推しのため、ダンジョンへ赴く   作:ケケフカ

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 2025/8/15 登場人物の削除及び台詞の編集


1話 アルバイトと推し

 

 

「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」

 

「らっしゃっせー、ご主人様ー」

 

 男性客一人。

 

 服装や武器から見るに冒険者……というか、同郷のオタクくん。

 

 珍しくダンジョン帰りなのか、装備を携えているのが見える。鎧らしい鎧は胴ぐらいしか見えず、ほぼノースリーブみたいな服になってる。世紀末かな。

 

 オタクくんさ、なにその大剣……ベ◯セルクでしか見ないよそれ。

 

 働いてる他のメイド達の中、アタシに気づいたオタクくんは、はにかみながら歩いてくる。

 

「ルネカ氏! 今日もお疲れ様ですぞ。指名お願いしまーすぞ」

 

 挨拶してくれるの、オタクくんだけなんだよね。適当に接客しているようなものだし、普通のアルバイトだからお金も少ないし……だからこの彼には助けられているところはある。

 

 

 アタシがこの世界に来てから早一年。

 

 

 あの羽の生えたケモノ────キリンにステータスというのを与えられて、この世界の住民として正式に採用された。

 

 ステータスはこの世界での人種と能力を確立させる。身体能力や知能の向上、魔力という概念の付与。また、このステータスを与えられた人の中で、種族の変わった人、性別の変わった人もいた。

 

 それもステータスがこの世界に順応させる為に付与させた奇跡だとかなんとか。宗教臭いのでアタシはそこで考えることをやめた。

 

 アタシも当然、ステータスは貰ってる。

 

 職業は……“ 打者 ”。

 いや、打者って何? 満月◯根斬りで戦うのアタシ。

 

 その下に、なにやら数字とか色々書いてあったけど、職業が明らかにダメな感じだったから見ることもなかった。

 

 それから、住む場所の家賃を払うためにアルバイトすら経験の無い高校生が仕事探しを始めた。

 

 だがこの世界、ロクな仕事がない。

 

 冒険者とか兵士とか農作とか、果ては娼婦とか……なんだか面倒いものばかりだった。打者が活かせる職業など一つもないことも理解した。

 

 唯一、下手な客が来ない“ メイド喫茶 ”で働き始めた。国のお膝元である城下町にあり、普段の生活をするだけなら困ることは一つもない。

 

 お店自体は庶民の為のメイドさんがコンセプトらしく、異世界でもこういった店はどこも同じなんだと思いながら働いている。

 

 別に客と長々話すわけでもないし、それぽい口上を述べておけば接客が終わるのは楽だった。打者は活かせなかったが。

 

 フリフリ重ねたゴスロリメイド服という従業員服なのは、この際仕方ないと受け取るしかなかった。働き口あるだけマシである。

 

「そんでオタクくん、ご注文は?」

 

「ハートブレイブスパゲッティ────そして伝説へ、で頼みますぞ」

「はい、トマトスパゲッティね。水でも飲んでゆっくりしてて」

 

 注文を取り終えて、厨房に内容を伝える。

 

「店長、トマトスパゲッティの注文」

 

「ルネカちゅぁん。 ハートブレイブスパゲッティ────そして伝説へ ”よっ‼︎ いっつも言ってるでしょ‼︎」

 

「うっさ……はいはい、了解でーす」

 

「うもぅ、反省ないんだから。マスタード、スペクトラムぷんぷんよ‼︎」

 

 マスタード店長───もといオカマは五月蝿い。

 

 別に嫌いなわけではないが、アタシの注文についてはめちゃくちゃ怒ってくる。

 

 普通のオムライスとトマトスパゲッティじゃん……何がどう間違えたらスパゲッティをハートでブレイブしなきゃいけないんだ。デジ◯ンか。

 

 それでも嫌いになれないのは接客に関して問題ないとかなんとか言ってくれるから。

 

 割と怒られそうなぐらい適当なんだけど。他の事で愚痴愚痴怒られないし、いいけど。

 

 料理が出来上がるまで、オタクくんの方の対応……もといサボりに移った。

 

「楽しい会話タイムの始まり。適当にうんちくとか自慢話よろしくー」

 

「適当ですな、ルネカ氏。たまにはルネカ氏本人の話をしてくださってもいいのですぞ」

 

「セクハラしてくるおっさんの顔にカレーぶちまけた話ぐらいしかない」

 

 あれはおっさんが悪い。だから制裁してやったに過ぎない。次に会ったら、バットでブン殴る。てか、殴っていいって店長から言われてるし、絶対殴る。

 

「アタシの話なんてアンタら冒険者に比べたらファンタジーに欠けるし、おもんないよ」

 

「そうですかな?」

 

「アタシは戦えないし、魔法なんて使うこともないから。毎日が同じ日って感じ。日本の日常と変わんない」

 

「その日常、我々冒険者からしたら羨ましいですぞ」

 

 ネット小説とかでよく見るけど、その感覚は分からなかった。

 

 力を持っていて、それを振える機会があるのだからいいじゃないかと思ってしまう。それにオタクなら尚更。

 

「じゃあ、オタクくんがダンジョンの最奥を目指してるのはなんで? 元世界に帰るとかこの世界を救うため〜みたいな?」

 

「ダンジョンをクリアしたところで元の世界に戻れないことはキリンの話から分かることとして、別に平和のために動いてはいませんぞ」

 

「ダンジョンで命張る意味ないじゃん」

 

「有り体に言えば、金が欲しいからですぞ」

 

 率直な答え。穢れなき、黄金の輝き。

 

 彼の答えに落胆……勝手な期待をしてしまった自分を恥じたい。というか、かなり現実的な答えな気がする。

 

 確かにダンジョンクリアしたところで帰ることは出来ないとかなんとか前に聞いた。

 

 世界を救うのも、勇者とかなんとか称号持った同じ歳の奴らがやってたっけ……名前とか一切覚えてないけど。

 

「金さえあれば、この世界で事業を始めることが出来る。我々の考えは、帰れないのであれば、事業を拡大して帰るべき世界に変えてしまえばいい」

 

「帰るべき世界……?」

 

「オタク文化、ですぞ」

 

 オタク文化。

 

 現状のアタシを狙い撃ちされたかのような発言にひっくり返る。言葉通り、椅子から転げ落ちた。

 

「この世界は娯楽文化に疎い。公衆娯楽は大きく分けて賭け事、娼館、演劇の三つ。娯楽が出来上がってから三百年近く経っているのにも関わらず、そこから進展が一切ありませぬ」

 

 確かに娯楽がどれも古臭いのは分かる。

 

 簡易蓄音機はあるけど、クラシック音楽ぐらいしかないし、演劇で流れるようなものが主流。こう……可愛い感じの音楽は一切ない。

 

 本も存在はするけど、極端に少ない。いつも同じような内容でかつ堅苦しいものばかりでユーモラスなものは存在しない。

 

 椅子を戻し、座り直した。

 

「これを打開するべく、同士とお金を集め、オタク文化を広げるための事業作りをしているんですぞ」

 

「お金を集めたい理由は分かったけど、ダンジョンって稼げるものなの?」

 

「小魔源石程度なら、三百ルアぐらいですぞ」

 

「しょぼ」

 

「中魔源石なら、二万ルア。大魔源石は運ぶコスト含めて、十万ルアが妥当ですな」

 

「……なんか思ってたのと違う」

 

「まあ、魔源石なんてものは市場に出回りやすいですからな。そこの電灯も同じようなもの」

 

 オタクくんが電灯用魔源具を指差した。

 

 思えば、身近に魔源石が使われない物は一切ない。生活必需品だから、その価値も大幅に下がる。

 

 それに魔源石自体が、魔物やダンジョン内に生成される鉱石。ダンジョンに行く人間なんて五万といる上、外壁とか地面に生成されるから、弱い人でも最悪そこらへんで取れる。

 

 そりゃあ、三百ルア……三百円程度の価値しかないわけだ。

 

「ですがな、魔源石は電池のような物。一度切れてしまえば、代わりが必要になる。需要は帰ることがないのですぞ」

 

「でも、そんなに稼げなくない?」

 

「稼げますぞ。最奥に行けば。ただ、これは企業秘密」

 

「うわ、一番重要な所を隠すのズルい」

 

「はっはっはっ‼︎ もし、ルネカ氏がダンジョンで働くことになれば、我々の企業秘密が分かりますぞ」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 ────もし、ルネカ氏がダンジョンで働くことになれば、我々の企業秘密が分かりますぞ。

 

 仕事が終わり、その帰路でメガネくんの言葉を思い出していた。

 

 ダンジョンで働く。

 

 はっきり言えば、面倒くさい。

 

 別段、戦うことが好きなわけじゃない。なによりお金を稼ぎたい意欲もない。そこまでして働く意味など見出したことはない。

 

「はぁ……」

 

 大きく溜息を吐き、ふと噴水の方へ顔を向けた。

 

 

 

「「「スタリオンちゃーんっ‼︎」」」

 

 

 

 噴水の周りで聞こえる妙に親和性のあるコールが聞こえてくる。

 

 複数の木箱で作られた壇上。

 煌びやかなライトに照らされた一人の少女。獣耳や尻尾を見る限り、獣人族であることは明白。

 

 その手には拡声器型魔源具を持っていた。

 

 その木箱の周りには五十人ほどの男達が、光る棒を振っていた。恐らくあの男達がコールをしていたのだろう。

 

 あの光る棒。

 

 推しに対する基本装備とも言える愛の剣。様々なカラーに光り、振るたびに空へ軌跡を描き、偶像への喝采を届ける。

 

 アレは────サイリウムセイバーだ。

 

 コール後、壇上の少女が手に持っている拡声器型魔源具を口元に当てた。

 

「ヴァルゼオンからエルダリオまで‼︎ ウマウマアイドル、駆け抜けます‼︎ スタリオンも────みんなのこと大好きっ‼︎」

 

 ────キラキラと輝く笑顔。

 

 ────瞳の中の星々の輝き。

 

 ────映えるフリフリな衣装。

 

 ────ライブでしか見えない生美声。

 

「あっ、ああ……」

 

 フラフラと彼女の側まで歩いてしまう。

 

 見つけてしまった安永の地。アタシがいるべき天国。

 

 というか可愛いね、スタリオンちゃん。そのデカ耳とかめちゃくちゃキューティクルじゃん。一人称はスタリオンなんだね。そのわがままな感じいいよ。笑顔の為なら何回でもチェキ欲しいな。そのヒラヒラでフワフワな衣装は誰のアイディアなんだろう?スタリオンちゃんのアイディアだったら、素晴らしい才能の持ち主。是非ともその衣装で踊って────。

 

「あっ、そこのお姉さん‼︎ あなたもスタリオンと一緒にウマウマしちゃおう‼︎」

 

 

 あ、その笑顔、しゅき……。

 

 

 

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