二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「すまない一夏……私の勝手に巻き込んでしまって……」
放課後、机上で今日のまとめの復習を教えていた慎吾はそう言って一夏に頭を下げた。
「いいですよ慎吾さん。俺もあのときはつい口が滑ってから止まれなくなっちゃって……慎吾さんが止めてくれなかったらどうなっていたか……」
「そうか………なら、いいんだが……」
「それにほら、まだ一週間も俺達には時間があるんじゃないですか」
そう自信ありげに言う一夏。その言葉に慎吾は一瞬、呆気に取られたような表情をする。が、すぐに小さく笑みを浮かべた
「……うむ、そうだな『一週間もある』そう考えた方がずっと良い。よし、今日の復習を続けるぞ」
「はい、慎吾さん!……正直、勉強でもしてないと……やりきれないし」
後半は小声でそう言いながら一夏は視線だけで一組の廊下や教室に押し掛けている他学年や、他クラスの女子達をそっと指し示す。集まった女子達は一夏や慎吾が何か動く度に数人で楽しげに話し合う。と、言った事をずっと続けていたのだった。
「その気持ちはよく分かるが……仕方がない事だな。彼女達が私や一夏に慣れるその時まで、私達は何とか堪えていこう。この学園の皆との関係を良くするためにも、な?」
先程、視線を向けた時に集まっている女子達がさらに増えている事に気付き、机につっぷす形でぐったりする一夏の肩を軽く叩きながら慎吾は一夏を励ます。
「ですね……慎吾さん」
慎吾の言葉でどうにか立ち直ったのか、一夏はまだ顔色は若干青ざめているものの机から顔を上げて弱々しい笑みを見せる。と、そんな時だった。
「ああ、織斑くんに大谷くん二人とも教室に残っていたんですね。よかったです」
書類を片手に持った真耶が、二人に近づきながら話しかけてきた。
「山田先生どうしました?私達に何か用事がありましたか?」
真耶に気が付き、視線を向けながら訪ねる慎吾。
「あ、はい大谷くん、大谷くんと織斑くん二人の寮の部屋が決まりましたよ」
そう答えながら真耶は二人それぞれに部屋番号の書かれた紙と鍵を差し出す。
「……って、あれ?慎吾さん、確か俺達の部屋って……」
と、一夏が不思議そうな表情で慎吾の顔を伺う。
「あぁ……まだ決まってはいないから当面の間は自宅通学だ……と、聞きましたが……もしや……急遽、変更が?」
一夏の疑問に継ぎ足すように、慎吾が真耶に訪ねる。
「はい、そうなんです……政府からの特命で……二人とも聞いてませんでした?」
と、質問に答える真耶は最後あたり二人だけに聞こえないようにする為にか妙に距離を詰めて話す。途端にクラス内外の人間の視線が一気に熱をおびた。
「あの………失礼ですが山田先生……距離が近すぎではないですか?」
「か、顔に、息、かかってます……」
「あぁっ!?そ、そのっこれは……」
困ったような表情の慎吾と照れているのか顔を染めている一夏の指摘を受けた状況に気付いたのか真耶は慌てた様子で無意味に両手を忙しげに動かす。
「えっと、ともかく部屋の事は分かりましたから、荷物の準備の為にも今日はあとちょっとしたら俺達は帰っていいですか?」
その空気がいたたまれなくなったのか一夏がそう真耶に言い、慎吾が了承がわりに軽く頷くのを確認すると、ノートを閉じ荷物を纏めようとした時だった。
「二人の荷物なら、私が手配しておいてやった」
いつの間にか教室に入ってきたのか千冬が二人に告げる。
「どうもありがとうございます織斑先生。助かります」
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、生活必需品、あとは着替えと携帯電話の充電器それだけがな、十分だろう」
やたら大雑把な荷物のラインアップに慎吾と一夏は苦笑し、その後真耶から大浴場などの説明を聞き若干のハプニングもありながら(慎吾は笑いを堪えるのが大変だったが)、二人は解放され並んで寮へと向かっていくのであった。
◇
「では、一夏ここでお別れだな」
「うう……俺も慎吾さんと同じ個室が良かった……」
一夏の部屋1025号室からほど近い部屋、それも偶々人数調整の為に個室になっていた慎吾を恨めしげに見ながら、一夏が言う。
「こればかりは仕方ないな……何、部屋が近いことだし何かあれば私も行こう」
「本当に頼みますよ慎吾さん………」
そう言いながら、慎吾は一夏を慰めると鍵を開けて部屋に入って行く。ドアが閉じる中、まだ諦めきれないのか一夏が慎吾に向かって懇願する。
「任せておけ、必ず行く」
ドアが完全に閉じる直前に慎吾は背一杯安心させようと軽く笑いかけながらそう言い、静かに一夏に背を向けた。
「ベッドは二つか………まぁ、偶然発生した個室ならば当然か」
慎吾は片方のベッドに手荷物を置くと、部屋の内装を確認するためにグルグルと歩き回る。
「シャワーがあるのは本当に幸いだな、これで思う事無くトレーニングに集中出来るというものだ。ふむ……そうなると私個人にとっても個室になれたのは予想外の幸運だったと言うべきかな」
部屋のシャワーを確認した慎吾は、さっそく日課のトレーニングをするために制服を脱いでハンガーに吊るすと上はタンクトップ一枚、下は動きやすいジャージに着替え、さっそくとばかりに腹筋を始めようとしたまさにその時だった。
バタン!ズドン!
音にするならば、そう表現されるような激しい音が連続して響き、一瞬後に
「し、慎吾さん助けてぇぇぇ!!」
と、言う一夏の悲鳴にも似た叫びが聞こえてきた
「どうした一夏!何かあったのか!?」
その声を聞いた瞬間に慎吾は素早くクラウチングスタートのごとく床を蹴って走り出すと、そのまま飛び出すかのような勢いでドアを開く
「し、慎吾さぁん……」
慎吾が扉を開くと、どういう状況か一夏は自室のドアを背にへたれこんでおりドアには数センチ程の風穴が空いていた
「一夏、こ、これは一体どういう状況だ……?」
読めない現状に困惑した慎吾は思わず口に出して一夏に訪ねる。と、そこで慎吾同様に騒ぎを聞き付けたのか部屋から無防備な姿を晒した女子が次々と姿を表す。
「……なになに、あっ織斑くんと、大谷さん………って、大谷さんの筋肉すごっ!!」
「えー、見せて見せてー……うわっ、本当だ……ウチのお兄ちゃんの倍ぐらいあるよ……」
「制服着てたら分からなかったけど……大谷さん細マッチョなんだね……」
女子達の注目は上半身がタンクトップ一枚の慎吾に集まり、一部は筋肉フェチなのか何かを堪えるかのようや表情で指を動かしてたり、ぼおっとした表情で慎吾の上半身の筋肉を見つめている者もいた。
「い、一夏、改めて聞こう何があった?」
回りの声が気になるのか、若干、震えるような声で慎吾が一夏に近寄って訪ねる。
「じ、実はですね俺の部屋と同室なのが箒だったんですが……」
一夏は慌てて、事の顛末を慎吾に話す。短く纏めればそれはシャワーあがりでほぼ全裸に近い箒を一夏が見てしまうと言うフィクション等で良く見かける所謂『ラッキースケベ』に遭遇した、との事だった。
「ぷっ、あっはっはっはっ……!」
「ちょっ慎吾さん!?笑わないでくださいよ!?」
それを聞いた瞬間に慎吾は思わず吹き出し、慌てた様子で一夏はそれを止める。
「す、すまない……詫びがわりだ、私が何とか篠ノ乃を説得しよう」
未だに残る笑いを堪えながらもそう言いながら慎吾は一夏をどかして1025号室のドアの前に立つと軽く3度ノックしてから話し出す。
「篠ノ乃、私だ、大谷慎吾だ。一夏は十分に反省しているので部屋に入れてやってはくれないか?今の一夏は……正直に言えば同性の私から見て、その…実に不憫なんだ。どうか頼む篠ノ乃」
慎吾の言葉が終わって慎吾がドアから離れると沈黙が流れる。天を仰ぎ合掌している一夏を尻目に時間だけが数分過ぎ、再び慎吾が箒を説得すべくドアの前に立とうとした時だった。
「……入れ」
突如、扉が開き、剣道着をまとった箒が姿を表した。
「お、おう……慎吾さんありがとうございます!」
入室許可を得た一夏は慎吾に感謝しつつ慌てて部屋に飛び込んだ。
「ありがとう篠ノ乃、私の話を聞いてくれて」
ドアを閉めようとする箒に慎吾がそう告げる。
「……一夏のせいで大谷にまで迷惑をかける訳にはいかなかったからだ」
箒はそう慎吾に返すとドアを閉じる。
「(ふぅ……なんとか一段落か)」
ドアが閉じられると慎吾は静かに額の汗を拭き取ると、部屋に戻りトレーニングを再開した。
そのトレーニングに熱中し過ぎて慎吾が1025号室からの騒音に気付かなかったのはまた後の話である。
ゾフィーのイメージから慎吾は細マッチョで長身って事にしました。タンクトップは……あの人モチーフですはい