二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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84話 舞台開幕。隊長のゾフィー

「今になって、思えば……観客参加型演劇のシンデレラと言う時点で何か妙だと気が付くべきだったのかもしれないな……」

 

 床を蹴って空中に飛び上がり、精巧に作られたセットの階段。その中腹程の手すりに着地しながら慎吾はそう苦々しく笑って呟く。こんな風に自身がアクロバティックな動きをしてもマントも付いたこの衣装が殆んど邪魔になると感じない様子だと、恐らくは劇の脚本を書く時点既にこの事は決めていたのかもしれない

 

「はぁ……なぁ鈴、私はこの通りお前たちのように武器の類いは全く所持していないんだ……少しは手心を加えてくれないか?」

 

 そんな事を考えながら手すりの上に立ち上がると慎吾はため息を付き、階段の下にいる白地に銀のシンデレラのドレス姿に着飾り、手には飛刀(模造刀で切れ味は無いらしいが)鈴に半ば気休め気味な事を隠していないような口調で語りかける

 

「そう? あんたは下手に武器持った奴より、素手の方いろいろとヤバいと思うけど……」

 

 と、そんな何故か確信しているかのような鈴の言葉に、一夏を含めた周囲が一斉に同意して首を縦に動かして頷いた。

 

「おいおい……皆、私はずっと格闘技の修行をしていただけに過ぎない。あまり過剰な評価をしてくれる……」

 

 慎吾はその言葉に再び困ったように苦笑し

 

「!? な、よっ……!」

 

 突如、何かに気が付くと少し慌てた様子で両脚で手すりを蹴り飛ばすと再び空中へと飛び上がった。

 

 その僅か瞬き程の一瞬後、さっきまで慎吾が乗っていた手すりが何処からか放たれた散弾式のゴム弾によって破壊され、砕けた

 

「(暗闇にレーザーポインターのような赤い閃光が見えたから回避してみたが……ライフルでの狙撃か? と、言うことはセシリアか……発砲音が聞こえなかった事を考えるとサイレンサーを装備してるのか……)」

 

 セットの床に着地しつつそう分析しながら慎吾は狙撃から逃れるべく出来うる限り隙を無くすように注意しながら走ってセットの上を素早く移動してゆく。その間にもゴム弾での第二撃が、放たれるが一度目の攻撃でおおよそだが攻撃点を予測していた慎吾はうまくステップを踏み、前を向いたまま走る速度を僅かに緩めるのみでルートを変更しどうにかそれを退けた

 

「移動するぞ一夏! いくら単純な数では今のところ2体2で互角とは言え……丸腰の私達と武器持ちの二人が相手ではこのままでは押し切られてしまう! ……それに増援の可能性があるからな」

 

「はいっ! 言われなくても逃げます! 是非逃げましょう!」

 

 走りながら慎吾は今まで自身の背後の物影に隠れていた一夏に呼び掛け、共に全速力で走り出してその場を離脱し始める。幸か不幸かアリーナに作られているステージにはまだまだ十分な逃げ場が残されていた

 

「あ、待ちなさいよ!」

 

 当然、それを黙って見逃す訳もなく鈴が飛刀を振りかざし、セシリアが狙撃をして逃走する足を止めよう

としてくるが、慎吾は念入りに背後を確認しながら、それを一夏に合図を送り、最高速度で走り続けながら危うい所でステップを踏んで避けてゆく

 

「う、うわっ……!?」

 

 が、それでもやはり完全に回避するのはやはり難しく。放たれた一発のゴムの散弾の一部が慎吾の肩をすり抜けて一夏へと迫り、背後を確認しようと丁度振り返った矢先に眼前近くにまで迫ったゴム弾を見て悲鳴をあげる

 

「はぁっ……!!」

 

 と、あわや、このままゴム弾が一夏へと直撃すると思われたその瞬間。慎吾は踊るようにその場で鋭く一回転し、宙にマントを大きく、そして広くはためかせる

 

 その瞬間、タイミングピッタリではためいたマントにゴム弾丸が命中し、ゴム弾丸は『マントに弾かれ』一夏や慎吾の位置とはかけ離れた検討違いの方向へと飛んで行った

 

「大丈夫か? 弾丸が当たってはいないか一夏」

 

 それを確認すると慎吾は再び視線を正面に向け、走りながら、そう一夏に尋ねる

 

「……! あ、はい何とか! ありがとうございます!」

 

 一夏は一瞬、慎吾が僅かマント一枚でゴムとは言え弾丸を弾いた事に驚愕して目を見開いていたものの、すぐに状況が状況の為に慌てた様子で手短に慎吾に礼を言った

 

「なぁに……」

 

 それにならって慎吾もそう短く、『気にするな』とだけを伝える短い返事を返すだけに止め、走り続ける

 

「(それにしても、この劇の台本にしかし、全くもって楯無会長はいつも人の予想の斜め上を突き進んでゆくな……私なりに多少はあの人の人間性を理解したと思ってはいたが甘かった。やはりまだまだであったようだな……)」

 

 追撃をしてくる鈴の飛刀とセシリアの銃撃を注意深く観察してギリギリ回避し続けながら、慎吾は頭の中で静かにそう考えていた

 

「(……武装し、王子の冠に隠された機密情報を狙う史上最強の兵士と言う設定のシンデレラも大分、無茶だと思ったが……唯一の王子の護衛だと言う私の設定も……)」

 

 そこまで思い返して慎吾は楯無のまるでリングに現れたプロレスラーを紹介するようは自身へのアナウンスを思い出し、無意識のうちに思わず小さく苦笑する

 

『そんな灰被り姫(シンデレラ)達を待ち受けるのはっ! 王国が誇る泣く子も黙る最強騎士団、その中で頂点に立つ大隊長! 王子には秘密のうちに決められた許嫁の姫と王子を結婚させんが為、王子を守りシンデレラ達を蹴散らすために満応じして参戦! 自身の体こそ最強の矛であり、盾であると自称する彼に武装は王から授かったマント一枚で十分なのです!』

 

「(……よもや楯無会長は私を不可能でも可能に出来るような男だと思っていやしないだろうか? いくら何でも私一人がマント一枚で一夏を守り続けるなど無茶にも程があ……!?)」

 

 と、そんな風に珍しくぼやくように慎吾が考えていた瞬間だった。

 

「おっ、と、ととっ……!!」

 

 それは追われている最中に思考をしてしまった慎吾が生んだ隙だったのか、一瞬、ほんのコンマ一秒程慎吾は一夏へ回避の指示を送るタイミングをずれてしまい、一夏が前につんのめるようにバランスを崩してしまった

 

「しまっ……! 一夏!!」

 

 自身のとんでもない過ちを強く後悔しながら慎吾が一夏に向かって手を伸ばすが、二人の回避のタイミングのズレが二人の間に慎吾の予想を越えた距離を作り、慎吾の伸ばした手が空を伐る。その時だった

 

「大丈夫、一夏?」

 

「おにーちゃんよ、支援に来たぞ!」

 

 鈴と同じくシンデレラの衣装に身を包んだ慎吾の二人の『妹』が踊るように舞台へと姿を表した




 武装したシンデレラvs漢装備の隊長
……実はと言うとこんな無茶降りの戦いが、学園祭編で是非ともやりたいことの一つでした。

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