二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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59話 慎吾と偉大なる『父』、舞い降りる群青

八月のお盆、慎吾はただ一人IS学園の制服を着て、美しい花が咲き並ぶ小高い丘の上に立てられている一つの墓を訪れていた

 

「……父さん、私もIS学園に入学してから立て続けに様々な出来事がありましたが……流石に今回の事件ばかりは自分が体験した事が未だに夢のように感じれます」

 

 自身が供えた花束を時折眺めながら、何処か楽しくそうにそう語りかける慎吾。その脳裏に浮かぶのはIS学園で出会った仲間達、激闘と騒動の数々、そして自身がつい最近体験した『もう一人の自分』がいる異世界で超獣と呼ばれる超巨大な生物との死闘。それらを思い出すと慎吾は口から大きく、そして深くため息をついた

 

「(結局、あの出来事をありのままで学園側に伝えるのは諦めた。私が報告したのは『光に包まれたら意識を失い、気付いたらベッドで寝ていてISもいつの間にか損害を受けていました』……と言った感じで一夏の話に合わせた事実半分の内容。余りにも荒唐無稽で事実を話した所で信じられるような事では無かったからな……。しかし)」

 

 慎吾は報告時に少しだけ勘ぐる様な目で見ながらもその報告をそのままに受け入れてくれた千冬を思い出し、改めて感謝しながら慎吾は制服の上着に大事にしまっていたある物を取り出すと、墓に、そこに眠っている自身の父にも見えるように突きだした

 

「もしかすると私は彼との、もう一人の私であった『ゾフィー』と語り、共に戦った想い出を、出来るだけ自分の心の中だけに留めていたかったのかもしれません」

 

 そう穏やかな笑みを浮かべる慎吾の手に握られているのはルビーのように赤く透き通り、加工したかのように美しい球体をした手のひらに収まる程の大きさの小さな石だった

 

 この石は帰還後、見舞いに駆けつけたシャルロットとラウラが戻った後に、気付けばいつの間にか慎吾が眠っていたベッドの側に置いており、それを不思議に思って手に取った瞬間、慎吾の頭にまるでテレパシーのように『ゾフィー』の声が聞こえてきたのだ

 

『慎吾、私と君が共に戦った友情の証にこの石を渡そう。きっとこの石が手に終えないような窮地に陥った時、君の助けとなってくれるはずだ』

 

 そう、短いながらも暖かさに満ちた『ゾフィー』のの声は決して幻聴の類いでは無いことが不思議と慎吾には確信する事ができ、それ以来慎吾はこっそりと鑑定を頼んだヒカリにさえ『解析不能』と診断された、この赤い石をお守りの如く肌身離さず持ち歩いているのであった

 

「手に終えない程の窮地か……出来れば皆の為にも来ないでくれるとありがたいのだがな……」

 

 そう慎吾が呟きながら石を再び懐にしまった時だった

 

「やぁ慎吾くん、先に来ていてくれたか」

 

 そんな風に慎吾の背中から穏やかな語調の男性の声がかけられた

 

「『ケン』さん……どうも、お久しぶりです」

 

 その声を耳にした瞬間、慎吾は緩やかに立ち上がると振り向きざまに落ち着いたグレーのスーツに身を包んだ男性、ケンに向かって深く頭を下げた

 

「前にも言ったが……慎吾くん、そんなに私に気を使ってくれなくてもいい。君は私の友人であった彼の息子なんだ、君さえ良ければ別に私に実の家族のように接してくれても良いんだぞ?」

 

 そんな慎吾を見てケンは男性にしては長めの髪が伸びる頭を困ったように掻きながら、一般的に見て誰もが美形と判断するような力強さと優しさを兼ね備えた非常に整っている顔を、困ったような笑顔に変えながてそう言った

 

「いえいえ、ケンさんには私は既に十二分にお世話になりましたし、今も世話になり続けているも同然です……これ以上私がケンさんに迷惑をかける訳にはいきませんよ」

 

 そんなケンに慎吾は頭を上げながら、僅かな迷いも見せずにそう告げる

 

 事実、実父を失い急に天涯孤独の身になった事で途方に暮れていた慎吾の元に『親友の息子が困っているのだから』と誰よりも早く駆け付けて慎吾が一人で生きてゆく為の力になり、未熟だった慎吾の格闘技術を『父のように強くありたい』との慎吾の言葉を受け止めて今のレベルにまで鍛え上げ、そしてMー78社内部から幹部の面々に慎吾が十二分に信用たる人物であると丁寧に説いた人物こそが、今慎吾の前に立つケンその人なのであった

 

「それは、確かに一理あるのかもしれないが……。しかし慎吾くん、格闘技に関しては君は元々天性の物がある。私がいなくとも独力でその力を開花させる事は十二分に出来ただろう。Mー78社の事に関しても私は重役の立場を捨て置き、公平な視点から見た真実を話したに過ぎない。君の世話に関しても当然の事をしたまでだから君が特別にかしこまる必要は無いぞ?」

 

 慎吾の話をじっくりと聞いてからケンはそう柔らかに、あくまで優しい口調で慎吾を諭した

 

「……それでも私は、あなたにはいくら感謝しても感謝仕切れないと思っている。そのつもりですよ」

 

 ケンにかけられた言葉に慎吾は笑いながら小さく首を降ってそう言った

 

「それでは私はこれで……」

 

 最後にそう一言だけ告げると慎吾はケンに背を向けて歩き出した

 

「……たまには家に来てくれ、妻も子供も久しぶりに君に会いたがっているんだ」

 

 去りゆく慎吾の背中に向けてケンは最後にそう一言呟いた

 

「………………」

 

 その返事が聞こえていたのか聞こえていなかったのか、慎吾は何も言うことは無く無言でその場を後にするのであった

 

 

 慎吾が父の墓を訪れていた頃、IS学園正面には光が訪れていた

 

「今年中にやらねばならない事は終えた、これで漸くIS学園に通学出来るな。……まさか夏期休暇までかかるとは思わなかったが」

 

 研究所での苦労を思い出してそう小さく苦笑する光ではあったが、内心では再び学園に通える事が嬉しくて仕方がなかった。その大きな理由は自身の親友たる慎吾と学園生活を共に出来る事、そして

 

「篠ノ之よ……これが因果なのかどうかは私には分からないが……今度こそ互いに決着を付ける時だ……」

 

 そう力強く語りながら学園屁と向かって歩き出す。その目には、今にも火が付きそうな程に燃える闘志の炎が輝いていた




 今回の話で『真・ゾフィー』編はエピローグです。そして……次回からは『ヒカリ対箒編』と、なりす

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