そらのひと   作:vars

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pixivと同人誌にて掲載中の作品。
StSくらいの話。


エース トゥ ストライカーズ

 

 それはきっと、約束されていたこと。

 時の歯車はずっと、周り続けているから。

 だからいつか。そして、きっといつか――

 

 

 朝靄が掛かった景色。色褪せた景色。無骨なモニュメント。

 その地には、黒い衣服に身を包む人影が、ひとつ。

 他に生きる者の姿のない、早朝の静寂。

 時の流れるがまま、立ち尽くしていた人影。その伏せられていた瞼が、日の出の気配を感じ取ってゆっくりと開く。

 地平より差し込んだ陽光に、その瞳の紅が煌めく。

 そっと、息をつく。どうやらそろそろ時間のようだった。来た時と同じように、沈黙を通す石碑へ一礼をして、人影はその地から踵を返した。

 帰途への道。朝を告げる光に、少し眩ゆさを覚え、その目を細める。

 

 ――こっちは、今日もいい天気になりそうだ。

 

 そう独り言のみを残して、今自らが居るべき場所へと歩みを進めてゆく。

 新緑の眩しい季節だ。そして太陽は空へ昇り、今日もまた、新たな一日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

「フェイトさーん、デスクの上に届け物ありますので、ご確認お願いしま~す」

「うん、了解したよー」

 

 補佐官に合わせて間延びした返答をして数十秒。

 確認のためにそちらに目を向けたフェイトはそこでピタリと視線を留め、目を瞬かせた。

 

「……えっと、シャーリー?」

「はーいフェイトさん、どうされましたか?」

 

 有能な補佐官の目は、上司たるフェイトのその顔に、困惑の色がありありと浮かんでいるのを見てとる。

 

「うん。届け物って、ここにあるので間違いないかな?」

 

 上司の言葉にぽん、と手を打つ。あぁ間違いだったか、とそっと胸を撫で下ろすフェイトに反して、執務官補佐たるシャーリーは苦笑し、こう続ける。

 

「あー、えーっとですね。それもそうなんですけれども……確か、まだ配送部で預かってもらっているものもあるとかで、とりあえずはそちらを確認して欲しいとの事でした。本日の最優先事項だそうですよ?」

 

 はい、とフェイトの手に渡された紙には見覚えのある文字。幼馴染であり、そして現在立場では上官に当たる、八神はやての文字が、フェイトに今日の指令を伝えている。

 いわく、本日の予定の変更。その内容は、フェイトにとっては実質半休を取るようにという指令に等しかった。

 書面に落としていた視線を上げ〝本日の最優先事項〟と困った顔の部下を見比べて、フェイトは頬を掻いた。

 

「了解、したけど……ねぇシャーリー、今日って何か特別な日だったかな……?」

「さぁ……ちょっと、私にも分かりかねます……」

 

 二人して恐る恐る見る、執務室の机の上。普段は書類で真っ白な机の上は、今は色とりどりの花や箱が満載されて、それはもう、山のような様相を見せている。それこそ、なんということでしょう。これが同じ事務机だったのでしょうか、と補佐官がボソリとアテレコをする程に。

 届け物というよりは、贈り物と言って間違いないだろう、それら。いずれもフェイトを宛先にしたものであることを示す文面が、フェイトの思考停止時間をさらに延長させていた。

 

「……とりあえず、フェイトさんは今日はそちらをお願いしますね?」

「……りょ、了解……」

 

 有能敏腕と評価の高い執務官をして思考を止めさせるこの状況。そんな、下手な事件よりも難解な課題を前にして、フェイトは辛うじて了承の言葉と、空笑いを零すしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 ――本日晴天なり。もうすぐ暮れる日の後に、きっと澄んだ満天の星空がみられるでしょう。

 

 心の内で天気予報風にそう呟くのは、我らがエースオブエース、教導官である高町なのはさん。しかし思う言葉に反して、心はすこし曇り空。そのまま、すぐ隣でまだ何か考えごとをしているらしいフェイトさんの横顔をじーっと見ています。

 なのはさんとフェイトさん。今は仕事もひと段落させて、六課の部屋でソファに腰掛け、一緒の時間を過ごしているところです。早めの入浴も終えて、過ごすのは夕食までのちょっとした空白の時間。なのはさんはクッションを抱えつつ首を傾げて、隣で何かの作業を続けるフェイトさんを見守っています。

 フェイトさんからは早めだった帰宅の際に、今日の分のお仕事は終わったと聞きました。実際なのはさんの目に映るフェイトさんの雰囲気は柔らかく、宙に浮かんだ画面にちらりと見える何かの調査結果も、どうやら仕事にはあまり関係ない模様。

 

 そう、確かに仕事ではないのでしょう。それでも、フェイトさんから疑問を示す唸り声が聞こえると、何があったんだろう、何がそんなに疑問なんだろうととても気になります。ただ、そこまで深刻でない様子から、フェイトさんから話してくれるまでは待とうと決めたなのはさん。フェイトさんが気にしないよう、クッションを抱えつつ教導や予定の確認をしながらも、フェイトさんの疑問が解消されるのを――あるいはこちらに気が付いてフェイトさんが顔を上げるのを、気長に待っているのでした。

 そうしてふとクッションに頭を預ける形で隣へと視線を向けると。考える様子のままのフェイトさんと不意に、目が合いました。

 目が合ったことで、隣にいるなのはさんの心にあるちょっとしたモヤモヤに、フェイトさんもようやく気付いたのでしょうか。「ごめんね、せっかく一緒なのに」と口にして眉を下げる、フェイトさんの申し訳なさそうな顔に、ううん、となのはさんは軽く答えて首を振ります。

 そうしてなのはさんは自分の作業画面を保存して消し、クッションも横に置いて、話を聴く体制を取りました。

 話すべきか迷っていたであろうフェイトさんも、その様子に腹をくくったようで。なのはさんに向き合うと、今日ずっと頭にあったものを打ち明けることにしたようでした。

「ねぇなのは」

「うん、なぁにフェイトちゃん」

「えと……なのはは最近、何か物を貰ったりした?」

「ふえっ、……えーっと、貰ったりはした、かな……?」

 

 その質問が、例えば自分が誰かのラブレターを受け取ったかと聞いているように聞こえたなのはさん。もしかして、無意識に自分も今日のフェイトさんの悩みになってしまっていたのだろうかと思い、必死に記憶を巡らせます。

 確かに、ここ最近で同僚の人や後輩の人から贈り物をされたことはあります。しかし、その一つ一つを気にするにしては、今の質問はどこか遠回しな聞き方です。恐らくフェイトさんが聞きたいのは、それについてではないと経験と勘が囁きます。

 

(フェイトちゃん、私が誰かから贈り物されてもいつも単純に良かったね、って言ってくれるもんね……)

 

 変な心配をかけないように、なのはさんもそういった事は普段の会話に織り交ぜて口にするのですが、今回の本題はフェイトさんが貰ってきた贈り物に関することでしょう。現に、フェイトさんはなのはさんが考える様子に、自身の質問の意図が見えないことを悟ったのでしょう。

 

「あ、違うよ? なのははみんなに好かれてるから、贈り物されるのは自然なのは分かってるよ? そうじゃなくてね、えーっとね……」

 

 まだ特に何も追求していないのに慌ててぶんぶんと両手を振ってみせたフェイトさん。そこには暗い感情のたぐいはなく、なのはさんはちょっと安心します。ふと、その赤い瞳がテーブルへと滑ったのでなのはさんも追い掛けて視線を流します。そこには、今日、仕事先からフェイトさんが持って帰ってきた沢山の贈り物。それらはまだ開けることが出来ないものも含めて、存在感そのまま、まだ山とありました。

 

「……そうだね。なのはは今日、何か贈り物とか貰ったりしたのかな、って思って」

 

 なのはさんは唐突な質問にちょっと目を丸くしながらも、ちょっと考えて、今日に限るならと首を振りました。

 

「私は今日は貰ってないよ?」

 

 言いつつ、あぁ、と意図に気付いてなのはさん。

 

「もしかして、持って帰ってきたフェイトちゃんの贈り物はみんな、今日に合わせてのものだったのかな?」

「うん。どうやらそうらしいんだ。でも、どうにも心当たりがなくて……。それでね、なのはもそうだったのかなって、思ったんだ、けど……」

 

 結果は違った、と。

 しりすぼみになる声になのはさんが微苦笑。と、気難しい顔をするフェイトさんが、ぽつりと零しました。

 

「ねぇなのは。私って、今日なにかあったっけ……?」

 

 とぼけた質問に聞こえましたが、フェイトさんの顔は至極大真面目なものでした。なのはさんも顎に手を当ててます。

 フェイトさんに送られた贈り物の、山。今日一日に送られてくるには、偶然にしてはあまりに集中していました。しかし、受け取った本人であるフェイトさん、贈り物を受け取れども、ここまで贈り物が集中した理由に全く心当たりがありませんでした。

 自分の誕生日から記念日、その他ミッドチルダだけではなく、送り主一人一人の地域の風習――地球で言うバレンタインやそれに類するもの――や、果ては荷物の集配タイミングなど流通まで軽く調べてみたのですが、それらしき理由が見つからないのです。

 もし自分に理由があるなら、気付かずにいるのはあまりに申し訳ない。調べて、ちゃんとお礼をするべきだろう。それがフェイトさんの意志で、今のところ一番の悩みなのでした。

 

「そっかぁ……それは確かに、気になるね……」

 

 その言葉を聞いて、うぅん、と。なのはさんも一緒に考えます。

 

「贈り物、かぁ。確かにフェイトちゃんこそいろんな人からよくプレゼントを貰ってるけど、今日はちょっとさすがに集中しすぎ、だよね。ちなみに、シャーリーはなんて?」

「そ、そんな貰ってないよ……? えと、シャーリーも分からないって。なんだろうね、って頭を悩ませてたよ」

「そっか……う〜、私もちょっとお手上げかなぁ。他に何か手掛かりがあれば良いんだけど……」

 

 二人してうーんと唸り声。

 外から差し込んできていた西日はいつの間にか引いて、ゆるりと夜の帳が下りてきていました。

 

「……そういえば、はやてからの伝言、今日は地球では五月の第三日曜日やでーって、言ってたっけ……。てっきり向こうは祝日だってことだと思ったけど、関係あったりするのかな? 送り手の人たちはみんな、地球とはほとんど関わりのない人からばかりだったんだけど……」

「五月。うーん、五月……?」

 

 その言葉に、なのはさんも顎に手をやって考えます。

 すーっと天井に目をやって沈黙。五月のイベント、と呟いた後。不意になのはさんがぽん、と手を叩きました。

 フェイトさん、なのはさんがあっさり何かに思い至った様子に思わず目を白黒。

 

「えっ、えっ。なのは今ので分かったの?」

「うん、もしかすると、なんだけどね」

 

 はにかむような笑みでソファから立って。

 

「ちょっとプレゼントの宛名、見ていい?」

「だいじょうぶだけど……えと……?」

 

 なのはさん、テーブルの上にあるプレゼントはそのまま、そこに挟まったフェイトさんへのメッセージカードの宛名へ視線をなぞらせて。こくり、頷きます。

 

「うん。あのね、もしかしてその送り主って、フェイトちゃんが保護した子たちだったりするのかな?」

「えっ? ……あぁ、そうだね、そういえば」

 

 視線の先、あの山の中には保護施設の子ども達のビデオメッセージも含まれていて、検める中にも頬を緩めたことを思い出します。

 

「じゃあ、きっと当たりだ。もし私の、あとはやてちゃんの予想が正しければ。これは第97管理外世界……日本の風習だね」

「日本の? そんな日、この季節にあったっけ?」

 

 未だ気難しそうに考えるフェイトさんと、一言断りを入れて、まだ手が付けられていない贈り物に近付くなのはさん。

「お世話になった人に感謝の気持ちを贈る日だよ。フェイトちゃんも、今年もちゃんと準備してたよね」

「…………あっ、えっ? でもそれって」

 

 そこで、フェイトさんも気が付きます。もし思い浮かんだイベントで合っているなら、確かに自分も一週間ほど前に準備をしていました。日本に住んでいた頃は毎年〝その人〟に忘れずに贈っていたのですが、今回は忙しくて、事前に贈り物の発送をお願いしていたと。

 しかし。ここ最近は忙しくて、フェイトさんは地球の日付どころか今日の日付もすっかり忘れていました。それでも今日この日だからと。朝、多忙に忘れる前に、故郷で祈りを捧げることだけはしていたのですが。

 答えはフェイトさんの中にも思い浮かぶもので――それでも思い至らなかったのは、まさかその日に何かを贈られる立場に当てはまることになるなど、夢にも思っていなかったのです。

 だからこそ。

 眉を下げ、あぁ……と困惑の声を漏らしつつ。フェイトさんは答え、を口にします。

 

「……もしかして……母の日、かな?」

 

 なのはさんは微笑み。まだ目を通せていなかった、一通の手紙をフェイトさんに手渡して。

 

「うん。ご名答みたいだよ、フェイトちゃん」

 

 ほら、と手紙を翻して見せたのは、とある保護施設から送られてきた一通。その宛名には、幼い字体ながらもはっきりと。〝フェイトままへ〟と書いているのが――しっかりと見えました。

 

 

 

「いろんな所から来てるよ。さすがフェイトままさん、人気者だ」

「うぅ……なんだか、くすぐったいね」

 

 フェイトさんの第二の故郷である97管理外世界のことは、あまりミッドチルダでは一般的とは言えません。一部の出身者や愛好家が、その世界の文化を好み布教しているくらいなのです。おそらく、母の日についても保護施設の人が調べてくれたのでしょう。

 

「あっエリオとキャロからもあるね」

「……一緒の部隊にいるのになぁ」

 

 見覚えのある筆跡で〝フェイトさんへ〟と日本語で書かれている便箋を手に、こそばゆさに淡く笑います。

 

「それはほら、直接渡すのはもうさすがに恥ずかしいんじゃないかな」

「そうなのかな。……それに。教導を受け持ってるなのはの方が、今は二人に会う時間も多いんじゃないかなぁ……」

「でも。あの二人にとってママって言ったら、フェイトちゃんみたいだよ? それにたくさんの人がフェイトちゃんのこと、あったかい人だって思ってることは、……うん。私にも分かるなぁ」

「うぅ……」

 

 まだ面と向かってのその言葉には耐性がないのか、フェイトは頬を染めて少し視線を逸らしました。

 

「でも……そうだね。先生がなのはなら、〝ママ〟としては安心して任せられるね」

 

 ぽすん、と肩に乗せられるフェイトさんの暖かさに、なのはさんは目を丸くして。ふわっと笑いました。

 

「……ふふっ。フェイトママからのお墨付きだ。教師冥利に尽きるよ。もちろん訓練は厳しいけどね?」

「うん。それも知ってる。それが大事に思ってるからだというのも知ってるから。だから、きっと大丈夫。……みんな、うまくいくよ」

 

 そっとひたい同士を合わせると、笑い合います。

 

「ん。そうだね。……みんながしっかり自分の道に向かっていけるように、せんせーとしても、しっかりしないと、だなぁ」

 

 そう言って遠くを見るなのはさん。

 ふと姿勢を正してフェイトが向き直りました。

 いきなり改まった様子に、なのはさんも驚きつつも向き合います。

 と、ふにゃり、とフェイトさんの眉が心配そうに下がりました。

 

「高町隊長。隊長同士、私はあなたの支援義務を負っています。……だから、悩み事とか、いつでも聞くから。ね?」

「了解です、フェイト隊長。隊長こそ、無理なスケジュールは見直しを推奨します。……休める時はちゃんと休んでね? 早朝訓練出てくれるのは、みんなも……私も嬉しいけど、休んでね?」

「……善処します、高町隊長」

「そうして下さい、フェイト隊長」

 

 いつの間にか立場が逆転していることに、なのはさんは苦笑を、フェイトさんは溜息を。

 そうだ、とフェイトさん、話題変えがてらなのはさんを見ました。

 

「なのはこそ。今日は本当に何もなかった?」

「んー私は、そうだね。お母さんにプレゼントして……私は母の日に祝われる方ではないかな、さすがに」

 

 ポリポリを頬を掻く様子にクスリと笑って、ソファに身を預けつつ。

 

「それでは、改めて受け持ちの隊員はどうですか、なのはママ?」

「ううっ、ママって。確かにこれくすぐったいなぁ。

 ――うん、みんなしっかり付いて来てくれてる。これなら予定より早く次のステップに入ってもいいかも知れないってシミュレーションしてるよ」

「そっか」

 

 引き継ぎの調整もしないとね、と笑うなのはの様子は、先生と言うよりはどこか母性もあるように思うのだけれど。それは彼女の優しさの延長なのでしょうか。それは、フェイトさんには分かりませんでした。

 

 

 

 

 

 

「そっか。フェイトちゃんは、〝フェイトママ〟、かぁ」

 

 しばらくして。口を突ついた言葉。

 意図を図りかねてフェイトがなのはを見ると、微苦笑。

 ソファの上でそっと膝を抱え、なのはは苦笑する。

 

「私はママには、まだ早いかな」

「そうとも言えないと思うけどな、なのはも」

「フェイトちゃんには、そう見える?」

 

 言ったことで視線が合う。赤い瞳は、暖炉の火のように暖かく穏やかな微笑みを滲ませて。

 

「ほら。なのはも、施設に行くと保護観察の子によく喜ばれてるよね。子どもたちにもよく好かれてるよ」

「それは、嬉しいよ。でもそれはほら、エースオブエース、って肩書きのお陰で、フェイトちゃんほどじゃないよ。うーん、でも、そうだね」

 

 考える様子を見せて。

 

「うん。わたしがもし子どもを保護したりしても。その時は大先輩の、フェイトママがいるから安心だね」

「う、どうかなぁ。……なのはにも沢山相談したね。だから、今約束出来るのは……相談に乗るくらい、かな」

「ううん、とっても心強いよ。これからもよろしくお願いします、フェイト先輩」

「了解しました、高町さん」

 

 顔を見合わせて。小さく、笑いあった。

 

「そうだ。家族が増えるなら八神大先生にも教えを乞わないと」

「そうだね。食堂会議も良いけど……今度、予定を合わせて、カフェとかに行こうか?」

「いいね、何だか楽しみになって来た」

「ママ友同士、かな?」

「……そうかも?」

 

 他愛ない会話。それでようやく、心がちょっとだけ暖かくなってくれたような気がした。

 

 

 

 

 

 会話に花を咲かせて。そろそろ夕食にしようかとところで、あ、そうだとなのはさんも顔を上げます。

 

「そうだ、ママで思い出した。一個聞きたかったことがあって……フェイトちゃんなら覚えてるかな」

「うん? ママ、で思い出すことなの?」

 

 こくり、となのはは頷き。

 

「うん。あのね、ずうっと前に、私とフェイトちゃんをママって呼んでくれた子、いなかったかなぁって」

「えっ、それってエリオとキャロ……じゃないよね。いつ頃だろう……?」

 

 フェイトの問いに、うーん、と目をつぶって記憶を捲りつつ、なのはも唸る。

 

「うろ覚えなんだけど、まだこっちに来る前だったような気がして。だからフェイトちゃんは覚えてるかなぁって」

「海鳴で? ……そんなこと、あったかなぁ」

 

 ミッドチルダに来る前、というと、だいぶ前では。不思議そうにフェイトが首を傾げると、なのはは夢見るように目を閉じる。

 

「なんだろう。最近ね、時々夢に見るんだ。目が覚めると忘れちゃってるんだけど、ちょっとだけ思い出したの。ずっと前にママって、呼ばれたことがあるな、……って」

「それは、確信かな? なのは」

「夢に確信って言葉があってるかは、分からないけどね」

 小さく舌を出す。

 それは、名前も姿さえも思い出せないもどかしさ。気のせいとすれば、それで済む話なのだけれども。

 全てを越えて、その誰かには愛しさを覚えている。

「それにしても……ママ、かぁ」

「うん。なのははきっと、いいお母さんになるね」

「……そうかな?」

「うん。きっと」

「それは、やっぱり教導官の指導を見ての判断ですかな? フェイト執務官」

「普段のなのはを見て、だよ?」

「…………私は、ママには似合わないよ?」

「なのはは、自分でそう思う?」

「…………」

 

 真摯に問うてくる真紅の瞳に、なのはは答えは返せない。

 実際にそういう存在になれるのか、と問われれば。例えば、彼女のように保護責任者になるという選択肢もある。八神はやてのように、一緒に暮らすと言う選択だって、無くはない。

 けれども、高町なのはは、それを選ばない。

 選べない、ではない。選ばないのだ。

 その理由は、――彼女は、わかってしまってるいだろうけど。

 

「なのは」

 

 無意識に逸らしてしまっていた視線を、彼女は静かに笑って、受け止めてくれる。

 

「フェイトちゃん」

「ん?」

「私は、ママになると思う?」

 

  目を丸くした後。フェイトは、空に目を向けた。

 

「うーん……そうだね……」

 

 そっと目を閉じて、なのはの方へ向き直ると。

 

「それは、私には分からない。ただ言えるのは。なのはが〝ママ〟になってもならなくても、私はなのはの心配ばかりしてる気がする、ってこと、かな」

「うっ。そ、そうじゃなくて……!」

 

 向き直って行おうとしたなのはの抗議は、形になる前に風とともに消える。フェイトが。なのはの身体をそっと、包んでいた。

 

「ね、なのは」

「……うん」

 

 その瞳に、星明かりを灯し始める空を映して。

 

「空はどこまでも広がっているね。どこにいても、どんな時でも」

「……………」

「でもね。安心できる時は、安心しても良い時は。どうか足をつくこの地上で、翼を休めてね」

 

 そっと離れて、その穏やかに凪いだ瞳を見る。

 

「……どっちにしても。フェイトちゃんには心配掛けちゃうんだね」

 

 苦笑。心配しないで、という言葉は、願いは。彼女にはもう、とうに効果はないものだ。

 その証拠とばかり。

 フェイトは笑って、こう言った。

 

「もちろん、心配するよ。……友達、だからね」

「……んもう」

 

 ――それだけは、変わらないから。

 大切に思う言葉と、向けられる想いに。

 ただ手を繋ぐことでしか、この時のなのはには、応える術が見つからなかった。

 澄んだ空。それは、ある星降る夜のことだった。

 

 

 

 To be next...

 

 




お楽しみ頂けたら幸い。

なのフェイで次に読んでみたい話の種類とかありましたら。

  • 小学校、A'sくらいの話。
  • 中学生、エクシーズくらい。戦闘系。
  • StS。将来とか、話し合いな感じ。
  • ViViD後、おとなのフェイ。R18も?
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