二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

92 / 176
 すいません……大幅に遅刻してしまいました……


92話 『暴君』の君臨

「なるほど……お前がこの研究施設を選んだ理由は良く理解できたよ。この新装備の威力がとんでもない事もだ」

 

 濃密な霧が立ち込める景色の中、ゾフィーの装甲を埋めつくさん大量に付着した水滴も払おうともせず、足元に視線を向けながら苦笑して慎吾は光に通信を送る

 

「だがな私の問おうとしていることは愚問なのかもしれないが光、どうしても一つ疑問に思う事があるんだ……」

 

 と、そこで前置きするかのようにそう言うと慎吾は、再び眼下へと視線を向けて光に問いかける

 

 

「……この装備、ウルトラマジックレイは一体、どんな状況で使用すればいいんだ?」

 

 そう慎吾が語ると、タイミング良く周囲を覆っていた霧が風に流されて慎吾の足元

 

 

 カラカラに乾いたプール底のタイルがより鮮明にその姿を見せた

 

 

 そう、慎吾が現在いる実験エリアにあったのはとはスポーツジム等であるような25mクラスの広々とした一つの実験用プールであり、つい先程辿り着いた慎吾は、光の指示に従って水の張りつめたプールに狙いを付けてウルトラマジックレイを使用し、瞬時にしてプールの水を一滴残らず蒸発させて気体に変えてしまったその予想不可能とも言える威力に閉口させられた慎吾はこうしてすぐ様、光へと連絡をとっていたのであった

 

『活用法か……そうだな、水中戦を得意とする敵ISへの対策として……か?』

 

「……だからと言って、フィールド内にプールがある試合など早々無いだろうし、屋外で気軽に使って湖等を勝手に蒸発させて消してしまうのは問題だろう? と言うかそもそも使用する状況が限定され過ぎていないか?」

 

 まるでつい今考えているかのように手探りの様子で答える光に新吾はおいおいと、一言おいて苦笑しながらそう返事を返す

 

『はは……確かにその通りだが、だからこその実験さ慎吾。今日のこの結果を元にこれからウルトラマジックレイをどう使用して行くのかを改めて考えるのさ。……これからも頼むよ』

 

 光自身も自分が言っている事のおかしさは理解しているのか、同じく苦笑しながらそう新吾に改めて頼んだ

 

「あぁ……任せてお……」

 

 未だに軽く笑えを浮かべながらも慎吾が光にそう返事を返そうとした瞬間だった

 

「っ……!?」

 

 突如、東の空から一機のISがこちらに目掛けて急速に接近しているのをゾフィーのセンサーで確認した慎吾は目を見開き、警戒を露にする。

 

 この一帯はMー78社によって管理されている実験エリア故に許可されたIS機体や人が立ち入るのは原則禁止されており、たとえ例外的に立ち入っていたとしてもこのエリアで実験中の慎吾にそれが伝えられないのは妙でありそれだけでも慎吾が警戒するには十分だった、更にそれに付け加えて

 

『気を付けろ慎吾! アレは……!』

 

「あぁ……分かってる」

 

 機体スピードがずば抜けているのか、既にどうにか目視出来る程までに近付いて来ているISを睨み付け、光からの忠告の声に慎吾は緊張を隠せない様子で答えると、静かに下げていた両手を上げて構えを作った

 

「なんと言う……バード……いや、それとは別ベクトルに危険な殺気だ!」

 

 そう、慎吾はセンサーで接近してくるISを見つけた瞬間から自身に向けられる強烈な、それこそ獲物を狙う肉食獣にも似た本能レベルで強制的に震えを感じさせられるような殺気を受け、慎吾は迫る強敵目掛けて最大級の警戒をしていたのだ

 

「相手のあの速さからして、ここまで接近されていた時点でもはや逃走は不可能……やはり、ここで迎え撃つ以外に手は無いか……!」

 

 額に伝わる汗を感じながら慎吾がそう言った瞬間、ついに迫りくる敵ISはゾフィーの前にハッキリとその姿を表す

 

『な、なんだ、こいつは……! この異様な姿は!』

 

 その瞬間、ゾフィーから送られる映像でその姿を確認した光の驚愕の声が響く。Uシリーズの為に世界各国のISを研究し、ゾフィーを作り上げる以前にも幾度となくIS機体やその装備を産み出していた光でさえも『異様』としか表現が出来ないような姿でしかなかった

 

 単純なサイズだけでもゾフィーの1、5倍はありそうな巨大なボディ。そのボディに取り付けられているのは、超高感度センサーの役割を果たす巨大なイヤーと一本角状の装飾が目立つ頭部。腕は右手に巨大な鎌、左手にモーニングスターを思わせる刺が付いたハンマー。大きく肥大し蒸気を放つ脚部、背中には恐竜の胸骨を思わせるような長く、ゆるやかな弧を描く無数の刺。

 

 驚くべきことにその複数のパーツ全てがツギツギのように歪ながらも一つに繋がっており、結果として一機で複数の機体を特徴をそのIS『タイラント』は持っていたのだ

 

「この異様な姿、例えるならば……フランケンの怪物か、あるいは神話に出てくるキマイラと言った所か……」

 

 タイラントから向けられる殺気を受けながら慎吾は自身の落ち着きを保とうとするかのようにタイラントの姿をそう評した

 

『慎吾、今すぐ俺もそちらに向かう。お前を見くびる訳では無いがそれを相手をお前一人に任せるのは……!』

 

「あぁ……分かっている……お前が来るまでは持ちこたえて見せるさ!」

 

 身を案じて語りかける光に慎吾はそう返事を返すと迫りくるタイラント目掛けて飛び出していった

 

「…………」

 

 一方のタイラントは近づいてくるゾフィーを一瞬だけ見ると、最高速度を維持したまますかさず頭部から針状のビームを雨のごとく無数に発射してばらまき、ゾフィーの迎撃にあたり始めた

 

「殺気で交渉は無理だとは感じていたが……やはり問答無用で攻撃を仕掛けてくるか……!」

 

 その一撃を旋回して回避すると、慎吾は決意したようにすかさずスラッシュ光線を数発発射して、ビームを発射しているタイラントの頭部を狙う。が、

 

「なにっ……!?」

 

 タイラントが回避行動を取らなかった故に狙い違わず頭部に向かっていたスラッシュ光線は突如、あまりにも不自然な形でその軌道を変えタイラントの腹部に文字通り吸い込まれてしまった。

 

 その物理法則を無視したような動きに慎吾が驚愕して一瞬、動きを止めてしまった瞬間

 

「うっ……ぐあぁぁっ!!」

 

 タイラントの左手のハンマーから勢い良く噴射されたワイヤーの鞭のような殴打を受け、慎吾の悲鳴と共にゾフィーは海面へと向かって墜落していった




 タイラントから先生の一撃を喰らってしまった慎吾ですが……戦いはまだこれからです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。