで全てのミサイルを撃沈して見せた『空裂』。紅椿が見せた武装たったのその二つだけではあったがその圧倒的性能に慎吾を含むこの場にいた殆んどの人間が圧倒されていたのだ

 

「ん~箒ちゃんが気に入ってくれたようで、束さんは何よりだよ」

 

 そして、何よりこんな光景を作り出した最大の原因が満足そうに笑いながら紅椿に乗った箒を眺める人物、慎吾も昔、絵本で読んだ事がある不思議の国のアリスの主人公アリスそっくりな服装に身を包み、頭にはやたらにメカメカしいウサギの耳を装着した女性、箒の実姉にして、ISの開発者である篠ノ乃束その人なのだ

 

「(篠ノ乃博士は私達に興味が……いや、先程のセシリアへの態度をみる限り最初から視界にすら入れてないのが正解なのかも知れないな)」

 

 慎吾の隣で先程、束が一夏の白式のデータを分析していたのを見て、自身のIS、ブルー・ティアーズも見て貰おうと勇気を出して接近したものの、束にはっきりとした拒絶と言う形で突っぱねられて、落ち込んでいるセシリアの肩をそっと撫でて励ましながら、束を観察していた

 

「(個人の思考や行動……それも相手はISをこの世を生み出した天才と言って差し支えのないような大博士。冗談でも無く私達とは違う世界を見ていると言うのも有り得る。だが……あまり心地の良い話では無いな)」

 

 そう思いながら、束を見てほんの僅かに眉を潜める慎吾

 

「あっ、そうそう、そこの無駄にでかい2号君。いっくんの今後の為にも仕方ないから、ついでに君のISデータも見せなよ」

 

 と、その時、ずっとこちらには目もくれずに紅椿と箒を眺めていた束がふいに慎吾の方へと向き直り、心底興味が無さそうな口調でそう言った

 

「篠ノ乃博士、2号……とは、私の事ですか?」

 

「そうだよ、それぐらい察しなよ。全く思考が遅い奴だな。君に拒否権なんか無いし、興味も無いから2号君はさっさと前に出てきなよ」

 

 急に束に言われた慎吾が、控えめにそう聞くと束は不機嫌そうに早口で一気にそう言い慎吾をせかす

 

「……はい、分かりました篠ノ乃博士」

 

 慎吾はそんな束に特に動じる事は無く、駆け足で束に近付くと瞬時にゾフィーを展開させた

 

「全く、これだから箒ちゃんと、ちーちゃんといっくん以外の人間は……」

 

 束はそんな慎吾に見向き所か遠慮もせずに慎吾の全身をすっぽりと包むゾフィーの装甲にコードを差し込む。そして空中投影のディスプレイに表示された膨大なゾフィーのデータを見ると

 

「ふ~ん……」

 

 と、一言だけ呟いた

 

「(まぁ……意図せずとも天才と呼ばれる人間には風変わりな思考を持つのかもしれないな……)」

 

 そんな束を見ながら慎吾は、普段は柔軟かつ滑らかな思考をしているのにも関わらず、自身で決めた特定の事柄の場合には慎吾の説得にも動じない頑固さを持つ、自身の親友であり、慎吾が迷わず天才と判断する人物、芹沢光を思い出して仮面の下で小さく笑った

 

「いつまで突っ立てんの? データチェックはとっくに終わったからさっさと行きなよ」

 

 と、そうして思考していた慎吾に束が鬱陶しそうにそう言ってゾフィーの装甲を軽く叩いた

 

「すいません……少し考え事をしていたもので……」

 

「はいはい、そんなの全くどうでもいいから」

 

 慎吾はすぐに軽く束に謝罪して離れるもの、束はそれを全く意に介した様子は無く、しっしっと手を動かして慎吾を追い払う

 

「(ともかく、篠ノ乃博士に関しては博士から接近して来ない限りは不干渉を貫いた方が得策のようだな……)」

 

 ゾフィーの展開を解きつつ、慎吾がそう判断をした時だった

 

「お、おお、おおお織斑先生っ!! た、大変です!」

 

 突如、真耶が小型端末を片手にいつも以上に、いやそう考えても明らかに尋常な程に慌てた様子で叫びながら千冬へ向かって走ってきた

 

 どうやら、慎吾が一通りのスケジュールを見て頭に思い浮かべていた『楽しくも厳しい臨海学校』は誰の予想をも遥かに越えた過酷な物になりそうであった




 束さんの慎吾に対する態度には意見が別れるのかも知れませんが、束さんにとって慎吾は『何かそこにいた、ただの二人目のISが使える男子』くらいにしか思わないだろう。と、判断した結果こうなりました。……しかし、個人的にはむしろ少し優しかったかな?と思っています

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