二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
少々いつもより桃色気味の内容となっております
「ナ、ナターシャさん……!?」
「うふふ、久しぶりね慎吾くん。また会えて嬉しいわ……本当に」
一番テーブルに到着するなり、店内の高価な調度品に全く臆する事なくリラックスした様子で椅子に腰かけているナターシャの姿を見た瞬間、驚きのあまり思わず声をあげる慎吾。ナターシャはそんな慎吾を緩やかな動きと、じっくりと舐め回すような視線で眺めながらそう言うと、誘惑するように慎吾にウィンクしてみせる。
そんな、どこか冗談のようなやがらも、慎吾が学園生活の中で接しているIS学園の生徒達とは同じようで全く異なる『大人の女』特有の色気が漂う仕草に気付けば慎吾は思わず無意識のうちに生唾を飲み込んでいた
「それじゃあ……早速メニューを見せてくれないかしら、執事さん?」
「は、はい、どうぞ……こちらになりますお嬢様……」
と、軽くナターシャがそう呼び掛けた事で封印を解かれたように体の硬直が緩んだ慎吾は、少し震える声で自身が持っているメニューを手にすると、ナターシャが良く見えるような位置にまで近付いて広げて見せた
「あら、私でもちゃんと『お嬢様』って呼んでくれるのね?」
ナターシャの接客に表れて早々、名前で呼んでしまった事で少し違和感は感じる物のマニュアル通りしっかりと『お嬢様』呼びをしてくる慎吾にナターシャは少しだけからかうような口調でそう言う
「……お戯れを、お嬢様」
が、今度はある程度冷静さを取り戻していた慎吾には通じず、慎吾は軽く苦笑する程度くらいには落ち着いて返事を返した
「えっと……そうねぇ……何にしようかしら?」
一方のナターシャも慎吾に対処されるのは、ある程度想定していたのか、それ以上慎吾に言う事は無く、自身の顎にそっと指を添えると悩ましげな視線をメニューへと向ける
「じゃあ……この『執事にご褒美セット』を……お願いできるかしら、執事さん?」
「……はい、『執事にご褒美セット』ですね……畏まりました。少々お待ちください……お嬢様」
心の奥では半ば予想していたとは言え、出来ることなら避けたかった注文をナターシャがした事で慎吾は思わず苦笑いすると、そのまま一礼してキッチンテーブルへと向かう
「はい、どうぞ大谷さん。その……頑張って?」
慎吾がキッチンテーブルへと付くと、直ぐにアイスハーブティーと冷えたポッキーの二つのセット『執事にご褒美セット』が渡される。と、同時にキッチン担当だった生徒が少し気まずそうな表情で慎吾にそんなエールを送ってきた
「あぁ……気を使ってくれてありがとう」
恐らくは注文用に接客班全員に取り付けられたブローチ型マイク。更に言えば気まずそうな様子からして、そこから故意ならずとも自分とナターシャの会話聞いてしまったのであろう。
僅かな時間でそう判断した慎吾は、エールを送ってくれた生徒に短く礼を言うと『執事にご褒美セット』を受け取ると、再び一番テーブルへと向けて歩きだして行く
突然のナターシャの訪問で緊張ぎみだった気分はほんの少しだけ良くなったような気がした
◇
「お待たせしましたお嬢様」
「うん、待っていたわよ執事さん?」
『慎吾にご褒美セット』が乗った銀の盆を持ちながら一番テーブルに戻った慎吾に、ナターシャは軽く微笑みながらウィンクをし、そう言って迎える
「……では、失礼します。お嬢様」
「あら?」
そんな誘っているようなナターシャの態度に少し精神が乱れそうになりながらも何とか勇気を取り戻すと二人がけの席の空いている側、ナターシャの正面に腰かける。流石にそれは予想外だったのかナターシャは一瞬、怪訝な表情を浮かべる。が、直ぐにルージュの引いた唇でセクシーな形を作って微笑んでみせた
「あぁ……なるほど、これは私があなたにお菓子を食べさせてあげられるセット……と、言うことかしら?」
「その通りです……お嬢様」
全てを理解したように語るナターシャに、慎吾は最初にこの『執事にご褒美セット』の説明を聞いた時に自身の耳を疑ったような子ッ恥ずかしい説明をナターシャにせずに済んだ事に、どこか安心したような気持ちになりながらもやはり恥ずかしい物は恥ずかしいのか、耳を赤く染め、少しうつ向き気味の姿勢で頷いたナターシャの問いを肯定した
「うーん、お金を払って初めてお菓子をあげれる……流石は日本。なかなか斬新な発想ね」
慎吾の答えを聞くとナターシャは実に楽しそうに笑顔を浮かべると、何故か納得した様子の口調でそう言うと、滑らかにパフェグラスに入ったポッキーを一本手に取る
「それじゃあ早速……あーん。どうぞ執事さん」
そう言うとナターシャは微笑んだままポッキーを慎吾の口元に向けて突き出してきた
「あ、あーん……」
この『執事にご褒美セット』と言うメニューの使用上、そしてナターシャの笑顔の圧力にとても断る等と言う事が出来ない慎吾は、素直にナターシャの言葉に従って口を開き、ポッキーの先端部分を口に運ぶ。よく冷えたポッキーは軽やかな音を立てて割れ、シンプルな甘味が慎吾の口に広がって行く
「ふふっ……私、雛鳥にご飯を上げている親鳥の気持ちが分かったような気がするわ……あーん」
少しずつポッキーを食べてく慎吾を少し微笑ましい物を見るような視線で見つめながらそう言うと、ナターシャは慎吾が食べ終わるタイミングを見計らって二本目のポッキーを手にすると再び慎吾の口元へと向ける
「お嬢様、少々ご冗談が過ぎますよ……あーん……」
慎吾は恥ずかしさからか、ほんの少しだけ抗議の声をあげるものの、素直にそれを受け入れて二本目も口に運んだ
「あら、いいじゃない……こんな事、お互いに滅多に体験出来るような事では無いでしょうし」
そんな慎吾の意見を軽く聞き流しながらナターシャは三本目のポッキーを手にする
「ちゅっ……」
と、何故かナターシャはその先端に向かってコーティングされたチョコが溶けない程度に軽くキスをし
「ふふっ……はい、あーん……」
「!?」
慎吾が二本目のポッキーを食べ終わり、ほんの僅かに口が開いた瞬間を狙い、慎吾の口内にそっと自身がキスをしたポッキーを差し入れた。そのあまりに大胆な行動に慎吾は思わず目を見開き、動揺による震動で椅子がガタリと音を立てた
「本当は『直接』してあげた買ったんだけど……ふふっ、今日はこれだけ。『直接』はまた今度……楽しみにしててね? ……慎吾くん」
口でポッキーをくわえたまま大いに困惑する慎吾の目の前で、そうナターシャは得意気に微笑むと、おまけとばかり、そう言って慎吾に向けて指で小さく投げキッスを送って来た。
幸いか否か忙しい店内でそれに気が付いた物はいなかったが、慎吾の視線は暫くの間思惑通りなのかナターシャしか移らなくなっているのであった
少しねっとり気味のナターシャさん……私としては実の所、かなり気に入っているので今度、再び何らかの形で登場するかもしれません