二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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72話 生徒会室、静かなる怒りの慎吾

「あー……おりむー……に、……? わ~い、しんに~!」

 

「え、あれ? のほほんさん……?」

 

「おお、本音か。そう言えば君自身が以前に生徒会所属だと教えてくれたな」

 

 楯無が先導する形で重厚な作りのドアを引いて開き、生徒会室へと入るとテーブルに突っ伏す形で寝ていた本音がまず一夏に気付いて僅かにだけ顔を動かしして起き上がり、その背後にいた慎吾に気付くと眠気も忘れたのか非常にゆっくりとした動きながらも立ち上がり嬉しそうに慎吾の元へと駆け寄ってきた

 

「あら、本音ちゃんが睡眠より優先して駆け寄る何て……ずいぶん仲がよいのね?」

 

 そんな本音の行動を見て楯無が慎吾達が初めて見るような驚きの表情を見せながら座席に着いた

 

「あぁ、本音とは前の臨海学校の時にバス内で隣になりまして……目的地に到着するまで話していたんです」

 

「しんに~はねー、私の話をいつでも、ゆっくりしっかりちゃっかり聞いてくれてるんだよー」

 

 楯無の疑問に答えるように慎吾がそう言うと、それに続くように本音が自身の袖が余る程の長い制服の片手を上げて、そう相変わらすのマイペースでゆったりとした口調で言った

 

「なるほどね……聞いてる話以上に、本音があなたのお世話になっているみたいね。ありがとう」

 

 と、そこで人数分のティーカップを持ち、慎吾にどこか納得したような笑みを浮かべなから、三つ編みに結んだ髪に眼鏡が特長的な三年生の女子生徒が礼を言う。よく見れば、その女子生徒の顔は本音にどこか似ていた

 

「もしかしてあなたは……」

 

「ええ、察している通りに私は布仏虚。本音の姉よ

。よろしくね」

 

 慎吾の問いに三年生、虚は軽く微笑んでそう答えながらもお茶の準備を進めて行く。その慣れた手付きの動きは、バイトとは言え仮にも喫茶店で働いていた慎吾から見ても全く見劣りしないレベルの物であり、慎吾は素直に感嘆させられた

 

「さて、お茶の準備が出来た所で二人には、改めてじっくりと最初から説明させて貰うわね……」

 

 見慣れない生徒会室が落ち着かないのか先程からあまり言葉も発せず視線をさかんに動かす一夏と、行動や言葉こそは普段のように落ち着いているように見えるが、やはりどこか警戒しているのか注意深く様子を伺う慎吾。そんな二人の様子を見て楽しんでいるかのように楯無はそう笑みを浮かべながらそう言った

 

 

「部活動……あー、そう言えば、すっかり忘れていましたね……」

 

「私もだ……。思い返して見れば、このIS学園に入学してから勉学とISの鍛錬しかいなかった。……その二つに力を入れすぎてすっかり失念していたよ」

 

 楯無からの分かりやすく簡潔な説明、そして自身の目で直接見た一夏、慎吾の両者に部活動に入って欲しいという大量の苦情の手紙(中には個人的な下品な欲望を書き綴ったと思われる手紙もあったが、明らかに苦情等では無い部分だけが丁寧にボールペンで塗りつぶしてあった)を見た一夏と慎吾は納得してそう呟いた

 

「ね? この手紙に書いてる内容に差はあるけど……流石にここまで苦情が来られちゃあ生徒会としては何もしないで無視って訳にはいかないのよ……それで」

 

「「それで『学園祭での投票決戦』と、言う形で決まったと?」」

 

 少しだけ困ったように笑いながら語る楯無の言葉に付き足すように一夏と慎吾が全く同時にそう言った

 

「二人ともご明察。ズバリ、そう言うことよ」

 

 二人の言葉に軽く頷きながら、楯無はそう言ってウィンクして二人の言葉を肯定し、現状を理解して一夏は軽くテーブルにつっぷして頭を抱え、慎吾はただ困って苦笑いをした

 

「でも……いきなり、そんな事を言われても困りますよ。俺達、放課後はいつもギリギリまでISの特訓で忙しいし……」

 

「あら勿論、私も無条件で二人に頼むなんて言ってないわよ?」

 

 どうにか気力でテーブルから起き上がり、半ば愚痴に近いような口調で一夏が抗議すると、楯無は冗談っぽく小首を傾げて、そう答えた

 

「と、言うことは……生徒会、もしくは楯無会長から、私達に何か交換条件になりうるようなメリットを提供してくれる……。そう言う事ですか?」

 

 そんな楯無を見て、慎吾は気合いを入れ直すように虚から手渡された心を落ち着かせるような良い花の香りがするお茶を飲み干し、注意深く腕を組みながらそう尋ねる

 

「そう言うことよ。でね、その交換条件の内容はね……」

 

「……内容は?」

 

「…………」 

 

 そう言うと、楯無は少し勿体振るように言葉を貯め、それに興味を引かれたのか一夏は起き上がりおうむ返しをするように楯無に聞き返し、慎吾は焦りを堪え、黙って楯無に視線を向ける。その瞬間、楯無は口を開き

 

 

「私が一肌脱いで、学園祭までの間、二人まとめて肉体もISも鍛えてあげましょう」

 

 そう言うと中央に『特別授業』と書かれた扇を音を立てて広げた

 

「は、はぁ……それはまた、どうして?」

 

 その言葉が余りにも想像からかけ離れた答えだったのか、一夏は唖然としたままの表情で楯無に聞き返す。すると、楯無は何気ない様子で扇子をたたみ

 

「ん? あぁ、それは君達が弱いからだよ?」

 

 何気なく、本当に日常会話でもするかのように軽く、そう答えた

 

「……これでも、それなりに鍛えているつもりですけどね。俺も……もちろん慎吾さんだって」

 

「うん、それでもまだまだだね。だから、せめて形にはなるレベルまで私が鍛え上げてあげようって訳」

 

 楯無のその一言で途端に一夏の表情は険しいものに変わり、ほんの少しだけムッとしたようにそう告げる。が、楯無はと言うと涼しい顔でさらに言葉を続ける

 

「っ! じゃあ……そこまで言うなら、俺としょう……」

 

 流石にその一言は見逃す事は出来なかったのか、一夏が思わず立ち上がろうとした瞬間

 

 

「待て、一端落ち着いて席に付くんだ。一夏」

 

 強くは無いものの、静かな圧力を感じるような口調で静かに慎吾がそう告げ、立ち上がりかけた一夏を止める

 

「し、慎吾さん……」

 

 その迫力に押されて、怒りが反れたのか一夏は思わずその言葉に従って、立ち上がりかけていた状態から巻き戻しのように再び椅子へと腰かけた

 

「楯無会長……あまり下級生の私達をご冗談でからかうのは止めてくれませんかね?」

 

 そして慎吾は、楯無に向かい手を組み困ったように笑いながらそう言った

 

「あら、バレた?」

 

 慎吾に指摘されると楯無はイタズラがバレた子供のようにそう茶目っ気たっぷりに笑って答えた

 

「しかし……」

 

 と、そこで慎吾は笑顔で言葉を続け

 

「たとえご冗談だとしても、今日まで一夏は私と箒達……皆で協力して鍛え上げてきたのです。そこまで言われて私としては黙ってる訳には行きませんね……」

 

 そう言って、『笑顔のまま』楯無に視線を向け

 

「先程、一夏が言いかけた勝負、この私が引き受けましょう。引き受けてくれますか? 楯無会長」

 

 変わらぬ『笑顔で』楯無に宣戦布告をした

 

「う、うん……いいよ」

         

 その迫力に押され、思わず楯無も少し動揺を見せるが、少し無理矢理気味に挑発的な笑みを慎吾に返してそれを引き受けた

 

「しんにーが、怒ってるー……?」

 

 生徒会室には、そんな心底、驚いてる様子の本音の呟きが静かに響き渡った




 慎吾は……侮辱に関する事で怒ると笑顔になるタイプです。あくまで笑顔になるのは侮辱のみで、それ以外ではまた別になります

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