二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 再び大幅遅刻をしてしまって申し訳ありません。その分……とはならないですが、いつもより気持ち多めの文字数とさせていただきました


97話 尽きる力、暴君の目的

「(尾……!? そんな馬鹿な……! 奴に搭載されている戦闘装備は既にタイラント開発に関わった各国が、責任を取ってその全てを公開している筈……)」

 

 タイラントの体から突き出た丸太のように太く、それでいて刀剣のような鋭い刃まで取り付けられた尾の殴打によって成す統べなく空中に吹き飛ばされ、ダメージにより体制を崩している光の頭にあったのはまずその疑問であった。が、すぐにその疑問に関する答えははすぐに脳内で割り出す事が出来た

 

「(……特定は出来ないが研究に関わっていた国の1ヵ国が公開を渋ったのか! それがあの臀部に隠された尾! タイラントのもう一つの近接専用装備! 何て事だ! 慎吾……!)」

 

 もはや取り返しの付かない自身の甘い判断が招いた致命的ミス。それによって危険を承知で打ち立てた作戦に付き合って慎吾を虎の子のM87を撃ち終えた状態でタイラントの前に立たせると言う絶対絶命の状況に追い込んでしまった事への激しい後悔と罪悪感が瞬時に沸き上がり、胸が締め付けられるような痛みが光を襲った

 

「(い、いや……まだだ! まだ俺は戦えるし、慎吾もゾフィーも健在だ! まだ勝負は終わってなどいない! 二人に残されたエネルギーをかき集めれば……!)」

 

 しかし、そんな絶望的な状況でも剣の道を学ぶ中で磨きに磨かれた精神力のお陰か、科学者として有るべき冷静さを取り戻していたのか、光は募る焦りを堪え、絶望に飲まれずしっかりと希望を持っていた。

 

 そうして光が硬く決心し、空中でヒカリの体制を整えると全速力でタイラントと交戦しているゾフィーの元へと向かう。

 

 その瞬間だった

 

「ぐっ……ああああぁぁぁっっ!!」

 

 タイラントから伸びるワイヤーに硬く左腕を拘束されたゾフィーが残るエネルギーの全てでの抵抗をも無視され、慎吾の叫びと共にさながらチェーンハンマーの如く振り回されると、遠心力とタイラント自身の馬鹿げたパワーで海面へと叩き付けられ、大きな水柱を上げたのは

 

 

 

「くっ……光っ!」

 

 ヒカリがタイラントの尾によって吹き飛ばされた直後、託されたウルトラコンバータのエネルギーの大半を使ったゾフィーのM87光線を命中させる事が叶わなかった慎吾は本来ならば直ぐに動いて光を救助に向かいたかった。しかし

 

「ぎGiGiGiぃ……!! SYaaaゃaaaあっ……!!」

 

 感情があるのならば怒髪天に来たと言う様子でひび割れとノイズが激しい電子音声を発し、もうもうと白煙が立ち込める頭部から覗く鋭い目でゾフィーを睨みつけるタイラントがそれを許すとは冗談でも思えず、結果的に慎吾はゆっくりとM87の構えを解きながらもタイラントと睨みあったままその場を動けずにいた

 

「(残り活動限界時間は約30秒……コンバータの助けがあったとは言え先程のM87で負担がかかったぶん更に時間が短くなってしまったな……。だが……)」

 

 タイラントと対峙しながらゾフィーに残されたエネルギーと活動限界時間をチェックし、お世辞にも余裕があるとは言えない現状に冷や汗を流す。が、しかし、状況は何も一方的に慎吾が不利。と言う訳では無かった

 

「Gi……」

 

 ゾフィーを睨み続けながら小さな呟きをあげるタイラント。と、ふとその時、一陣の西風が吹くとタイラントの頭部を覆い続けていた白煙を吹き飛ばし、その姿を露にした

 

 なんと頭部の特徴的な装備の一つだった超高感度センサーたる一対の大型イヤーの左側が跡形も無く消え去っており、さらにそれだけには収まらずタイラントの左頭部の一部までがくり貫かれたように一部が消失しその断面は溶解し、沸騰して小さく泡立っていた

 

「(M87での攻撃は全くの無意味だった訳では無い……! 光を助ける為に軌道を剃らしたがそれでもタイラントには確かなダメージを与え、強固な装甲には穴を開けて攻撃を通りやすくする事が出来ている! 道は険しいがまだ勝機は潰えてはいない!)」

 

 

「はあぁぁっ!!」

 

 ゾフィーの胸元のカラータイマーがエネルギーの底とスピリットゾフィーの時間制限が迫っている事を警告してけたましく鳴り響く中、ゾフィーに残された短い時間を決して無駄にしないよう心中でそう素早く決意をすると、睨み合いを断ち切り、雄叫びをあげ、先手を取ってタイラントへと向かって飛び出した

 

「(残されたエネルギーで攻撃するべきは奴の頭部の破損部分! スピリットゾフィーを維持できる時間内で奴を撃破しようとするのならばこれしか手は無い!)」

 

 

 タイラントから発射されるガトリング・レーザーの乱打を出来るだけエネルギーを消費しないように最小限の動き、かつギリギリで命中しないようにゾフィーを動かして回避を行いながらタイラントに接近し、小さく右足を動かして強烈な蹴りを放つべく構え始めた

 

「(非常にハイリスクだが……十秒以内にどうにか近接格闘で奴を怯ませて零距離でZ光線を頭部に打ち込む!)」

 

 しつこくふ降り注ぐレーザーや空気を切ってゾフィーを捕らえようとするワイヤーを集中して避け続けながら、脳内で自身の動きを細かくイメージしながらそうして慎吾がタイラントへと近付いてゆき、いざ特技の蹴りが炸裂した瞬間

 

 

 突如、タイラントの腹部、エネルギー吸収器官から白銀に煌めく霧が発射され慎吾の視界を多い尽くした

 

 

「こ、れは……! タイラントの超低音冷気波!!」

 

 突然の出来事に慎吾が動揺するも、すぐに光から送られたタイラントについての情報を思い出してその答えを導き出し、そして

 

「しまっ……!!」

 

 冷気派を放出したタイミングから『自身の攻撃タイミングを予測されていた』とまで理解した瞬間、ゾフィーの左腕はワイヤーに拘束され、タイラントの冷気派によってボディの殆んどが凍結してしまっていたゾフィーは、残りエネルギーを駆使した抵抗を軽く無視されてハンマー無げのハンマーの如く遠心力をつけて、タイラントに投げ飛ばされたのであった

 

 

「慎吾!! くっ……! うあぁっ!」

 

 成す統べなく海面へと落下していくゾフィーを見て、光の視線がずれた瞬間、タイラントの標的は直ぐ様ヒカリへと変わり、僅かな隙を見せたヒカリに向けて今度はタイラントの頭部の下部分の一部がスライドすると、そこから紅蓮の炎が発射されると一瞬で炎がヒカリを飲み込み、ヒカリの強固な装甲部分から煙が出るほどの強烈な熱を持った攻撃に光は思わず悲鳴を上げた

 

「Giッッ……!! 」

 

 が、しかしダメージを受けたのはヒカリだけでは無い。纏っていた冑が焼かれ、箒との対戦時にも見せたもう一つのヒカリの姿に戻ってしまう程のダメージを受けながらも光は火を吹いたタイラントの一瞬の隙を狙って右腕のナイトブレスからナイトビームブレードを出現させて周囲を多い尽くす焔を斬り払い、ブレードショットをタイラントのM87が炸裂した部分に打ち込んでいたのだ

 

「Ga…………」

 

「うぐっ…………!」

 

 流石に装甲が落ち、むき出しになった部分に一撃を受けてもなお飛行するのは困難だったかのかタイラントはブレードショットの一撃の衝撃でひっくり返ったまま落下していき、それと同じタイミングでヒカリもまた光の苦悶の声と共に崩れ落ちる。慎吾よりタイラントと交戦していた時間は短いとは言え、慎吾の危機を知って急行するまでにタイラントを分析して作戦を練り続け、そこから一秒たりとも休息せずにタイラントとの抗戦。そうして精神と脳を休み無く動かし続けていた事での限界がついに訪れてしまっていたのだ

 

「(だ、駄目だ……意識がぐらつく……飛行状態を維持出来ない……)」

 

 薄れていく意識の中、どうにか墜落せぬように奮闘する光ではあったがそれは叶わず、ヒカリはまっ逆さまに空から落下してゆき、そのまま海面を突き抜けて海の中深くへと沈んで行く

 

「…………?」

 

 と、その時、海中を沈んで行くヒカリのボディを下、つまりはより海の深くから何かが弱いながらも確かな力で支え、上へ上へと引き上げていた。それに気付いた光が、一体何がヒカリを支えてくれているのかぼやける意識で疑問に感じた瞬間、ヒカリのボディは水しぶきを飛ばしながら海上へと飛び出した

 

「はぁ……はぁ……」

 

 一気に海上に浮上した衝撃で、ある程度の意識を取り戻す事が出来た光は、慌てるように深呼吸して息を整える。ヒカリのダメージは大きくもはや戦闘を行えるような余裕は無かったのだが、つい先程までノックアウト寸前だった光の意識でも水中に浮かぶことは十二分に出来ていた

 

「ぷ……はぁ……はぁ……ひ、光……大丈夫か……?」

 

 そうして光が海上を浮遊し始めた瞬間、再び水滴を吹き飛ばし何かが浮上すると、光に弱々しく声をかける

 

「……慎吾! お前が俺を押し上げてくれたのか!?」

 

 そう、そこにいたのは先程タイラントのワイヤーに拘束されたまま海上へと投げ込まれた慎吾であった。既に第二形態であるスピリットゾフィーから通常状態に戻り、ゾフィーの左腕には大きな亀裂が入っていて動かせないようだが、その胸のカラータイマーは消えてはおらず、心身共に光以上に弱ってはいたが慎吾の意識は確かに残っていた。それに気付いた瞬間、光はヒカリの足で水中を蹴って慎吾の元に近付くと、ゾフィーが慎吾の疲弊で沈まぬように左腕で腰を支え、そっと寄り添った

 

「……助かるよ光、情けない話だが私も、もはや体力の限界だったんだ」

 

「なに、お互い様だ……気にするな」

 

 自身が沈まぬようゾフィーを支えてくれる光に礼を言う慎吾に光は軽く、そう答えると小さく笑った。

 

 その瞬間

 

「SYA……重……大……な損傷を……確認……攻撃……続行……不能……撤退……繰り返す……」

 

 海面を突き破るようにタイラントが飛び出すと、遭遇してから初めて聞くはっきりとした電子音声でそう発すると、フラフラとした勢いで空へと向かって飛び立っていく

 

「……やはりブレードショットの一発では倒すことは出来なかったか……しかし……唐突に一体なんだあの音声は?」

 

「私にも良くは分からないが、お前のブレードショットの一撃でタイラントになにかしらのエラーが起こったのかもしれないな……」

 

 再び姿を現したタイラントを警戒して交互に呟く光と慎吾。ヒカリとゾフィーの二機共がもはやタイラントの一撃がかすめただけでとシールドエネルギーが尽きてしまう今、攻撃も満足に行う事が出来ない二人はタイラントが何をしていくるか瞬き程の一瞬も見逃す事は出来なかったのだ。

 

 が、タイラントは海面に浮かぶ二人をちらりとも見ずにふらふらした危なげな動きで電子音声を発しながら、上昇して行き逃走し始め

 

「Gi ……実行困難……作戦目標            

 」

 

 次の瞬間、破損の影響からかタイラントは自身にプログラミングされている目的を呟いた

 

「……ん…………なっ!? そんな馬鹿な!? いくら何でもそれは!」

 

「光! 急いで衛星にアクセスして奴の逃走経路を割り出すんだしてくれ! 今の私達では追尾すら出来ないが、ここで奴を逃しては……!!」

 

 その、あまりにも、直接聞いた光と慎吾でさえ現実とは思えないような、あまりにも信じがたいタイラントの作戦目的に二人が大きく動揺している間に、タイラントは未だ空中でふらつきながらも無理矢理加速し、二人の前から立ち去ってしまった

 

 その背中には、ゾフィーとヒカリの連携攻撃でも完全には破壊しきれなかった数本の刺がしっかりと残っていた


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