二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 最近になって、書く上で動きの参考になるかとゾフィー隊長のULTRA-ACTを購入しました。思っていた以上に稼働して面白いので純粋に良い買い物でした。


61話 蒼紅の光と影

「全く……水臭いじゃあないか、あんな事をするなら事前に言ってくれ」

 

 あれから少しの時間が流れて慎吾と光は二人だけで中庭のベンチに少しの距離を空けて並んで座り、話し合っていた

 

「いや、すまない慎吾……。俺が勝手に決めていた事だからな、君を巻き込むまいと思ったのだが……余計な事だったようだな……」

 

 困ったようにそう言う慎吾に、光は少し苦笑しながらそう軽く謝罪すると、そっと目を瞑った

 

「慎吾……俺はな、あの時、決勝戦で篠ノ之との試合を果す事が出来なかった日から心の片隅でずっと……お前と共にいる時も、この学園に入学した時も、研究所で仕事をしている時にだって、言い様の無い不完全燃焼のような想いがくすぶっていたんだ……」

 

「……………………」

 

 目を瞑ったまま光は慎吾だけに聞こえるような小さな声で独白を始めた。それに慎吾は特に何も言わずに、黙って座ったまま光の話に耳を傾ける。光も慎吾の態度にとやかく言う事などはせずに言葉を続けていた。

 

「だから篠ノ之がIS学園に入学すると知った時、俺はどうしても自分の気持ちを押さえる事が出来なかった。想ってしまったんだよ『心に渦巻く不完全燃焼を消し去る為に、ただの剣道の試合ではなく、今持てる全ての力を持って篠ノ之との決着を付けたい』とね……」

 

「……それでISでの勝負と言うことか?」

 

 と、そこで沈黙していた慎吾が光の言わんとした事を悟ったように小さく苦笑して言った

 

「あぁ、篠ノ之が断ったのならば、剣道の試合で再戦を頼むつもりだったが……引き受けてくれたからな」

 

 慎吾に返すようにそう言いながら光もまた苦笑して目を開くと再び、先程箒と対面し、箒が迷いながら果たし合いを引き受けた時に見せたような闘志をその瞳に映した

 

「篠ノ之が俺の勝手な提案での勝負を引き受けてくれた以上、この試合で俺が負けるにしろ、勝つにしろ、それで明日を切り開いて未来へとつき進める気がするんだ」

 

「……そうか頑張れよ、『光』」

 

 どこか確信を込めてそう語る光に慎吾はそう一言だけ返事をして、ゆっくりと首を縦に降った。と、そこで光は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた

 

「……そうだ、蛇足になってしまうが篠ノ之とのこの試合、本音を言えば俺は慎吾に応援をして欲しいのだが……お前の話を聞いてると篠ノ之とは、それなりに深い交流があるみたいじゃあないか?」

 

 いかにも実際に悩んでいるかのような口調で慎吾にそう尋ねる光、しかし良く見ればその口元には笑みを浮かべており、慎吾は勿論その事には気が付いていた。気がついたうえで迂闊には行動せず、光の様子を伺っていたのだ            

 

「そこで慎吾に一つ聞こう。この試合、お前は俺と篠ノ之の一体どっちを応援してくれるんだ?」

 

「……………………」

 

 少しだけ突きつけるようにしながら立ち上がり、慎吾の顔を覗きながら言う光。それに対して慎吾は一瞬だけ沈黙し

 

「試合前で気持ちが高ぶっているのは分かるが……冗談はそこまでにしておいてはくれないか? 流石に私でも困惑するぞヒカリ」

 

「ふふ……相手がお前では、流石にそれくらい分かるか。あまり冗談など言わない物だから無理があるとは思っていたがな」

 

 苦笑しながらも迷いなく答えた慎吾を見ると、光は特に残念がる様子も無く再びベンチに腰かけた

 

「しかし……先程の応援の話は冗談だが試合を見てもらいたいのは本当だ。是非来てくれ慎吾」

 

 ベンチに腰かけながら語る光の顔からは僅かに見せた意地の悪い表情はすっかり消え失せており、光がいつも慎吾に見せるような落ち着いた笑みをしていた

 

「あぁ、それは勿論。是非とも見に行かせて貰う。ヒカリの専用ISも見てみたいからな」

 

 慎吾の頼みを一瞬の迷いも無く受け止めた慎吾は、最後に一瞬だけ光の右腕に大きなブレスレットの姿で装着された、待機状態の蒼いISに視線を向けた

 

「勿論、お見せしよう。この俺と名前を同じくし、Uシリーズの新型IS『ヒカリ』その優れた性能をな」

 

 みなぎる自信を見せてそう強く語る光。その目には気付けば先程見せた剣士としての目では無く、一人の技術者としての強い誇りが表れ始めていた

 

 

「(駄目だ、上手く精神を集中する事が出来ない……)」

 

 時を同じくして、IS学園剣道場では箒が午後3時に迫る光との対決に備えて鍛練をしていたのだが、どうにも心が揺れて思うように立ち回る事が出来ず、箒は疲労とは別ベクトルの原因で額に流れた汗を拭き取ると、鍛練の手を止めて思考にふける

 

「(とは言っても、この無様な動きの原因は分かっている……芹沢だ……)」

 

 その名を口にしただけで胃の奥にずしり、と重みが込み上げてくる。

 

 それは本来正当に行われる筈だった彼女、芹沢が今日始めて話しても分かる程に心待ちしていた決戦を自身の姉、束が原因で台無しにしまった事に対する罪悪感も勿論強く影響していた。が、それとは別に箒の心にはもう一つ、光が表れた事で無意識のうちに封じ込めていた記憶であり、重くのし掛かっている出来事があったのだ

 

「(私は以前……全国大会で芹沢の『剣』を一度見ている……!)」

 

 甦るのは昨年の剣道全国大会

                        

 その準決勝後の事、一夏が不在故のの苛立ちから感情のままに相手選手を打ちのめし、涙さえ流させてしまった事で自身が剣に込めていた感情の恐ろしさを改めて理解し、呆然とした状態で特に意識せずに入ったもう一つの準決勝が行われていた会場。そこで箒は光の試合を目撃して

 

 その鮮やかで、激しくもどこか穏やかな剣技に思わず息を飲まされた

 

「(あの試合は、芹沢に破れた選手までもが良い勝負が出来たと握手を求めるような誰もが称賛する試合……まるで私とは正反対だった……)」

 

 歓声に包まれたあの試合を思い出し、箒の胸は再びちくりと痛んだ。

 

 浮かんだ責任感から引き受けた今回の試合であったが、一度、剣の道を誤ってしまった自分が私情を差し引いて見ても一年前から既に素晴らしい剣の技術と正しい心の二つを持ち合わせていた芹沢に今の自分が勝利する事が出来るのだろうか?

 

 鍛練の途中で精神を乱す事はあってはならないと理解しつつも、箒の頭の中ではそんな考えが布に染み付いた油のようにしつこく付きまとっているのであった




 今年の更新は次で最後。と、予定しております

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