二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「なるほど、話し合いの中で、そんなユニークなアイディアが出てくるとは……さぞかし君の所属してるクラスは楽しく明るいクラスなのだろうな」
「うわぁ……そう言えば慎吾さんその服装凄く、かっこいいですね! よく似合ってますよ!」
「それはもう……入学してから退屈な日などが無いと思えるくらいには……。光太郎もありがとう」
ゲートから離れ、校舎へと向かって歩く道の最中で慎吾から話を聞くとケンは嬉しそうに目を細めながら、光太郎は純粋な憧れの視線を向けながら、それぞれがそう口にし、長年世話になったケンや自分が実の弟のように面倒を見ていた光太郎が嫌味や皮肉などは決して言わない事を良く理解していた慎吾は少しひきつりそうになる表情を何とか気力で笑顔に変えて二人にそう返事を返した
「ユニーク……と、言えば思い出した。先程、正面ゲートで最近ではあまり見かけない程に強い気力に満ちた少年に出会ったな。それこそ彼がもう少し年を取ってれば
「あぁ、あのバンダナを頭に巻いていた人ですね? 確かにあの人は周りの人達の注目を集めていましたし……僕も、みんなを楽しくさせてくれそうな人だなぁって思いました」
と、そこで背後の正面ゲートを見つめながら感慨深げにケンがそう呟き、光太郎もまたそれに賛同するように頷く
「ねぇねぇ、大谷さんと一緒にいるあの人達、二人ともすっごく良くない?」
「スーツ姿の大人の人の方はすっごくダンディーで……もう一人は背が高いけど何か顔がかわいくて……あ、何か変な感覚に目覚めそう……」
「わ、私は童顔の男子って……かなり……好きかも」
「え~? 落ち着いてる大人の人の方が私は興味あるけどなぁ……」
そして、当然のように学園の女子達の間ではケンと光太郎の姿は目立つらしく、女子生徒達は集まりながら二人について少し意識を向ければ屋外なのにも関わらず、会話の内容が丸々聞こえてしまう程に賑やかに意見を交わしており、さらにその内の数人の生徒に至っては一定の距離を保ちつつ、半ば追跡するように慎吾達の後をゆっくりと歩いてついてきていた
「ふふ……皆が揃って実にユニークな生徒達だな。こうなると君が入ったクラスが……と言うよりはこのIS学園が生徒達が楽しく生き生きと出来る、良い学校と考えるべきなのかもな」
背後で騒ぐ生徒達の声を耳にしていたケンは、それらを全て受け止めて苦笑のような笑顔を浮かべるとそう慎吾に向けて呟く
「そうですね……因果かどうかは分かりませんが……」
そんなケンの言葉を聞くと慎吾はふと目を細め、一つ一つ思い出すように静かに語り始めた
「私がISを起動させ半分程度しか事態を理解できないまま学園に入学して、もう暫くになりますが、混乱や戸惑う事は多くても学園に入った事を後悔した事はありません。……それにこの学園に来なければ彼女達にも会えませんでしたから……」
「……君の『妹達』の事だね。ヒカリから大方の話は聞いてるよ」
と、そこまで黙って聞いていたケンが小さく微笑むと、特に何も咎めも必要以上に問いただす事もせず、そう優しく慎吾に言う
「出来ることなら、その件の妹達を私にも見せてくれると……」
続いて、そこまでケンが口にしようとした時だった
「あっ、父さん、慎吾さん……前に」
会話を交わしていたために必然的に相手へと意識を向けていた二人に代わるようにしっかりと前を見て歩いていた光太郎が二人に聞こえる程度に声を上げ、軽くケンの着ている服の裾を引っ張りながらそう言った
。
「あの、すいません。ちょっといいでしょうか?」
光太郎の声のまま、ケンと信吾が会話を止めて正面、声が聞こえた場所を見る
そこにいたのは虚だった。以前、生徒会室で慎吾が見た時と全く同じきっちりと整った制服姿で、偶然か否か手にしているファイルまで以前出会った時と同じであった
「こんにちは、虚さん。……もしかしてチケットの確認ですか?」
虚に気が付く慎吾はすぐにそう言って、ある程度、虚がここにいる理由に検討を付けてから軽く挨拶をした
「こんにちは慎吾くん、えぇ察しの通り、そのつもりよ。これも生徒会の仕事だものね……さて」
慎吾の問いに虚は柔らかく微笑んで答えながら、そこで慎吾の隣に立つケンと光太郎に向き直った
「……それではすみませんが、チケットを見せて貰ってもよろしいですか?」
「あぁ……勿論だとも。私のはここに」
「はい、どうぞ、こっちは僕のです!」
虚に言われると、ケンと光太郎はそう答えそれぞれ懐から小さなファイルに入れて、皺一つ無い状態の招待券であるチケットを虚に手渡す。この二枚のチケットのうちの一枚、ケンが持っているものについては学園祭が始まる一週間程前にゾフィーの定期調査の為にMー78社へと出向いた際に慎吾が直接渡したものであり、そして光太郎が持ってるものはと言うと
「どうもありがとうございます……こちらの配布者は大谷くんと……あら、こっちは……芹沢さん?」
ケン、次に光太郎と順番にチケットを受け取り、確認していた虚は光太郎のチケットの配布者の名前を見て、珍しく驚いているようにそう呟いた
「あぁ……彼女とは『会社』ではちょっとした知り合いでね。頼み込んで息子の分のチケットを譲り受けて貰ったのだか……もしや、それに何か問題があったかい?」
と、そこで虚の呟きに答えるようにケンが静かに微笑みながら言うと、改めて確認するようにそう虚に尋ねた
「いえ、特に問題はありませんよ。どうか、楽しんでいってくださいね」
ケンの問い掛けにそう答えると虚は軽く一礼すると、静かに歩いてその場から立ち去っていった
「彼女は……自ら動いて積極的に人と関わりを持つタイプでは無いからな……。それ故に意外に感じたのかもしれないな」
虚が立ち去るのを横目で見ると、ケンは会社内での休憩時間、『どうせ招待する相手もいませんし』と、苦笑しながら自身に光太郎の分のチケットを渡した光の事を思い出しながらそう呟いた
「ですが……私はそんな光を大いに信頼を寄せていますよよ?」
と、その呟きに、すかさず継ぎ足すようにそう答える
「…………あぁ、私もだ」
突然の慎吾の言葉に一瞬だけケンは驚いたように目を見開くが、すぐにその目を微笑みに変えその言葉に同意して頷いた
「父さん、慎吾さん……チケットのチェックも終わりましたし、早く行きましょう!」
「あぁ……行きましょうケンさん」
と、そこで、何も語らず、じっと話を聞いていた光太郎がいよいよ堪えきれなくなったように、少しソワソワおした様子でそう言って二人を催促し始めた。
体は高校生と偽っても誰もが疑わないであろう程で大きな光太郎ではあるが、こう言う部分は実に子供らしいな。と、慎吾は軽く内心で笑いながら歩き出すのであった