二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「うむ、結果的に取り逃がしはしてしまったが、それでも掛け値無しに見事な戦い方だったぞ慎吾」
「大丈夫だったか慎吾? 念のため今すぐゾフィーの様子を見てみよう。エネルギーなら俺がウルトラコンバータを持ってきているから心配はいらないぞ」
「ケンさん……ヒカリ……」
追跡を断念して地上へと戻った慎吾を迎えたのは、装備を解除し納得した様子で腕を組みながら深く頷くケンと、いつでも慎吾の援護に行けるようにしていたのか自身のIS、ヒカリを展開させた光の二人であった
「ケンさん……今回、姿を表した連中、亡国機業と名乗っていた者達の襲撃がこれで最後とはどうしても私は思えません。今日のこの場は撤退したとしても間違いなく再度の襲撃を仕掛けてくるでしょう。……それも決して遠くはないうちに」
光にゾフィーのメンテナンスを任せながら、慎吾は静かに先程も感じていたケンに自分の考えを語る
「それは私も同感だ。この程度の損害で引いてくれるような連中ならば、IS学園に潜入して君と織斑君を相手にこれほど派手に暴れまわるような大胆な事はしないだろう」
そんな慎吾の言葉にケンも同意し、深く頷きながら答える
「そうだ……! 一夏は……一夏と白式は大丈夫なのですか!?」
『一夏が襲撃を受けた』と言う言葉を受けた瞬間、慎吾は体の疲労も忘れて立ち上がり、一夏の元へと向かおうとし始めた
「落ち着け慎吾。織斑くんの元へは楯無会長が向かった。あの人が相手ならば殆どの相手がまず問題は無いだろう? ……と、丁度、向こうも決着を付けたらしい。たった今、楯無会長本人から連絡があったよ」
そんな慎吾を手で制止しながら光は諭し、同時に楯無からプライベート・チャネルで受け取ったらしい情報を伝える
「……残念ながら向こうも襲撃者、織斑くんを襲った亡国機業の『オータム』と名乗る人物を捕らえ損なったそうだ。なお、その際にBT二号機『サイレント・ゼフィルス』を操る人物がオータムの救出に出現、君の仲間のオルコットとボーデヴィッヒが交戦したが……容易く逃げられてしまったらしい……当然、こちらももう追尾は不可能だろうな」
「そうか…………」
光の言葉を聞いた事で、一気に冷静さを取り戻した慎吾は頭を抱え、大きくため息をついた
「今回、総合的に見れば私達の勝利と言えば聞こえは良いが……これから先の事を考えると、素直には喜ぶ事は出来ないなぁ……」
「全くだ……こちらもそれなりの被害を受けているのに、相手に関してここまで不明瞭な点が多くては……あぁ、ゾフィーの方は大丈夫だ、今、チェックは終えたが機体に問題になるようなダメージは無い」
「あぁ、すまないなヒカ……」
苦笑しながらゾフィーを引っ込めて元の舞台衣装姿に戻る慎吾。それに続いて光もヒカリを解除し、ご奉仕喫茶の仕事中から急いで駆け付けてくれたのかその制服であるメイド服姿に戻ってゆく、慎吾はそんな光に礼を言おうとし
「光……そのマントは?」
いつの間にかメイド服の肩の上からご奉仕喫茶で別れた時には確実に無かった、慎吾にとっては非常に見覚えのある一枚の白いマントを羽織っている光の姿を見た瞬間、気付けば思わず慎吾は直球で光に尋ねていた
「あぁ、これか? お前を追いかけようと舞台下に潜り込んで行こうとした時、宙を舞っていたお前のマントが俺に向かって飛んで来てな、急いでいたから振り払いもせずにそのまま一緒に持ってきてしまったが………まさかマズい事をしてしまったか?」
慎吾の問いに光は珍しく自身が無い様子で、自身が羽織っている白のマントをそっと触りながら答え、そっと付け足すように慎吾に問いかけた
「いや、特に問題は無い……はずだが……」
光を安心させるように、そう答えようとした慎吾ではあったが、ふとそこで舞台衣装にも楯無が絡んでいると言うことを改めて思い出し、説明出来ないような不安を感じて素直に言うことが出来ず言葉を詰まらせる
「そう言えば思い返すと俺がこのマントを持ったまま、走り去る時に幾人かのシンデレラ達から絶好のチャンスが目の前で水泡と消えたかのような絶望の声が聞こえていたような気がするが……あれは何だったんだ?」
慎吾の言葉を聞いて光は考え込むように頬杖を付き始めた
『一夏の場合は頭の冠を、慎吾の場合は背中のマントを手にした者が同じ部屋で暮らせる』楯無が裏で流していたそんな情報を慎吾と光が知るのは学園祭が終わってからの事であった
◇
「ひいいいい…………青い……青い光が……! 青い光が止まらない……! こっちに来る!!」
「……だぁあぁっ! うるせぇな!! いつまでビビっていやがるんだ!?」
とある高層マンション、その最上階である豪華絢爛な装飾があちこちに施された部屋で、オータムは苛立ちを隠さず、毛布を頭から被って部屋の角で震えているバードを怒鳴り付けた
「あんなに元気だったバードがこんなに怯えるなんて……相当、怖かったのね『例の彼』のM87は……実際に『バードン』のコアも壊されてしまったものね……かわいそうに……」
そんなバードを見て薄い金色の髪がよく似合った美しい女性、仲間達からはスコールと呼ばれる女性は心底同情するように悩ましげな表情でそう言って慰めの言葉をかける。先ほど浴室から出たばかりなのかバスローブ越しに見える肌やしっとりと濡れており、なんとも扇情的な姿になっていた
「…………」
一方で、スコールのすぐ近くに立つ少女、エムは未だに怯え続けているバードに対して何も言わない。それは決してバードに対する配慮では無く、単に敗北した上に、相手に破れた時の事を思い出して怯えているバードを心底見下していたのだけであり、今のエムにはそんな事よりずっと重要な事があったのだ
「……スコール、『協力者』は手を貸すのは今回きりだそうだ。近いうちに、ここも離れて自分だけで活動していくつもりらしい」
いい加減にバードの声が鬱陶しくなってきたエムは最低限必要な事を伝え、それにスコールが返事をしたのを確認するとドアを開いてさっさと通路へと出てしまった
「(くそっ……! 散々、好き勝手をしておいて! 何が『協力者』だ! アイツめ……!!)」
苛立つ心のまま通路を歩き、エムは内心で激しく毒づいた。そう、エムの心を嫌でもかき回しているのは先程自身が口にした『協力者』。突然亡国機業の前に姿を表し、誰もが認める程に組織内でも圧倒的な実力を持ち、好き勝手に張り散らしていた一人の人物の事であった。それだけでもエムにとっては十分に腹立たしい事ではあったが、尚いっそうエムの怒りに触れる一つの出来事があった
「(私を『暇潰しにもならないカス』だと!? 亡国機業を抜けようが関係ない! 必ず見つけ出し、なぶり殺してやる!)」
エムはそう固く決意して通路を歩き続ける。模擬戦で自身を完膚無きまで打ちのめして、見下して嘲笑までした『協力者』をこの手で始末する為に
M87がすっかりトラウマになったバード。そして、次回からオリジナル編に突入する予定です