二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 何とか間に合った……やはり、これだけギリギリだと心臓に悪いですね


50話 臨海学校終了……慎吾の衝撃の結末

「うっ……痛ぅ……」

 

「大丈夫か慎吾、傷が痛むのか?」

 

 案の定、賑やかになった食事を終え、旅館ロビーの角で光と将棋をしていた慎吾が体制を変えた瞬間、苦しげに顔を歪めると、光は心配そうに駒を持つ手を降ろし慎吾にそう声をかけた

 

「あぁ……大丈夫だ。少し傷が痛んだだけで大した事は無い」

 

 そんな光に慎吾は傷口を片手で押さえながらも、平気さをアピールするように笑顔をつくって見せた。すると光はそんな慎吾を見てその顔を、ほっと安心したような表情に変えた

 

「それは何よりだが……しかし、大した事は無い……か。俺が駆け付けた時にはゾフィーも慎吾も、コンバータを治してやる事くらいしか出来ない程の重傷であったのにも関わらず。一日もしない内にそこまで回復するとは……」

 

「私にもはっきりとした事は分からないが、ゾフィーが第二形態移行した事が要因に深く関わっているのは間違いないと考えている。それに……」

 

 そこまで光に言うと、慎吾は額に手を当て少し考えるようにしながら、ゆっくりと言葉を続ける

 

「私としたことが、余りはっきりとは覚えていないんだが……意識を失っていた時に誰かに遭遇した気がするんだ。それも不思議な事に初めて会うはずなのに何処か懐かしい感じがする……そんな奇妙な人物だった」

 

「なるほど……夢か……」

 

 慎吾の口から放たれた事情を知らぬ者が聞けば荒唐無稽にしか感じない話を聞いてもなお光は全く動じる事は無く、真剣な様子で考え込みながらそう呟いた

 

「……すまない、俺はゾフィーの開発者の一人だが、それでもはっきりとした事は分からない。あまり力になれそうには無いな」

 

「いや、気にする必要は無いヒカリ。それに、これはいずれ私自身で決着を付けなければならない……そんな気もするのだ」

                        

 申し訳なさそうにそう頭を下げる光に、慎吾はそう言って柔らかく謝罪を止めさせると再び手に駒を持ち、将棋を再開し始めた

 

「……そろそろ教えてはくれないか慎吾」

 

 一手、軽やかな音を立てて再び駒を動かしながら光は慎吾に問いかける

 

「まさか将棋を打ちたいが為に、本社に戻ろうとしていた俺を呼び止めた訳ではないだろう?」

 

「………………」

 

 珍しく冗談っぽく笑うようにそう言う光に慎吾は一瞬だけ沈黙し

 

「親友の君だけにはどうしても話しておきたくてな……」

 

 慎吾は真剣な表情でそう口火を切ると、静かに光に向かって語りだす。

 

 今回の作戦に置いて、自分が感じた違和感、そして束への疑い、その全てを包み隠さず

 

「そうか……今回は事情が事情ゆえに俺も掛け合って大方の話は聞いていたが……なるほど、つまり今回の一連の騒動は篠ノ之博士の手の平の上の出来事だった……。確かに納得出来る話ではあるな」

 

 将棋を打ちつつ一字一句逃さず慎吾の話を全て聞き終えると、そう光は慎吾に同意を示して頷いた

 

「未だにハッキリとしま証拠は無いゆえに確実とは言わないが、今日の出来事は箒の、ひいては紅椿の言わばお披露目が目的で行われたのがほぼ確定と私は認識している」

 

「……それで、仮にそれが真実ならどうするつもりだ慎吾?」

 

 と、そこで黙って慎吾の話を聞いていた光は静かにそう一言だけ、宣告のするかのように告げる。

 

「家族を想い、力になろうとする気持ちは私にも良く理解出来る……血は繋がっていないとは言え、今の私にはシャルロットとラウラがいてくれるからな」

 

 その言葉を聞いて慎吾は目を瞑り、一言ずつ言葉を選ぶようにゆっくりと光へ、心許せる友へと自身の想いを告げていく

 

「だがしかし、だからと言ってそれで他者を踏みにじって良いはずが無い……もし真実だとして、なお私の家族や仲間達を傷付ける事も構わないとするならば私は立ち向かわなくてはならないだろう。……たとえ相手が篠ノ之博士だとしてもだ」

 

「……………そうか」

 

 慎吾が言い終わると光は深い沈黙の後、溜め息をするかのようにそう言うと同時に一手を打ち、その音は静寂に包まれているロビー内に響き渡った。

 

「ならば俺は……持つ力の全てをもって立ち向かう慎吾の為の護る支えとなり、同時に共に戦う力になるとここで約束をしよう。……困った時にはすぐに俺も駆けつける」

 

 そう光は言うとゆっくりと椅子から立ち上がり、慎吾に躊躇いも無く背を向けてロビーから外へと出ていった

 

「あぁ……それと慎吾、将棋はその一手で詰み。お前の負けだ」

 

 と、最後に扉が閉じる直前に光は、慎吾でも数える程でしか見たことがないような珍しくからかうような笑みを浮かべてそう言うと、逃げるように足早で立ち去っていった

 

「む…………」

 

 結果、その一言で慎吾はロビーで一人、難しい顔で気付かぬ内に僅差で押し切られて敗北した盤面としばらく睨みあいをする事になるのであった

 

 

 

 

「一夏……大分疲れているようだな……」

 

「そう言う慎吾さんだって……撤収作業、人の三倍はやってたけど大丈夫ですか?」

 

 翌朝、昨晩の光との一局の敗因を模索し過ぎた結果消灯時間迄に戻る事が出来ず、抜け出し何故か疲労していた様子の一夏と共にたっぷりと千冬の説教を受けて睡眠時間が短くなった慎吾は隣接する運転席近くの座席に腰掛けた一夏と互いに相手の疲労を気づかい、声を掛け合っていた

 

「慎吾さん……飲み物を持ってませんか……?」

 

 疲労しきった様子の一夏は一分の期待を込めて慎吾にそう尋ねる

 

「すまん……私も最後の一本を先程使いきってしまった……」

 

 が、慎吾は申し訳なさそうに空になったミネラルウォーターが入っていたボトルを見せる。慎吾が軽く振った事でその中身が完全に空だと改めて理解すると一夏は大きな溜め息をついた

 

「慎吾さんも駄目か……しんどっ……!」

 

 そう一夏が落胆の声を溢した瞬間

 

「「「「い、一夏っ」」」」

 

 意を決した様子のシャルロット、セシリア、ラウラ、そして箒の声が同時に聞こえ、一夏が振り向こうとした瞬間

 

「ねぇ、大谷慎吾くんと織斑一夏くんって二人ともいるかしら?」

 

 全く同じタイミングでバス車内にカジュアルなブルーのサマースーツに身を包んだ見知らぬ女性が入ってきた。年齢は二十歳ほどだろうか

 

「大谷は私で、隣にいるのが織斑ですが……失礼ですがあなたは?」

 

 一夏と共に一番手前の席に座っていた慎吾はいち早く女性に気付き、そう話しかける

 

「ふぅん……君たちが……へぇ……」

 

 鮮やかな金髪が美しい女性は慎吾の言葉を聞くと、一夏、続いて慎吾と順番に興味深そうに眺めていく。その瞳からは品定めをしているような感じは無く、純粋な好奇心が読み取れた

 

「あ、あの……?」

 

 その女性が持つ独特の色香のせいか、落ち着きを保てなくなった様子で一夏が女性に尋ねる

 

「ふふっ、私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音』の操縦者よ。ありがとう、白のナイトさん」

 

 そんな一夏を見て、女性、ナターシャは色っぽく笑うと一夏の手を優しく取って握りつつウィンクして見せ、そんなナターシャから漂う大人の女性特有の色気に魅せられたのか一夏の頬は赤く染まった

 

「そして……」

 

 そうして数秒程、一夏の手を握ってから離すとナターシャは今度は慎吾の前に立つと、すっと握手を求めるように右腕を差し出した

 

「これはどうも……」

 

 それに答えるべく慎吾が右手をナターシャに差し出た瞬間

 

 

 

 慎吾の右手首はナターシャの右手にしっかりと囚われた

 

「えっ……?」

 

 慎吾が混乱した瞬間、ナターシャの左手がそっと慎吾の頬に添えられ、慎吾の視界いっぱいにナターシャが入り込み

 

「ちゅっ……」

 

「!?」

 

『!?』

 

 ナターシャが大胆に慎吾の唇を奪い、慎吾、そして一部始終を見ていたクラスメイトの達の驚愕の声がシンクロする

 

「忘れないわ……あの時、私をしっかりと両腕で抱き締めて守ってくれたあなたの暖かさを、あなたの優しさを。……今日のこれはお礼だけど、また会いましょう慎吾くん?」

 

 数秒程、重ねた唇を離すとナターシャは少しだけ朱を浮かべた頬でそう言うと、慎吾の手に連絡先が書かれてると思われる名刺を渡すと慎吾に手を振ってバスから降りていった

 

「な、な、な、な、な…………」

 

 突然、余りにも突然過ぎるナターシャからのキスに言葉が震え、何も言うことも思考さえも出来なくなる慎吾。

 

「……むぅ」

 

 そんな慎吾をどこか面白く無さそうな表情で真耶は見ていた事には誰も気付く事はなかった




 山田先生にナターシャ……書いてると何故か慎吾が年上ばかりにモテるように……何故なんでしょう

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