二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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73話 いざ道場!

それから時間が過ぎて放課後、畳道場では白の道着に紺色の袴と言う日本古来から続く、所謂武芸者の格好で向き合う慎吾と楯無、そしてこの果たし合いを見物する為に壁際に立って真剣な表情で二人を眺めている一夏の姿があった

 

 ちなみにこの試合、本音もまた非常に見たがってはいたのだが、虚に『仕事があるから』と言われてしまい、嫌々慎吾と楯無と慎吾の試合の見物を諦める事になった本音は、今にも眠気に任せてふて寝してしまいそうな程に落ち込んでいた。

 

「さて……勝負の方法だけど……」

 

「ここは分かりやすく、どちらかが戦闘続行不能、もしくは相手に『まいった』と言わせれれば勝ち。……で、良いのでは?」

 

 勝負を始める前に楯無が試合のルールを告げようとしたその瞬間、少し割り込むような形で慎吾が自らが考えた試合ルールを楯無に提案し、楯無の声を遮った

 

「あら、いいの? 後悔しても知らないわよ?」

 

 慎吾に発言を封じられた形になった楯無だが、特にそれを気にした様子は無く、むしろ涼しげに慎吾に向かって笑みさえ浮かべていた

 

「ええ、勿論。手加減や遠慮する必要はありません……私も自ら勝負を挑んだ以上、全身全霊であなたに挑みかかりますよ」

 

 対する慎吾もそれにまるで臆した様子は無く、いつも通りの柔らかな笑顔でそう楯無に告げる

 

「そう……じゃあ、いつでもどうぞ」

 

 そんな慎吾の対応に何とも無いように楯無もそう返し、全く構えずに慎吾に向かって小さく手招きして見せた

 

「では、お言葉に甘えて……行かせてもらいます」

 

 そして、慎吾はそんな楯無に向かって軽く一礼をし

 

「ふっ……!」

 

 その瞬間、全くと言って良いほどにモーションを見せず楯無に向かって踏み込み、右手での手刀を叩き込んだ。

 

 が

 

「おっと……」

 

 その手刀は軽々と楯無に直撃ルートから回避され、それどころか右腕をひねって慎吾の重心をずらし、自身より大柄な慎吾を軽く空中に投げ飛ばした

 

「んなっ……慎吾さん!?」

 

 そんな瞬きよりも早い速度で行われた慎吾と楯無、その一瞬の攻防に一夏は驚愕しながらも空中へと投げ飛ばされた慎吾の身を案じて呼び掛ける

 

「くっ……!」

 

 が、慎吾も初手の一撃がそう簡単に決まる訳が無いと予測していたのか、空中で体制を整え、出来うる限り衝撃を殺して畳の上に着地すると、直ぐに畳を蹴って着地地点から仰け反るような勢いで離れる

 

「あら……見えてた?」

 

 その瞬間、楯無が放った追撃の右手がつい一瞬前まで慎吾がいた場所を空気を切り裂いて霞め、慎吾の顔にはその衝撃で発生した風がなぞるように触れ、当たらずとも確かに理解出来たその威力に慎吾は額にうっすらと冷や汗を流した

 

「(強い……これが学園最強の実力か……)」

 

 一定の距離を保ちつつ、立ち上がり責めを重視にした構えから、防御を中心にした構えへと変えつつ何気なく追撃に放った右手を戻して、特に構えずにこちらに視線を向ける楯無を注意深く観察しながら、慎吾は脳内で先程、自身の体を持って体験した楯無の強さに心底感嘆していた。が、当然、それで慎吾の闘志は失ってなどはいない

 

「(確かに強いが……私から言い出した手前、軽々と負ける訳にはいかない。私にこの格闘技術を教えてくれた父上やケンさんの為にも……)」

 

 そう考える慎吾の脳内にはかつて、幼い頃の自分に『技』を教えた者、慎吾の師になる人々の姿の人物が甦りつつあった。

 

 一人は今の慎吾の全ての基礎となる基本の技を教えてくれた今は亡き父、もう一人は父が教えた基礎技術をより発展させてより完成形に近付けた父の親友であり、天涯孤独の身となった自分を支えてくれた恩人のケン

 

 そして、三人目の師であり自分の武術をより鮮烈かつ実戦的にした……

 

「ん、来ないなら、今度は私から-―行くよ」

 

 と、そこまで慎吾が思い返していた時、そう言って楯無が先程、自分が見せた物より数段優れ、鮮やかとしか言えないような完璧なすり足、無拍子で一気に慎吾へと急接近した

 

「…………!!」

 

 神経を集中しても、なお殆んど反応する事が出来ないその動きに慎吾の顔から一瞬、血の気が引くが楯無の初手が離れた瞬間にどうにか反応し、自身の肘、肩、腹に向けて放たれた楯無の掌打を見切れる限り両手で一つ一つ弾き、受けきり、フィニッシュの如く放たれた双掌打を両腕を十字に組むことでガードして受け止め、同時に放たれた楯無の足払いも両足でしっかりと畳を踏み締める事でどうにか僅かにふらつくだけで転倒を堪えた

 

「むむ、これを受けきっちゃうか……タフだねぇ」

 

「……鍛えていますからね、私も」

 

 自身の攻撃を塞がれても尚、最初と変わらず優しい笑みのままそう、どこか残念そうに呟く楯無。それに慎吾は自身が受け、防御も叶わず受けてしまった一打の掌打、肩の痛みを少しだけ堪えながら何事も無いかのように笑顔を見せた

 

「さぁ、まだまだ勝負はこれからです、どんどん行きますよ楯無会長……!」

 

 そう力強く語り、慎吾は再び構えを取り、楯無に向かって真っ直ぐに構えを取って見せる

 

「ん、いいわね、男の子のそう言う所……私は好きよ?」

 

 そんな慎吾を見て楯無はそう満足そうに頷き、終わり際に冗談っぽく楯無は告げた

 

「ははっ……止めてください。楯無会長の様な美しい女性に冗談でもそんな事を言われたら大抵の男は勘違いしてしまいますよ?」

 

 そんな楯無の言葉をあくまでも『冗談』と受け取った慎吾は、構えたまま困ったようにそう笑いつつ平然とした様子で返した

 

「……ま、嘘は言って無いんだけどね」

 

 楯無が小さく呟いたそんな言葉は、瞬きも殆んどしないほどに熱中して試合を見物していた一夏は、勿論

 

 

「(勝つためには、一瞬も隙を作る事は許されない……と。なると、攻防一体で尚且つ、相手の意表を付くような技があれば……)」

 

 

 精神統一して次にどう攻めるべきか、どう受けるべきかを考えていた慎吾の耳にも声は届く事は無かった




 次回、慎吾がウルトラ兄弟、弟のあの技を使います。

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