二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
根気よく粘った慎吾の心力で、どうにか昼食時の騒ぎ収束させ、午後の実習が行われるアリーナに向かうべく慎吾と一夏は実質自分達専用となっているロッカールームにいた
「さて、私はそろそろ行く。先に待っているが……授業開始まであまり時間は無い、気を付けろ一夏」
既にISスーツへと着替え終えた慎吾は、同じく着替え終えた一夏の白式の調整をしばらく手伝っていたが時間が近付いた事もあって一夏にそう告げ、コンソールに向き直ったまま一夏が背中で返事をしたのを確認すると、先にロッカールームを後にし、アリーナへと向けて歩きだし
「あら……?」
唐突に、本当に何の前兆も無く、曲がり角で出会い頭に、扇子を手にした一人の女子生徒に遭遇した
「なるほど、あなたが……んふふ」
女子生徒は一瞬だけ突然現れた慎吾に驚いていた様子ではあったが、すぐにイタズラっぽい笑みを浮かべて慎吾に視線を送り始めた
「…………?」
そんな、どこか不透明で神秘的な雰囲気が特徴的な自分とは初対面である少女、それも光と同じリボンの色から二年生の少女よ行動に少しばかり奇妙な行動に慎吾は困惑させられて何も言うことが出来ず、ただ少女に視線を送り返していた
「ふむふむ……確かに光ちゃんに、言わせる程の事はありそうかしら」
慎吾をじろじろと、しかし不思議な事にあまり不快さを感じさせずに観察していた少女はどこか満足そうにそう言うと、心地の良い通る音を立てて扇子を開いた
「……もしかして、あなたは楯無会長。更識楯無生徒会長ですか?」
少女、更識の手にした扇子に書かれた手書きなのか達筆な『お見事』の文字を横目で見ながら、慎吾はそう楯無に尋ねる
「お? そんな簡単に女の子の名前をピタリも言い当てるなんて……大谷慎吾君も皆に人気があるだけの事はあるね」
そんな慎吾に楯無は少々わざとらしく驚いたような素振りを見せると、男女共に魅了されてしまうような笑顔で慎吾にウィンクを送ってきた
「生徒会長の話は光からも聞いていましたから……ええ」
何気無く行われる楯無のそんな仕種に慎吾は更に困惑し、額からは汗も滲み始めたが慎吾は何とか汗をぬぐい出来うる限り平静を装って楯無に返事を返した
「うん……今日はこのくらいでいいかな。それじゃあ慎吾くん、さようなら。また、近いうちにね」
そんな慎吾の気持ちを知ってか偶然か、楯無は何か納得したように手を叩くと、再び慎吾に笑いかけると慎吾の脇を通り抜け、廊下の奥へと立ち去っていく
「そ、それでは……楯無会長」
そんな楯無の背中に軽いお辞儀と共に慎吾は挨拶して見送ると、仕方が無いとは言え楯無と話す事で遅れてしまった時間を取り戻すべく少しだけ早足でアリーナに向かって動き出した
「(しかし、直接会ってみれば楯無会長は……実に不思議な人だな)」
早足で道を歩いて行きながら慎吾は先程出会った、簡単には忘れる事など無い。どこか神秘的で魅力のある人間性をしていた楯無の事を思い出し、小さく苦笑した
「(先程、楯無会長は別れ際に『また』と言っていたが……何故だろう。私も近い内に再び会う事になりそうな気がしてならないな)」
そうして考えながらも早足で歩いていたのが幸を制したのか、慎吾は全体から見れば遅めとはなるが、授業開始まで幾分かの余裕を持ってアリーナへとたどり着く事ができ、慎吾が列に並び終えて少しした所で授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。が
「(一夏の奴……いささか遅くはないか?)」
授業が開始して既に三分が過ぎている。のにも関わらず何故か一夏が一行に姿を見せない。その事でクラスメイト達は少しずつざわめき始め、そして千冬は表
面上こそ何時もと変わらぬ表情に見えるのだが、時間が過ぎてゆくのと共に少しずつ静かに怒りを蓄積させているのが慎吾には分かってしまい、それが自身に向けられているのでは無いと理解しても慎吾は少し背筋を寒くさせられた
「ねぇ……お兄ちゃん、一夏がどうして遅れてるか何か分からない?」
と、そこで慎吾の近くに立っていたシャルロットがこっそりとそう尋ねてきた
「うむ……私が見たときは、着替えを終えてまだロッカールームでコンソールを弄っていたが……ん?」
シャルロットの問いに慎吾は鮮明に記憶を思い返し、ふと、ある事に気が付いて思考を一時的に別の方向へと移した
「(そう言えば……あの時、去り際に楯無会長はどこに向かって歩いていった? ……あまり見なかったが楯無会長が歩いていった方向は私と一夏が利用しているロッカールームだったような……。いやまさか……だが、しかし……)」
「……お兄ちゃん? 急に難しい顔をしてどうしたの?」
と、思考に浸る慎吾がよほど難しい顔をしていたのか、そこでシャルロットがそっと慎吾の肩を揺らし、心配そうに尋ねてきた
「あ、あぁ、すまないシャルロット。私とした事がいらぬ心配をさせてしまったようだな」
その事に気が付くと慎吾は直ぐに思考を中断すると少々慌てて、シャルロットに視線を向け少し恥ずかしそうに頭を下げた
「とにかく……私はこの通り大丈夫だ。安心してくれ」
続けて更にシャルロットを安心させるべく慎吾は、千冬の目を盗んで一瞬の隙を付くと、自身の無事を強調するようにシャルロットの前で力強く腕を組んだ
「ふふっ、うん……お兄ちゃんが言うなら本当にお兄ちゃんは大丈夫なんだろうね」
そんな慎吾を見てシャルロットは楽しそうに笑うと心から安心したようにそう言った
「それで……お兄ちゃんはどうして悩んでいたの?」
「あぁ……それが一夏の事なんだが……」
そんなシャルロットの純粋な問いに少し迷いながら、慎吾が正直に話そうとした瞬間
「す、すいません! 送れまし……!」
見計らったようなタイミングで一夏が額に汗を浮かべ慌ただしく姿を表し
「一応は……遅刻の言い訳くらいは聞いてやろう」
直後、千冬の鋭い眼光を向けられて、瞬間冷凍でもされたかのように凍り付いた
「……ち……! お、織斑先生……実はですね、見知らぬ女子生徒にロッカールームでいきなりですね……こう、後ろからいきなり……」
数秒程、硬直していた一夏は数秒の時間をかけてどうにか動き出し、滝のように汗を流しながら目に見えて動揺しまくった状態で弁解を始めた
「(おいおい一夏……その言い方では……)」
が、動揺のせいなのかその内容は慎吾のように大体の状況を知っている人間で無ければ誤解を招きそうな言葉でしか無く、行く末を杞憂して思わず慎吾は額から汗を流す
「へぇ…………」
いや、既に手遅れだったのか先程まで楽しそうに話していたシャルロットの顔には既に一筋の血管が走っていた
「(これは……どうしたものか)」
当然、言い訳が通用せず正面でますます焦る一夏、背後で額に血管を浮かべながら全く笑ってない笑顔で一夏を見つめるシャルロット。そんな二人に挟まれ慎吾は内心で大きくため息をつくのであった
今回の話で少し久しぶりの感じがする、兄&苦労人ポジションの慎吾です。落ち着いて理性のある事を意識して書くと慎吾はどうしてもこのような状況に……