二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 少し遅刻しました。次回あたりから話を動かして行こうかと思います


83話 光とケン、舞台開幕の前準備

「……来てくれたか慎吾、本当の所はもう少し楽しんでいて貰いたかったんだが……報告の通りこちらの予想を越える程に客達からのクレームが激しくて、悔しいが俺だけではどうにも……」

 

「光!? な、なぜお前が……!?」

 

 ケンや光太郎と共に学園祭の店舗を歩いていた慎吾の元に携帯電話でラウラから入った『こちらの処理能力を越えた緊急事態。帰還を求む』との短いながらも、彼女にしては珍しく焦った様子の声の連絡を受けて慎吾が帰還した『ご奉仕喫茶』。そこで慎吾はどういう訳かご奉仕喫茶の制服であるメイド姿でそう謝罪してくる光を見て、思わず目を見開いて驚愕した

 

「あぁ、これか? お前のご奉仕喫茶を見ておこうと休憩時間を貰って訪れたら、楯無会長に代役として頼まれたんだ。なんでも会長に生徒会関係で急を要する用事が入ってしまったらしい」

 

「ああ、その事は理解できたが……」

 

 自身の姿を特段気にした様子も無くしっかりと背を伸ばし、落ち着いた口調で語る光をいけないと分かっていながら驚きのあまりに凝視し、慎吾は何とか絶句しそうになるのを堪えながら返事をする

 

「あ、光さん! お久しぶりです!」

 

 と、そんな中、『ぜひ慎吾さんのクラスの模擬店も見に行きたい』と言って同行してきた光太郎が光に気付くと、満面の笑顔で笑いかけ挨拶をした

 

「光太郎……うん、そうだな本社では研究室ばかりにいたから、こうして直接顔を合わせるのは久しぶり……と、言うことになるな」

 

 そんな光太郎に光もまた、ふっと表情を緩ませると小さく笑いかけてそう答える。と、その時光太郎の背後から静にケンが姿を表す

 

「ふふ……その様子だと君も慎吾と同様に充実した学園生活を過ごせているようだな」

 

「ケン主に……! おっと」

 

 現れたケンに一瞬、光は畏まった様子でそう口に仕掛ける。が、言おうとした直前になっめハッと何かに気づいたように慌てて言葉を止めな

 

「こほんっ……いえ、今はお互いに本社とは関係の無いプライベートですから、主任より『ケンさん』と呼んだ方が良いですね?」

 

 そして改めて思い直すように咳払いを確認すると、先程より少し肩の力を抜いた表情と仕草でケンに話しかけた

 

「……あぁ、私も今日は立場は忘れて、ただの『慎吾の知り合いのケン』として訪れたつもりだからな……そうしてくれると私も助かるよ。光」

 

 光の言葉にケンはそう言うと深く頷き、軽く微笑みながら答えた

 

「さて……あの織斑君も戻ってきている。早速、慎吾にも仕事に戻って貰おうと思うんだが……その前に楯無会長から伝言だ」

 

「楯無会長がか……?」

 

 ケンと光の簡単な挨拶も終わって、バックヤードに引っ込み、早速店内での仕事に戻ろうと事前にニスが美しく光る木製のハンガーかけておいた自身の執事服の上着(なぜか、帰ってみれば上着は店内に出されてそれをバックに店内で記念写真撮影が行われていたのを受け取った)を羽織っていた信吾に同じくバックヤードへと光が静かに告げる。その言葉に幾度か行われた楯無との交流での経験により、直感的に嫌な予感を感じ取った慎吾は思わずぴたりと腕の動きを止めた

 

「……『信吾くんの教室を手伝って多めの休憩時間をあげた代わりに、生徒会の出し物に協力してね。待ってるわよ』だ、そうだぞ慎吾」

 

 そんな慎吾の様子を見て苦笑しながら光は若干、その口調を本人に似せて楯無からのメッセージを伝えた

 

「私の意見を求めていない……と、言う事は、つまりそう言う事なのだろうなぁ……」

 

 メッセージを聞き終え、その内容から例え自分が楯無に今から断りの趣旨の言葉を伝えても相手にしてすら貰えぬだろうと悟った慎吾は半ば諦めに似たような口調と表情で深く溜め息を付いた

 

「生徒会の出し物は『観客参加型演劇』、演目はシンデレラ。だ、そうだ。せめてお前も楽しめるものであると良いな……」

 

 そんな慎吾をどうにか慰めようとする光の声が慎吾の耳には妙に遠く聞こえるような気がしていた

 

 

「……やはりと言うべきか、それとも当然と言うべきのかな……お前も参加されられている事は」

 

「はは……やっぱり慎吾さんもでしたか」

 

 舞台衣装に着替える為の更衣室として用意された、本来はISスーツの着替えを主として使われる第四アリーナの更衣室。そこで更衣室に入る直前に伝えられた衣装に着替えている際に、偶々出くわした慎吾と一夏はそう言うとどちらからともなく、共に苦笑し始めた

 

「一夏は……その王冠からして王子様役だな」

 

「そう言う慎吾さんは、えっと……」

 

「私の役は……王国騎士団隊長。らしいな」

 

 一夏の問いかけに慎吾は自身の衣装を更衣室内に設置された姿見越しに改めて見直しながら答えた。

 

 派手すぎず、しかし決して一夏の隣に立つ事で霞むような事は決して無いほどの存在感を持つ落ち着いた上品な赤がメインのローブに僅かな染み一つ無い白いマント。肩と二の腕を守るシンプルな造形の銀の鎧と渋い茶色と金の金具の皮のベルト。全体を通して見れば、なるほど慎吾のその姿は確かに上品な式典に参加する騎士の姿に見えていた。しかし

 

「(もっとも……騎士と言う設定のわりには、たとえ模造でも武器の類いが全く無く、防御が出来そうな装備も肩と腕の鎧、そして少々厚手のマントくらいしか無いのは妙に気がかりではあるが……)」

 

 慎吾はその心中で説明しにくいような妙な胸騒ぎ、『あの楯無会長が、こんな簡単な事をわざわざ借りを作ってまで自分に頼むだろうか?』と、言うような事を感じていた。

 

 数分後アリーナに作られた巨大なセットに登った瞬間、慎吾が曖昧に抱いていたそんな予感は見事に的中するのであった。それも、慎吾が『そりゃあ無いだろう』と口にしてしまうほどの形で


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