前回からの流れをこのまま続けてきます。
「また当たらなかった‼︎」
「焦り過ぎですぞ。もっと冷静に、相手の動きを見るのです」
銃撃を外した瞬間、二体のラットがこちらへ視線を移す。
空薬莢を飛ばし、“指に挟んでいた”銃弾を込める。即座に元に戻し、片手で構えた。
走ってくるラット二匹。
それに合わせて、アタシも前方へ駆ける。
当たらないなら、さっきと同じようにすればいいだけでしょ‼︎
近寄ってきた一匹のラットを蹴り飛ばし、もう一方の飛び込んできたラットの頭部に銃口を突き出す。
引き金を引く。
視界に黒い魔力が見え、一匹仕留めたのを確認。壁に身体を打ち付けたラットへ視線を向ける。
起き上がろうとするラットを足で踏みつけ、先程の手順で手元のライフルに弾丸を込める。
ジタバタと動くラットの頭部に銃口を押し付け、撃ち抜いた。
動かなくなったラットを横目に、流れ作業で弾を再度入れ直す。
「戦い方が怖いですな」
「下手くそ?」
「戦闘面ではなく、絵面的な意味ですぞ」
魔力になって空へと消えていく二匹のラット。その遺体があった場所に15cm程の魔源石が二つ転がっていた。
拾い上げ、取得物用バックの中へ押し込む。
そろそろ中も一杯になってきた。流石にこれ以上集めることは出来なさそうだ。
「二階層まではどのくらいかな。面倒になってきた」
「だいぶ距離は歩いたので、もうそろそろだと思いますぞ」
最初の討伐から既に、十数体のラットを倒していた。
何度も同じ的を撃って、蹴っては飽きてくる。そうでもしてれば、銃の扱いにも慣れてくるというもの。
再装填は早く出来るようになったし、反動も抑えられるようにはなってきた。そのせいか、雑に片手で扱うようになってしまったけれど。
彼曰く、ラットを倒したことでレベルアップし、全体的なステータスアップで反動制御が容易になったとのこと。
ただ、ステータスを見る術は今のところないから、身体で感じる以外なんとも言えない。
「それにしても、ルネカ氏は基本的な後衛の動きが難しそうですな」
「それは薄々気づいてた。やっぱり狙撃は向いてないかも」
狙って当たったのは一番最初だけ。
それ以外は狙うというよりは数で無理矢理当てるか、より近くまで引きつけてから撃つことでしか当てる事しか出来なかった。
むしろ近寄ってきてくれた方が、タイミングは合わせやすい。それどころか自分から近づいてしまってさえいた。
リスクを取った方が、命の天秤を自分の手玉に取れている。
「おっ、これですぞ」
ラットが現れなくなってきた道を歩いていくと青い扉が見えた。
入り口の扉とは違い、重厚感は一切感じなかった。ペラペラでまるでCGアニメでも見ているような見た目。あっ、右の上側が剥がれてる……。
「本当に……これ?」
「信じられないのも無理はありませんが、これが階層扉ですぞ」
完全にテクスチャ貼り間違えたみたいだけど……触ってみると意外と重い。
押し込むように開くと、ダンジョンに入る前の草原が広がっていた。
藤沢くんの方を向くとコクリと頷く。それに従い、彼と共に扉の外に出た。振り返ると、閉まった赤い扉が目の前に見えた。
上を向くと……やはりと言うべきか下半身が見えていた。
「本当に二階層……いッ⁉︎」
掌に痛みが走る。
咄嗟に掌へ目を向けると、縦線一本の痣が付けられていた。
「それが階層クリアであり、セーブデータのようなものですぞ」
「そういうこと……なら、次にこの扉を入った時には二階層ってことだ」
「現在の最新記録は二十四層。我々のクランもそこまで行きましたぞ」
自慢するように掌を見せてきた。
そこには“ ⅩⅩⅣ ”と描かれた痣が見える。
つまりは目の前にいる藤沢含め、その仲間が現状攻略の最前線にいるということだろう。
「しかも、明日は二十五層に潜るつもりでして、今日は前日休みだったのですぞ」
「そうだったの……なんか悪かったね」
「いえ、こうやって新人教育するのも、いい休日でしたぞ。むしろこっちから感謝したいくらいですぞ」
ははっと笑いながら、帰りますぞと帰路に向かって行く藤沢。
深く息を吐いて、肩から力を抜いた。
ダンジョンに入ってから戦闘続きだったから、力が入りぱなしだったのかどっと疲れが出てきた。
指照から弾を抜き、ゆっくりとホルダーへと落とした。
◇◆◇
厨房の椅子に腰掛け、料理をしている店長の後ろ姿を眺めながら、袋に入ったお金を見ていた。
小魔源石十七個分のお金。
5100ルアはバイト代の十二分の一程度。ダンジョン一度潜って、チェキ5枚ぐらいの稼ぎか……。
「冒険者……面倒臭がりで有名なルネカちゃんが、ね」
あれから藤沢くんとは別れ、いつも通りメイド喫茶でのアルバイトに勤しんでいた。
と言っても、ダンジョン攻略の疲れでいつもよりも雑な感じになってしまった感は否めない。けれど、なぜか客からのウケは良かったのは何故だろうか。
そんなこんなで、オカマもといマスタード店長から仕事終わりの賄いを貰っていた。
勿論、ハンバーグである。
「つい昨日までは、“ お金なんて最低限生活できればいいからツーン ”って野良猫ちゃんみたい顔してたのに」
「……趣味が出来たんです」
「あら、いい事じゃなぁい。大事よ。大切なものを作るって」
若干、クネクネしてる店長が気持ち悪い。腰を左右に動かさないでほしい。
「私なんて、仕事にかまけてるせいでクールな男の一人にも告白────」
「あ〜、スナックのママみたいな顔しないでください。老けて見えますよ」
「もう、最近の若い子って失礼ね。スペクトラムぷんぷんよ‼︎」
だから、スペクトラムぷんぷんって何?
この店長と話しているとツッコミが止まらない。まだあの武器工房のフウライの方がマシな気がする。見た目だけ可笑しなだけだし。
「出来たわよ、ハンバーグ。またダンジョンに潜るなら、いっぱい食べなさい」
「ハンバーグ2枚も。流石にこんな食べられ……ガツガツ‼︎」
このハンバーグの魅力の前ではそんな事も言い訳でしかなくなってしまう。
焼き方は雑ぽくなく、それでいて肉汁は無駄にしないように工夫が凝らされている。ソースもデミグラスソースを自作で作っているところに、こだわりを感じる。
「こういうところは子供ぽいのよね」
「ごくっ……アルバイトしてるから子供じゃない」
「そういうところよ」
どういうところだよ。
いや、今はツッコミを入れている場合ではない。このハンバーグを隅々まで堪能しなくては……‼︎
ハンバーグを食べている途中、ドアのベルが聞こえた。今は閉店中であるのが見えなかったのだろうか?
「店長さんはいらっしゃいますでしょうか!」
「警官隊ちゃんじゃなーい。はいはい、居るわよぉ‼︎」
パタパタ厨房から離れて行く店長。その後ろ姿を追う事なく、ただひたすらにハンバーグを食べ続ける。
店長の知り合い……警官隊という割には可愛い声してるなぁ。何処かで聴いた覚えがあるけど、思い出すのも面倒。
「すいません。遅い時間に来てしまって」
「構わないわよぉ。そ・れ・よ・り・も、顧客リストよぉん」
顧客リストなんて取ってたんだ。確かにウチの店はレジみたいな機械で会計してるけど、他の店でやってるのは見た事がない。
というかそれ警官隊に渡してもいいやつなの。個人情報保護に引っかかってるよねそれ。
「……確かに。やはり、ベルドロイから多くの人が来ているみたいですね。マスタードさん、いつもありがとうございます」
「いいのよ。私も助かってるし、お店の子達を守る為だもの」
「私達もヴァルゼオン国民を守る為です。これからも宜しくお願いします」
再度聞こえたベルの音で、先程の警官隊が帰ったことを理解した。
食べ切ってしまった皿を見ながら、満足感に浸っていた。これ以上食べろと言われても、流石に無理。
「流石にハンバーグは早いわね」
「美味しかったもので……」
「そんなに好きなら今度から味変でもしようかしら……そうね、タマネギソースとか」
戻ってきた店長。
その手に握られているのは皮の剥かれていないタマネギであった。