二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「シャルロット! ラウラ! お前達もこの劇に参加していたのか……!」
ドレス姿だと言うのに実に器用に、普段と変わらないような早さで舞台の上を手早く走って駆けつける『妹達』の姿を見て慎吾が名前を呼びながら叫ぶ。らしくないような単純なミスをした事で少し頭に血がのぼっていた頭は慎吾が普段から特に大切にしているシャルロットとラウラ、二人の妹達が現れた事でごく自然に冷静さを取り戻せていた
「うん、でもね……お兄ちゃん。僕達は」
「そう私達は『今は』おにーちゃんと戦うつもりは無い。我ら兄妹で力を合わせて乗り切ろうでは無いか。日本では兄妹が心を一つにして戦えば二倍、三倍を遥かに越える程の力を発揮できると、言われているのだろう?」
慎吾に問われると、シャルロットは少しはにかみながら、ラウラは妙に得意そうに胸を張ってそう答える。そんな、それぞろ個性的な二人の妹を見ているうちに慎吾の口元には自然と笑みが浮かび始めていた。
「そんな話は私は聞いたことは無いが……ふふ、この状況の上に、かわいい私の妹の言うことだ。それを信じてみるとしよう」
「あっ…………」
「むぅ…………」
二人のお陰ですっかり落ち着きを取り戻した慎吾は手を伸ばすとそっとラウラの頭を数回撫でる。頭を撫でられたラウラは気持ち良さそうに目を閉じてそれを受け入れ、一方のシャルロットはそれを見て少し羨ましそうに見ながら頬を膨らませていた
「ふふっ……シャルロットは劇が終わった後にでもな」
それを見落としてはいなかった慎吾はそう言って小さく笑い、たしなめるようにシャルロットにそう告げる。そして二人をじっくり見て
「改めて、ありがとう妹達よ……今回ばかりは心底、お前達に助けられたと思うよ」
そう言って優しく微笑みかけると、二人に精一杯の感謝の気持ちを告げた。そして
「さぁ、こんな機会ではあるが、今こそ我ら兄妹の力をみせてやろうでは無いか……!」
次の瞬間、マントをひるがえし背後へと振り向くと、腕を組みながらその背で一夏を守るように屹立すると力強くそう宣言して見せた
「あぁ……勿論だとも!」
「うんっ! お兄ちゃん!」
その慎吾の声に答えるように、それぞれが自身の装備。ラウラが日本のタクティカル・ナイフのレプリカ。シャルロットが対弾シールドを構え、慎吾の両脇に並び立ちながらそう言った
「ちょっ……これで共闘とかありなの!?」
「流石にこの三人の組合せの相手をするのは……しかし……!」
突如として自身の目の前で結成された強力なトリオを前に鈴は驚愕し、新たに参戦した箒はシンデレラのドレス姿に顔をしかめる。ドレス姿だと言うのにその手に持ってるのは見事な木刀であったが箒自身の顔立ちやスタイルが優れているせいか、それは決してミスマッチには感じる事は無かった
『おお、何と言う事でしょう! まさにこの舞踏会は死地そのもの!! 二転三転にシンデレラ達や王室関係者同士の共謀も至極当たり前! 卑怯などとは言わせない!! しかし、しかし、こんな試練を朝飯前で乗り越えた強者こそ真のシンデレラ! すなわち勝者なのです!!』
そしてこんな『シンデレラVSシンデレラ』と言う名前だけ聞けば意味と主旨が分かりかねるB級映画のタイトルのようにも聞こえる異様なシチュエーションを作り出した楯無本人はと言うと、いよいよエンジンがかかってきたと言わんばかり楽しげにそう実況し、その話の中で軽く慎吾達の共闘を認めてみせた。
「ああっ……! もうっ! こうなったら仕方ない。あたし達も一時共闘するわよ!」
「確かに、それ以外の手段であの三人を突破するの困難だな……」
そんな実に自由溢れる楯無のナレーションを聞いて鈴はたまらず丁度、悲鳴と怒りが均等に混じったような声で叫ぶと、そのままやけを起こしたように有無を言わせない口調で箒を見ながら言い、箒も理解し手いるのか静かに頷いて答えると共闘の意思を示すように鈴の隣へと移動する。その直後、セシリアも箒と鈴のチームに参加する事を表明するように空砲が二発、どこからか聞こえた
「よし! これで何とか……行ける!」
少し不安はあったものの箒とセシリアの二人が自身の案に乗って共闘に参加してくれた事で鈴は思わず飛刀を持っていない方の片手でガッツポーズを取った
「む、来るか……」
当然来ると予期していたこととは言え、目の前で結成された強力なチームに顔をしかめ、警戒を強めて構えなおし、今にもどちらかが動いてぶつからんばかりの緊張感が周囲に漂い始めた
「あの……思ったんですけどこれって、俺が早いこと冠外して誰かにあげるってのは……駄目なんですか?」
と、そこで流石にISでの試合時よりは緩いものの、ピリピリとした一触即発の空気に耐えかねたのか一夏が少しひきつりながらも出来る限り刺激を与えないように本人なりに精一杯配慮した様子の表情と声でそう提案し、そっと自身の頭の上に乗った王冠に手を伸ばそうとした
『………………』
「うっ……」
その瞬間、その場で向き合っていた五人全員の視線が一斉に一夏へと注がれ、一夏は思わずその、無言の圧力に押されて思わず声をあげ、少し仰け反らせる
「そうだな一夏よ……考えてみてくれ」
そこで一夏を助けるように、質問を請けた当人である慎吾が沈黙を破り、一夏の方に視線だけを向けて静かに問いかける
「『あの楯無会長』がこんなに多くの観客が入ってる舞台で、特に争いも騒動も波乱も無く、一夏が王冠を誰かに渡して平和におしまい。……なんて事を許容すると思うか?」
「あっ……」
その慎吾の一言で何かを察したように一夏は、そう小さく言葉を漏らすと頭上に伸ばしていた腕をビデオの巻き戻し映像のようにそっと元に戻した
「さぁて……それじゃあ……行くわよ!」
「…………!!」
そして、仕切り直すような一言と共に鈴が一歩踏み出し、慎吾が迎え撃てるように構え、今度こそ3対3での激闘が行わ
れようとした瞬間
『突然ですが急用により予定を早めまして、ただいまからフリーエントリー組の参加です! ええ、致し方ない事ですが全く偶然に予定が早まって!』
楯無が何の前触れも無く唐突に、何故か妙に早口でそう一気に言い切り
「え……?」
「なっ……!?」
それを合図に地響きと共に軽く見積もっても数十人以上のシンデレラがステージに雪崩れ込んでくるのであった
◇
一方で、そんな青天の霹靂のような事態が次々と起こる舞台を
「父さん……あちこちから、たくさんシンデレラが出てきましたよ! 慎吾さんは大丈夫かな……」
「ふふ……こう同じ衣装の人物が多いとまるで忠臣蔵だのようにも見えるな……」
光太郎とケン、二人の親子は仲良く並んで観客席で眺めているのであった
軽い感じで出してしまいましたが、やはりこの兄妹達も互いを想い、助け合う事で全力以上の力を発揮できるのです