二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「くっ……二人とも大丈夫か!?」
苛烈極まるな福音からの攻撃をどうにか避けつつ箒は額に滲み始めた汗も気にせず叫ぶように言った
「な、何とかね……」
「5人がかりで、まさかこれほど押されるとは……」
自機IS、肉体共に傷だらけでフラフラになりながらも、どうにかそう箒に返事を返すのはシャルロットとラウラ。
鈴に活を入れられて気力を取り戻した箒を中心として、それぞれISのパッケージのインストールを済ませたセシリア、鈴、シャルロット、ラウラの5人で数十分前から福音に挑み続けているのだが、現状は最悪とも言える程に悪かった
最初こそラウラの奇襲が成功した事もあり優勢を保っていた5人ではあったが、獣のような声を発し凄まじい速度かつ怒濤の攻撃を仕掛けてくる福音に徐々に押し返されてゆか、一番消耗が少ない箒で現在進行形で疲労の色が見え始め、シャルロットとラウラは半ば気力と根性で戦闘を続けているような状態。一番損傷が酷い鈴とセシリアにいたっては墜落寸前で海面近くをどうにか飛んでいるに過ぎない
「これ以上……戦闘を長引かせる訳にはいかん!」
徐々に傷付いていく仲間達を見ている事が出来ず、箒は覚悟を決めると福音の放つ光弾を回避しつつ福音の懐目掛けて勢い良く飛び込んだ
「援護は……任せておけ!」
「出来る限り持ちこたえるよう頑張るけど……急いでね」
そんな箒を助ける為に懸命に体力を振り絞りラウラとシャルロットは援護するように福音へと攻撃を開始した
「うおおおおっ!!」
それと同時に箒は弾かれたように急加速をして一気に福音へと詰め寄ると局所的な展開装甲を用いたアクロバットな動きで空中で踊るように、回避でさえ次の攻撃を放つ為の回避にしか使わず、しかも徐々に出力を上げて行く押し潰すような超徹底的な攻撃を仕掛け、その猛ラッシュを受けて次第に福音は紅椿へと押され始めていた
「今だ……っ!」
そして次の瞬間、押された福音がたまらず生んだ一瞬の隙を目掛け、必ずこの一撃で仕留めんと雨月での打突を放とうとした瞬間だった
「なっ……!?」
先程までの攻撃と回避を兼ねたアクロバットな動きで紅椿はエネルギーを切れを起こしたのか、攻撃は空振りに終わり、箒に決定的な隙が生まれてしまった
「いかん! 早く退け!!」
その隙を逃さんとばかりに福音が箒の首へと手を伸ばし、それに気付いたラウラが慌てて箒へ向かって叫んだ
「しまっ……ぐぁっ!」
が、ラウラの声には気付いたものの箒の回避はあと一歩の所で遅れ、箒は福音に捕らわれてしまった
「(ふ、不覚……だ……すまない一夏……)」
迫りくる福音の光輝く翼、そして箒を助けまいと枯渇しそうなシールドエネルギーで福音に挑もうとするラウラとシャルロットを眺めながら箒がそう諦めるように思った瞬間
福音に二つの光、強力な荷電粒子砲とZ光線が命中し、福音はたまらず掴んでいた手を離して吹き飛ばされていった。そして
「俺の仲間は、誰一人としてやらせねぇ!」
白く、輝きを放つ白式第二形態・雪羅を纏う一夏と
「福音よ、覚悟するといい。私は二度も同じ相手に不覚はとらないぞ……!」
全身から赤いオーラのような光を放ち、より強烈な一撃を生み出す為に元より一回りほどき屈強に太くなった四肢を持つ、力強さに満ちたゾフィー第二形態・スピリットを纏った慎吾の二人が姿を表した
◇
「今、皆にエネルギーを分け与えよう!」
慎吾はそう告げると光の手によって完全に修復されただけでは無く、より多くのエネルギーを蓄積出来るように改装されたウルトラコンバータで5人に平等にシールドエネルギーを分け与えた
「お兄ちゃん! 良かった……」
「うむ、おにーちゃんならばきっと大丈夫と信じていたぞ!」
慎吾が皆にシールドエネルギーを配り終えると、すかさずシャルロットとラウラが嬉しそうに慎吾の元へと駆け寄ってきた
「うむ……心配をかけてしまったようだな。……妹達よ」
慎吾はそんな二人に仮面の下で優しく微笑みかけると、ゾフィーの両腕でそっと二人の頭を撫でた
「あっ…………」
「これは……悪くないな……うむ、悪くない」
巨大な鉄塊でも軽々と吹き飛ばしそうな力強さに満ちた姿のスピリットゾフィーではあるが、二人の頭を撫でる動作はとても優しく慈愛に満ちており。シャルロットとラウラの二人は思わずその暖かさに酔いしれていた
「それでは……二人とも、私は行ってくるよ」
そして慎吾は、福音へと向かっていく一夏の姿を確認すると背を向けて勢い良く飛び立っていき、二人は静かにその後ろ姿を眺めていた
太陽のように輝くそれが決して福音に負けたりはしないと確信して
◇
「うおりゃぁぁぁっ!!」
第二形態移行を済ませた事で更に速度を増した白式が右手だけで構えた雪片で福音目掛けて切りかかる。それを福音は寸時の所で回避するが
「せやぁっ!!」
その瞬間、白式の左手の新兵器《雪羅》が変形したエネルギー刃のクロー。そしてより大きく、より破壊力を増したスピリットゾフィーのスラッシュ光線が炸裂し福音は吹き飛ばされた
『敵機二機の情報を更新、共に攻撃レベルAで対処する』
と、吹き飛ばされながらも福音は体制を整え、全身の翼を広げ掃射反撃を開始した
「そうしてくるだろうと思ったよ……!」
しかし、二人共にその攻撃を全く回避しようとはせず、一夏は雪羅シールドモールドの相殺防御で完全に防戦仕切り、代わって前に出た慎吾は口火を切って以前よりエネルギーが密集した事で目映い光を放つようになったスペシウムを凪ぎ払うように放ち光弾を打ち消して行く。更にそれだけでは無い
「ハァァッ……!!」
一瞬、スピリットゾフィーが輝いたと思うや否やスペシウム発射から『全くタイムラグを置かず』ゾフィースピリットからはウルトラスラッシュ、そしてZ光線が次々と発射され。ウルトラスラッシュは福音の光弾をすり抜けながら羽の一本を吹き飛ばし、Z光線は残りの光弾を貫通して本体へと直撃して強制的に福音の掃射を止めさせた。
「あれは……!?」
そんな動きをしたゾフィースピリットがまるで自身の得意技とする『高速切替』を使用しているかのように見えたシャルロットが思わず息を飲む
『状況変化。最大攻撃力を使用する』
と、Z光線が直撃して怯んでいた福音がそう告げると、翼を体へと巻き付ける
「まずい……っ!」
何か嫌な予感がした一夏は四機のウィングスラスターを備えた白式・雪羅の二段瞬時加速で何とか福音を止めようと試みる
「大丈夫だ、私に任せろ」
しかし、それを遮るように慎吾が福音へと向けて生身の人間が見ればテレポーテーションでもしたとしか思えないような早さの瞬時加速で詰め寄ると右手を福音に向けて突きだす。その瞬間、再びスピリットゾフィーの体が一瞬だけ光に包まれる
「まさか……!」
何か確信じみた予感を感じたラウラが呟いた瞬間、福音はピタリとその動きを止める。いや、良く見ればその姿は不可視の何かに捕らわれ、そこから逃れようと福音が必死に抵抗しているように見えた
その光景は余りにもAICを使用したシュヴァルツェア・レーゲンに酷似していのだ
「今の私ではそれほど長くは止めていられない……今だ一夏!」
そして、慎吾は福音の動きをしっかりと止めたまま一夏に向かって叫ぶ
「分かりました慎吾さん!……箒!」
「一夏……?」
一夏はそれに答え、零落白夜を発動しながら箒へと向かって叫ぶ
「三人全員であいつにリベンジだ! あいつに一発決めてやろうぜ!」
「…………あぁ!!」
一瞬、戸惑うような目をしていた箒だったが一夏がそう言うとすぐに返事を返し、二刀を構えると一夏と共に福音目掛けて飛んで行く。
そして、慎吾が福音を離した瞬間
「うおおおっ!!」
「せやぁあああっっ!!」
白式の白と紅椿の紅、二つの光が瞬時に炸裂し福音を同時に立ち切った
「……よっと」
そして、アーマを失いスーツだけの状態になった操縦者は慎吾が余裕を持って傷付けぬよう抱き締めるように受け止めた
「ふぅ……今度こそ終了……苦戦したな……」
病み上がりから更に未知の第二形態を使用した事で肉体と精神、共に急激な疲労を感じていた慎吾は操縦者を落とさないように注意しながら大きく溜め息をついていた
「だがまぁ……皆を守れたんだ。万々歳と言った所かな」
改めて全員の無事を確認した慎吾はそうどこか満足毛に言いながら空を見上げる。
見上げた空では夕闇に肩を並べ、一夏といつの間にか髪にリボンを結んでいた箒が立っていた
ゾフィー・スピリット
ゾフィーが第二形態移行をした姿、外見的な変化は強化された両手両足と体に纏う溢れる程のエネルギー光のみだが、その機動、攻撃、防御の全てが著しく強化されている。その最大の特徴はコアネットワークによりある程度の交流、例えて言うならば『絆』を持った機体や操縦者が持つ技能を、ある程度再現ら使用する事が出来る事であり。無限の可能性を秘めているIS とも言える
ただし一回の戦闘で再現出来るのは精々三回。それ以上は再現度が大幅に落ち、機体にも損傷があるためにメリットは無いに等しい。
なお、スピリットゾフィーはエネルギーの消費や機体の事を考えると戦闘可能時間は約180秒である