二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「(やれやれ……それにしても、楯無会長は本当に突拍子も無く、あのようなアイディアを出してくれるな……)」
その日の放課後、特別HRの時間、慎吾は少しだけ思考を移し、忘れたくとも忘れる訳もない全校集会での出来事を思い出すと大きくため息を付いた
「(もう、そろそろ一夏の助けに入らなくては。……経緯は殆ど理解不能だが、現実的に事態は私も大きく関わりがあるように変わり始めているし……)」
と、そこで慎吾は思考を中断し、クラスの皆からの奇妙かつ無茶な意見に特別HR開始辺りから振り回され続けている一夏の助けに入ることにした
「却下! と、言うから……頼むから、皆、もうちょっと普通の意見を出してくれ!」
今もまた、一人のクラスメイトから出された『織斑一夏、大谷慎吾とドキドキ二人きりでお座敷遊び!』とか言う何だか譲歩しても学生に相応しいとは思えない怪しい雰囲気の出し物の意見を一夏は悲鳴にも似た声で却下していた
ちなみにこれまでに、出された意見は数多くあっまが、中でも少数ながら支持があった意見は
『織斑一夏&大谷慎吾の奇跡のWミュージカル(ポロリもあるよ)』
『織斑一夏vs大谷慎吾! 肉体美見せます、ファッションショーバトル!』
『優しく丁寧に! そして笑顔で分かりやすく! 二人が体を張って教えます! 慎吾先生兄貴のゼロから始める護身術講座! 助手 織斑一夏』
と言った二人の男子がいると言うネームバリューを隠そうと言う意思を欠片すらも見せない程にごり押しし、尚且内容が破天荒極まりないと言うレベルものばかりであり一組クラス代表である一夏が手に追えなくなっているのも当然の結果とも言えた
ちなみに、このような混沌とした状況の中でこそ助けになるばすの教師陣はと言うと、千冬は心底呆れた顔でため息一つと共に『職員室に戻っている、決まったら報告に来い』とだけ言って早々と教室を後にしてしまい、真耶に至っては『わ、私は護身術講座がいいと思いますよ……?』と言ってこっそり護身術講座に決めていこうとして行こうとする有り様であり、とても力は期待出来ない
「(そもそも慎吾先生兄貴とは一体何なんだ……? 日本語として間違ってはいるじゃあないか)」
真耶が徐々にと力を入れ始めた事により他の意見に比べてリードし、始めている自身を中心として動く護身術講座について考えながら冷や汗を流す慎吾
「だいたい誰が喜ぶんだよ、こんな出し物を!! 外部から学園祭を見に来た人達が引くぞ!?」
そんな欲望と混沌が溢れるこの状況に耐えきれなくなったように一夏が叫ぶ
「無い無い、絶対に引かないよ。むしろ需要バッチリ!!」
「って、言うか需要がありすぎて供給が追い付かなくなるって!」
「じゃあ逆に聞くけど、織斑くんと大谷さん……二つの異なる筋肉のハーモニーを今見せなきゃ、いつ見せるって言うの!?」
「少ない二人の男子を一組の為に! ……多くの生徒達から独占する訳にはいかないんだ!!」
「あぁっ……もうっ!!」
が、帰ってくるのはどこか一種の錯乱に近いほどの興奮と欲望に彩られたクラスメイト達の声であり、それを聞いた一夏は貯まりかねた様子でそう言うと両手で頭を抱えてがっくりと項垂れた
「……こほん。なぁ、みん……」
そんな一夏を不憫に思い、そろそろ本格的に助け船を出そうと慎吾が息を整えて声を出そうとした。と、その時
「ふむ、ならば……メイド喫茶でどうだ?」
騒動の最中にある教室の空気を穿つように、ラウラがそう発言し、その後も淡々とした口調で『客受けが良い』、『休憩所としての需要も補える』と言ったようなメイド喫茶の利点を説明し、普段のラウラの言動からは想像も出来ない、夢や幻覚とか思えないその行動に、慎吾を含めた教室中の殆ど全員が唖然とさせられていた
「あっ、それはいいんじゃないかな?」
そんな中、真っ先に動いたのはシャルロットであった
「一夏やお兄ちゃんには……厨房とかの裏方……でなきゃ、執事なんて……」
ラウラの援護をするような形で言葉を続けるシャルロット、しかし言えたのはそこまでで
『執事!! それだあぁっ!!』
シャルロットの口から『執事』と言う言葉が発せられた瞬間、事前に打ち合わせてでもしたかのようにクラスの女子達が一斉にハモる形でそう言い、その有り余る程の勢いは教室を一瞬、振動させた
「大谷さんの白い執事長リバイバルだけじゃなくて、新たに織斑君の執事姿まで!? その案、素晴らしく完璧っ!!」
「よし、それで決定! 異論は認めない!! ってか、認めさせない!!」
さながら器にたっぷり貯まったガソリンに火の付いたマッチを投げ込んだかの如く、目に止まらぬ程の速さと、熱、そして一年一組始まって以来の一体感を持って話は決まってゆき、それは先程までの奇天烈な提案で精神が疲労していた一夏や、発言しようとした瞬間に躓いてしまった慎吾では止める事などが出来る筈は無かった
かくして、あれほど難航していてた一組の出し物はラウラとシャルロットの提案、そして圧倒的賛成意見によりメイド喫茶……もとい『ご奉仕喫茶』と、幾分かマシになったもののやはり怪しい雰囲気漂う物になったのであった
「(今回は、出遅れた私の責任だから仕方が無いが……また執事服か……まいったな……)」
もはや自身が再びあの真っ白な執事服に袖を通す事が確定事項である事を知った慎吾はへたりこむように机に崩れると、小さく苦笑した
一方その頃、日本から遠く離れたアメリカでは事務仕事の真っ最中であったナターシャは『近日中に何故か日本に行かなくてはならない気がする』と、突如、乙女の直感が囁き、誰にもいらぬ文句や不満を言われずに有休を得るべく鬼気迫る勢いでキーを叩きだし、事情が分からぬ同僚達を恐怖させるのだが、そんな事を日本にいる慎吾はまだ知る筈が無かった
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