推しのため、ダンジョンへ赴く   作:ケケフカ

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 色々、作品の展開考えてたら遅くなってしまった。


5話 瓦解するダンジョン

 

 

「んっしょっと」

 

 ルネカがバッグを持ち上げた時、心地よい風が首元を通る。

 

 草原には風が吹いていた。

 

 ゲートの先はどこかの地平の続きだろうか。もしかしたら海に近いかもしれない。こんなにも涼しい風が吹いているのだから。

 

 悠長にそんなことを考えていた時、彼女の瞳に映った複数の人々。黄金の装備を纏ったオタクくん────藤沢だった。

 

「藤沢くん」

 

「おっ、ルネカ氏。昨日ぶりですな」

 

 メイド喫茶で見るような表情で話してくれる藤沢にルネカは、はにかむ。

 

 仕事以外で会うことはあまりない彼女にとっては新鮮で、この間までは得られることのなかった経験だった。

 

「今から最深部に潜るの?」

 

「そうですぞ。未だ先遣隊も居ませんので、かなり慎重に行こうとは思っておりますぞ」

 

 その台詞を体現するように、彼らの装備は明らかに防御力の高い金属類が使われているのは目に見えてわかる。

 

 武器も各々が得意とする獲物に切り替えていたり、巨大な重火器を備えていた。

 

「そういうルネカ氏は……ソロですか」

 

「ソンナコトナイヨ。アタシ、トモダチイルモン」

 

 やんややんやと言ってるうちに、声を掛けられた藤沢。軽い相槌を打ち、クランメンバーの方へ歩いて行く。

 

「ルネカ氏、また喫茶で会いましょう‼︎無理はせず、ですぞ」

 

「そっちもねー」

 

 開けられた扉────二十五層へと足を踏み入れて行く彼らへ手を振って、お別れをした。

 

 閉じられた赤い扉を確認し、浅く息を吐くルネカ。

 

「よし、アタシも行こう」

 

 扉を開き、二層目へと続く道へと歩みを始める。昨日と変わらないダンジョンの中に少々残念がりながら、扉を閉じた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 ダンジョン二十五層目。

 

 ダンジョンの中でも、人類が到達した初めての層。

 

 一層とは違い、拓けた空間がより一層目立つ。横に人が十人並んだとしても、空間に余裕がある。

 

 辺りは壁に掛けられた巨大なランタンに照らされ、オーシャンブルーのレンガを浮かび上がらせる。

 

「なんか十三層と似てないすか、リーダー?」

 

「ええ。恐らく、ボスですぞこれは」

 

 ボス。

 

 RPGゲームで表すなら、特定の場所や組織の主を表す言葉。

 

 その言葉をこの世界で使用するならば、試練。または死を覚悟するべき強大な敵であることを指している。

 

 リーダーである藤沢は自身のタッグである男「黒崎」。二人がこの階層について考察していた時、藤沢は黒崎の前に手を伸ばした。

 

 数秒の沈黙────そして彼は背負っている大剣を構え、前方へ突っ込んでいく。

 

「ちょっ⁉︎ リーダー‼︎」

 

「黒崎は構えて後ろに下がれ‼︎ 他部隊はアンカー固定と援護準備ですぞ‼︎」

 

 藤沢の咄嗟の行動にクランメンバーは驚きつつも、掛け声に反応して各々の武器を構え始めた。

 

 皮切りに甲高い音が連続して鳴り響く。

 

 その度、藤沢の大剣の前で火花が散っている。

 

 それだけの情報だけで彼が何かと斬り合っているのはクランメンバーは理解できていた。

 

 しかし、彼らに視覚的にソレを捉えられていない。というよりは物理的に見ることが出来ていなかった。

 

 斬り払い、藤沢は呪文を唱える。

 

「“ 赤熱の口腔。己が鮮血を吐き濡らす────クラスタ ”」

 

 クラスタ────または“ 火撒き ”。

 前方に火炎放射を放つ中級魔法であり、冒険者における必須魔法。

 

 クラスタを受け、燃える透明なナニか。火が移ったことでその本体らしき姿が見えてくる。

 

 身の丈以上の槍を携え、スラリとした鎧を羽織った騎士の姿。火で燃えているのに関わらず、熱がる様子は一切見せない。

 

 槍で周囲を払い、炎ごと藤沢は吹き飛ばされる。

 

 空でクルリと回転し、地面に着地しながら藤沢はその目で騎士を捉えていた。

 

「わたしのそうじゅつにあらがえるものが、このじだいにもいたとは」

 

 喋る騎士。その声は男性であることは明確であった。

 

 先程の透明は無くなり、騎士の姿がはっきりと見える。所々が霞み、黒ずんだ銀色の騎士甲冑。その手の槍だけは黄金に輝いていた。

 

「おうごんのきしよ。きさまはせんしたるうつわをもっている」

 

「光栄ですな。フロアボスからそんな一言をもらえるとは」

 

 騎士の台詞に余裕を持って答えるものの、藤沢の頭には撤退の二文字が浮かび上がっていた。

 

「(魔法でも武器でも勝てる未来が見えない……一介の冒険者に相手が出来る相手ではないですぞっ⁉︎)」

 

 再び大剣を構えつつ、撤退の準備を進めようとした時、騎士の後ろに人の姿が次々と現れ始めたのが見えた。

 

 白いローブを纏った数十人にも及ぶ軍勢。手には剣や杖……ボウガンなどの近代兵器。引けば、騎士と共に追いかけてくるのは目に見えて分かる。

 

「にげれるとおもわないほうがいい。われわれ、ゔぁるぜおんきしだんはたかのめである」

 

「リーダー、撤退をっ‼︎」

 

「……ダメだ。どっちみち私たちは逃げられない」

 

「我々が生き残る術────戦うしかないですぞ」

 

 その言葉に唾を飲み込み、全員が決心する。リーダーが言うことは正しく、この状況を一番理解し得る人物であるという信頼からであった。

 

「すばらしいしんかたちだ。しょうさんにあたいする」

 

「彼らは仲間。己が信念を貫こうとするオタクの野心を持った同志ですぞ」

 

「それはしっけい。ならば、このくろしき“ じーく ”のなをもって、おまえたちぼうけんしゃたちとのたたかいに、てをぬかないことをやくそくしよう」

 

 黄金の槍を構える騎士。

 彼から放たれる威圧に足をすくめながらも、藤沢は勢いよく息を吐いた。

 

「ギルド“ 浮かぶ羽達 ”。我々の願いを叶える為、全力で生き残れっ‼︎」

 

「ゔぁるぜおんはいびょう、さいしゅうそう。そのおもみをしるがいい‼︎」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 空薬莢が飛ぶ。

 

 慣れた手つきで彼女は再装填を行う。

 昨日と同じ構え。左指に弾丸を挟み、右手だけで指照を支える。

 

 その動きは戦いを知らない少女ではなく、既に戦い慣れをした冒険者。その背後には無数の銃痕が残されていた。

 

 そして、彼女の視線の先には膝をついた青色の単眼巨人────骨折りギガンがいた。

 

 身体には複数の弾痕が残され、至る場所から黒い灰を噴き出す。

 

 振り下ろされたと思われる腕は地面に大きなクレーターを作り上げ、次のモーションに移ろうとするギガンは空を仰ぐルネカを見上げていた。

 

 再装填された指照を構え、弾丸を放つ。

 

 弾丸は単眼に命中し、ギガンは床に倒れ伏せた。

 

 ギガンの背中に着地し、再装填を行おうとするルネカ。ぴたりと手を止めてギガンの上で胡座をとる。

 

 黒い灰のようなものに変わっていくギガンの遺体。数分もすれば消えていく遺体のドロップアイテムに期待を寄せながら、青い扉────通称“ コピペ扉 ”を見ていた。

 

 

 ルネカの手にはⅣと描かれた痣。

 

 

 五層までのソロクリア自体は別段珍しいことはではない。そも、カートリッジ式銃という武器が生まれてからというもの、三階層までは余裕でクリアすることができる。

 

 そのクリアスピードという点においてルネカは異常だった。

 

 基本的に一日という膨大な時間をかけて、一層ずつ地道に攻略するのがセオリー。順調に行ったとしても一日一層が限界とされている。

 

 しかし、ルネカは総合時間五時間程度でクリアし、既に五層のゴール地点に辿り着いていた。

 

 足元のギガンが消えていく感覚を感じ、飛び降りる。そして、完全に霧散した遺体から投げ捨てられるように小魔源石と比較的綺麗な西洋剣がドロップする。

 

 魔源石はとらず、剣を手に取った。

 

「初めて剣ドロップしたけど……意外と軽いんだなぁ」

 

 くるくると剣を手で弄びながら、コピペ扉を蹴り開いた。

 

 スタート地点である草原に足をつけ、周りを見渡す。何度か戻ってきているにも関わらず、藤沢が見当たらないことをルネカは疑問に思っていた。

 

「……まだ潜ってるのかな?」

 

 もしかしたら入れ違いって帰っているのかもしれない。

 

 弾丸もそろそろ尽きていたことも考え、ルネカはギルドの方へ戻ろうとゲートの方へ歩みを始める。

 

 適当にバックの中に武器を詰め込もうとした時、大きく大地が揺れた。

 

 あまりに巨大で急な衝撃に膝をつくルネカ。

 

 数秒後、収まる揺れ。

 何が起きたと地面から立ち上がると轟音が横から響き渡る。

 

 ルネカの横、巨大な岩石が数メートル先に堕ちていた。

 

 大きさは彼女よりも数倍大きく、彼女に堕ちていれば即死は免れない。

 

 それどころか地面は少しばかり黒焦げているところを見るに尋常ではない速度で堕ちてきたことは容易に想像できる。

 

 ルネカが見上げると空から無数の岩石。隕石の如く、赤熱した岩石が空から降り注いでいた。

 

「嘘でしょ……⁉︎」

 

 急いでゲートの方まで走っていくルネカ。

 

 だが、また大きく地面が揺れ始め前に大きく体勢を崩す。地面に這いつくばるようになってしまうも、剣を地面に突き刺し、なんとか立つ。

 

 再度、走ろうと歩みを始めた時、違和感を感じた。

 

 そして徐々に暗くなっていく世界。

 

 大きく広がってくる影に嫌な想像を巡らせながら、ルネカは振り向く。

 

 そこには先程まで入っていたヴァルゼオン廃廟がこちらに倒れ始めているところであった。

 

 剣を杖代わりに揺れる草原を歩く。

 

 それでも目的地のゲートまでは遠く、辿り着く兆しが見えない。

 

 ルネカはゲートに手を伸ばすも、淡い希望だと言わんばかりに白い石膏が彼女の上に降りかかった。

 

 

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