二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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70話 職員室前、生徒会長とゾフィー

「個々の想いが重なって一つになると、それは凄まじい力になる。……まさか、それをこんな形で思い知らされるとはな……やはり人生とは先が読めないものだな」

 

「し、慎吾さんも大分、まいってるみたいですね……」

 

 職員室へと続く道を一夏と連れ立って歩きながら慎吾が頭を抱えて呟き、一夏はそれを見て苦笑しながらもその表情では『無理も無い』と語っていた

 

「あぁ……正直に言えばまいってるな。……しかし、それでもあれは皆の公平な投票で決まった結果だ。受け入れるほかあるまい」

 

 一夏の言葉を受けて少しだけ気力を取り戻したらしく、慎吾は頭を支えていた手をどかすと、そう言って苦笑してみせる。と、そこで丁度、職員室の前へとたどり着き二人は同時に足を止める

 

「あの慎吾さん……俺から言い出して、ここまで付いて来て貰ったんですけど……やっぱり慎吾さん疲れているみたいですし、良かったらここあたりで休んで待っていてください」

 

 と、そこで一夏は慎吾と職員室の扉を交互に何度も見ると、慎吾に向かってそんな事を提案してきた

 

「一夏……? いきなりどうしたんだ、藪から棒に」

 

「それはえっと……俺がクラス代表だし慎吾さんに助けて貰わなくても、一人でも頑張らないと駄目かな……って思って」

 

 急な提案に困惑し、慎吾が不思議そうに問いかけると、一夏は少し照れ臭そうに笑いながらそう答える。

 

 事実、この数分程前、特別HRで決まった『ご奉仕喫茶』の事をどう千冬に説明するか一抹の不安を感じていた一夏は慎吾への同行を頼み、慎吾も『気晴らしに』と想いそれを引き受けていたのだが、ここに来て慎吾にとっては想定外に、抱えていた精神的疲労を一夏に気づかわれていたのだ

 

「そうだな……その言葉に甘えさせて貰うよ。ありがとう一夏」

 

 その事に気が付くと慎吾は薄く笑い、肩の力を抜いて腕を組むと少し一夏から離れて職員室近くの壁に落ち着いた様子で屹立し、そこで一夏を待つ体制を取り始めた

 

「それでは俺、行ってきます……。あ、でも慎吾さん、もしも、もしも本当に困って俺一人じゃどうしようも無かったら……」

 

 そんな慎吾を見送りながら入ろうとした一夏はそこで立ち止まり、困った表情で慎吾に視線を送る

 

「何、遠慮はする必要は無い……勿論すぐに私が助けに行く。それが……私が年上としての義務だからな。安心してくれ」

 

 慎吾はそれに軽く微笑むと、最後に久しぶりとなる口癖の言葉を使ってそう答えて職員室へと入っていく一夏を見送った

 

「さて……」

 

 慎吾は職員室の扉が閉じるのを確認すると、腕を組んだまま目を瞑り

 

「失礼ですが……いつまでそうして物影から隠れて私達を見ているつもりですか? 楯無会長」

 

 確信を込めた様子でそうため息を付きながら、職員室近く、慎吾から数メートルほど離れた所にある壁に視線を向けてそう言った

 

「あら、気配は完全に消してたのつもりだったのに……やるわね慎吾くん」

 

「どうも、楯無会長……」

    

 と、その瞬間、慎吾が視線を向けた方角からいたずらっぽい笑みを浮かべ、閉じた扇子を上品に口元に添えた楯無が姿を現しすと慎吾に向けて歩みより、慎吾はその姿を確認した瞬間に腕組みを止め息を吐き出しながら楯無に視線を向けながら楯無に挨拶をした

 

「あっ、ちなみに、どこから私が君達を見ていたか……分かる? はい、慎吾くん」

 

 と、現れて早々に楯無は、まるでマイクで芸能人に取材を求める記者のように扇子を慎吾の口元に向かって突きつけ、ぐいっと身を乗り出して問いかけてきた

 

「そ、そうですね……楯無会長が私達に気付いて観察を始めたのは……私が頭を抱えながら歩いていた辺りからですかね?」

 

 そんな相変わらず一歩先の行動も予測出来ないような楯無の行動に、面食らいながらも慎吾はとりあえず楯無の行動に乗り、扇子をマイクに見立てて答える

 

 

「うん、大正解。人の噂は基本的に当てにならない物だけど、キミはそれに当てはまらない、皆の噂通りの力を持ってるようだね。感心感心」

 

「……私を買いかぶり過ぎですよ、楯無会長」

 

 慎吾に見えるように『大正解』と書かれた扇子をかかげ、にこやかな笑顔で慎吾を誉めるが、対する慎吾はそれを真に受けた様子は無く小さく苦笑しながらそう返事を返した

 

「うーん……それ、あんまり気にいらないかな」

 

 すると楯無は、明らかに演技と分かるような拗ねた表情で頬を膨らませると広げていた扇子をたたむ

 

「……と言うと?」

 

「礼儀を持って接してくれてるのは分かるんだけど……私と慎吾くんは同じ年で、ここに来なければ私と学年も同じ、そうだった筈でしょ?」

 

 困惑した様子で尋ねる慎吾に、楯無はそう言葉に区切りを付け、内容を分かりやすくしているように語り、再び慎吾に扇子を向ける

 

「なら、もう少しだけ今よりフランクに接してくれても私は構わないのよ?」

 

「…………」

 

 微笑みながらそう告げる楯無に慎吾はしばし沈黙して考え込み

 

「……私は、あくまでこの学園ではゼロから始まったばかりの一年生ですから。上級生、それも生徒の長たる生徒会長の楯無会長にそう気軽に接する訳にはいきませんよ。お心遣いは嬉しいですが……すいません」

 

 そう、楯無に申し訳なさそうな笑顔を浮かべると軽く首を前に傾けて謝罪した

 

「うーん……慎吾くんは、ちょっと生真面目が過ぎるなぁ……」

 

 そんな慎吾を見て楯無は扇子を手元へと引っ込め、小さく苦笑しながらそう言った

 

「生憎、生まれ持った性格ですので……織斑先生や光にも楯無会長と似た事を指摘された事もあります」

 

「まぁ、それが慎吾くんの強みなのかもしれないわね……」

 

 職員室前でそう楯無と慎吾が話し込み始めた時だった

 

『ぷっ、ははは……!』

 

 突如、職員室から大きな笑い声、それも非常に珍しい事に千冬の笑い声が響いた

 

「な、なんだ……? まさか、一夏が何かしたのか? い、いや……」

 

 そんな予想外の出来事に、困惑して話を中断し、職員室を見つめる慎吾

 

「あら……」

 

 そんな慎吾の背では『予想外に面白くなりそうだ』と、言う感じの笑みを楯無が浮かべていたのだが、職員室の方角を見ていた慎吾がそれに気がつく筈も無かった




 楯無さんのキャラがこれで良いのか少し悩みながら書いています……。今のままだと、何かが足りないような気がしますが……気のせいのような気も……うーん。

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