二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 この機械を利用してあの人を出そうかと思います


98話 代表候補生達と『母』

「シャル! 光さんが教えてくれた慎吾さんの病室って何階の何番だ!?」

 

 突如Mー78社の研究私設に現れた暴走IS 。タイラントとゾフィーそしてヒカリが抗戦し、慎吾と光の奮闘も空しくタイラントを取り逃してしまってから数時間後、二人が搬送されたMー78社が運営している病院『Uークリニック78』には焦る様子で正面の案内図を見ながらそう言う一夏の姿があった。光から『緊急事態』として知らせを受けてから休む間もなく全速力で駆け付た為に額からは汗が吹き出し、その数滴が病院の良く掃除された床にこぼれ落ちていたいたがそんな事を気にかける余裕は今の一夏には残されて無かった

 

「うん……6階のT40番だよ一夏!」

 

「よし、早速おにーちゃんの元に向かうぞ、嫁よ」

 

 そんな一夏よりは幾分か落ち着いた態度で返事を返すシャルロットとラウラではあったが、実兄同然に思っている慎吾の突然の事態にやはり完全には同様を隠せないのか、携帯端末で光から送られた連絡を入念に読み返しているシャルロットの手は小さく震え、ラウラは何かを堪えるように硬く拳を握りしめていた

 

「慎吾、そして光の両名を同時に相手にしても勝利し、逆に病院送りにするほどの手傷を追わせる程の相手か……」

 

「そう考えますと、以前の福音、いや……あるいは、それ以上に警戒が必要な相手なのですわね。タイラントは……」

 

「……正直、公開されてるスペックだけでも第三世代屈指のクラスのとんでも機体なのに、そんな危険なのが現在進行形で無人で好き勝手に動き回ってるなんてたちの悪い冗談と思いたいわ……」

 

 そして、この場にいるのは三人だけではない。シャルロットにラウラを含めて、箒、セシリア、鈴。と、専用機持ちが一同に光の知らせを受けて病院前に集結しており、三人は気を引き閉め、緊張した様子で会話を続けていた

 

 こうして6人が揃って慎吾が搬送されている病院に駆け付けたのには勿論、慎吾を心配してのが大きな理由の一つではあったが、それが今回の真の目的では無い

 

「一体なんなんだよ……『暴走無人ISについて、専用機持ちの皆に伝えなければならない情報』って……!」

 

 現在地のメインホールから慎吾の病室までの案内図を見て確認しつつも、やはり焦りを堪えきれないのか少しイライラした様子で一夏が呟く

 

 そう、今回の真の目的とは慎吾の負傷と同時に光から専用機持ち全員宛に送られた『皆の安全の為、緊急を要する』情報であり、その大々的内容がメール等では無く光の口から直接伝えなければならないと言う事から、伝えられるのが並々ならぬ情報であることは一夏を含めた専用機持ち全員が理解し、それが未だはっきりと目に見えては出ていないものの皆の心の中で間で焦りと苛立ち、そして不気味な未知に対する不安を作り始めていた

 

「あら、あなた達……」

 

 と、そんな不穏な空気が6人の間に漂う中、この病院で働いているのであろう、洗濯したてで真っ白な白衣を身に纏い、人を安心させるような穏やかな目と、一見では若く見えるが年期を重ねた確かな落ち着きのある一人の女性医師が小さく足音を響かせながら近づいてきた

 

「あっ……すいません。僕達、病院で騒がしくしちゃって」

 

 それを見て、真っ先にシャルロットが自分達が意図せずして騒音を出してしまった事に気付くと、近付いてきた女医に向けて咄嗟に頭を下げ、一夏や箒を含めた五人も慌てて女医に謝罪した

 

「いえ、私はあなた達を注意するつもりでは無くて……あなた達は慎吾……いえ、大谷慎吾君のお見舞いに来てくれたのでしょう?」

 

 一斉に謝罪する六人を見て女医は優しく笑って止めると、そのまま優しげな口調でそう告げる

 

「えっ? な、なんっ…………?」

 

「ごめんなさい、盗み聞きなんてするつもりはありませんでしたが、偶然、通りすがりにあなた達の会話が耳に入ってしまいまして……」

 

 突然、現れた女医に慎吾の元へ向かおうとしていた事を見透かされ驚く一夏に、女医は少し申し訳無さそうに告げると、困ったような顔で笑って頭を下げた

 

「そのお詫び……とは言えないですか、私が慎吾君の病室まで案内しましょう。さぁ、こちらですよ」

 

「は、はい……」

 

 その顔は確かな落ち着きと、どこか無意識に心が安らぐような暖かさを秘めており、気付けば一夏、そして五人も毒気を抜かれ、自然と女医に言われるがまま、美しい銀髪の髪を揺らして先を歩き、先導する女医の後について歩き出す。いつの間にか漂っていた不穏な空気はすっかり霧散していた。

 

「(なんだろう……この人の暖かさは……説明しろって言われて上手く言えないけど、何て言うか、ただ話しているだけなのに自然と落ち着く……って言うか……)」

 

「(あれ……この人の、この感覚ってもしかして……? いや、でも……)」

 

 女医が自然と放つ特有の雰囲気は勿論、一夏達も感じ取っており、特にそれを敏感に感じとれてはいたのだがその正体が後一歩と言う所で確信が持てない一夏とシャルロットは首を傾げながら黙って女医の後をついて歩くしか無かった

 

「(これは……! 間違いない、これこそが以前クラリッサが口にしていた、人を無意識に自身に甘えさえ、緊張を解かせる聖であり魔でもある二面性を持つ属性……『母性』で間違いない! まさかこんな形で遭遇する事になるとは……!)」

 

 そんな中ラウラは一人、一部に大きな偏見がありながら一夏やシャルロットが強く感じ取っていた特有の感覚の正体に気が付き、自然とその視線は女医を凝視していた。

 が、一夏達がちゃんと着いてこれているか時々、振り替えって確認している女医はそんなラウラの視線に特に気が付いているような仕草は見せず、全員が着いて来ている事を確認すると再び歩き始めるのであった

 

 

「着きました、ここがT40号室。慎吾君の病室ですよ」

 

 それから程なくして、女医の案内で一夏達は慎吾の病室へと到着していた。流石、毎日働いている職場なだけはあって女医の案内は非常にスムーズであり、全く走ってもいないのにかなり短い時間で病室へとたどり着けたのだ

 

「それでは、私はこれで失礼します。慎吾君なら、意識もしっかりしてますから皆さんと話すことが出来ますよ」

 

「あ、ど、どうも……わざわざ、ありがとうございます」

 

 一夏達を病室まで案内し終えると、女医は軽く頭を下げてそう言うと立ち去って行き、一夏は慌ててその背に向かって一礼してお礼を言った

 

「……あぁ、最後に一つだけ」

 

 と、その瞬間、女医は振り返りもう一度、一夏達六人を見渡すと柔らかな笑みを浮かべた

 

「一夏くん、シャルロットちゃん、ラウラちゃん……そしてオルコットさん篠ノ之さん凰さんも……あなた達と……それから光がいるから学園生活は慣れない事もあるけど、楽しくやれていると慎吾が教えてくれましたよ。……本当にありがとう」

 

『えっ!?』

 

 感謝を込めてそう言う女医の言葉に全員の驚愕の声が重なる

 

 学園での生活が半年以上を過ぎる中で、既にこの場の六人全員が、特に慎吾が隠さなかった事もあって、慎吾の両親が他界している事は知っていた。では、目の前の見ず知らずのはずの女医は何故、そんな事を知っているのか? たちまち六人の脳内にはそんな疑問が沸き上がっていく

 

「私の名前は『マリ』。学園祭では夫のケンと光太郎がそちらでお世話になりましたね……。では、本当にこれで」

 

 そんな全員の疑問に答えるように女医、マリはそう告げると、唖然としたままの六人をそのままにマリは肩まで伸ばし、結んでいる銀髪を揺らしながらゆっくりと立ち去って行くのであった




 はい、今回は新キャラとして『マリ』事、ウルトラウーマンマリー。つまりはウルトラの母を登場させていただきましました。ウルトラの母のような口調を目指しているのですが予想していたより難しくて少し苦戦しています

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