微熱の理由は……な、なのフェイ。この話だけR15、かも。
あるいは、熱を覚えるということ。
目を開けて、見えたのはよく知ってる天井だった。
「……?」
なんだろう。なんだか、ぼんやりとする。ぼんやりしながら、眩しさを避けるために掲げていた腕を下ろすと、多少は視界もはっきりとして、それが自室の天井だという情報がゆっくりと染み込んで来る。
……今、何時なのだろう? 部屋は薄暗く、眠ってしまってからどれだけ経ったのかも、そもそも今が朝か夜かも分からない。
着替えないままベッドに身を投げてしまったのか、身に纏っているのは仕事着のシャツと黒のスカート。 第二ボタンくらいまで外れているのか、中途半端な自由に首筋に手をやって髪を除けると、肌の曝け出されるのが分かる。暑さからか堅苦しさからだったのか。無意識の行動ならちょっとこれは見つかったら誰かに怒られるかも知れない。
「……バルディッシュ?」
返事は、ない。
居間に置きっ放しにしてしまったのだろうか。
そういえば起きてから妙に、身体が熱を持っている気がする。寝室ということに甘えて、ついでシャツのボタンをもう二つほど外すと、涼しい空気が肌をくすぐる。それでもどうしてか、肌に感じるのはもどかしさの方が勝っているような気がしなくもない。
「……うーん……」
どう、したものか。これは風邪だろうか。頬にも熱が宿って、手の甲を当てるもその感覚もおぼろげだ。肌に触れる空気が、かえって肌のうちにある熱を際立てて行くようにも思えた。
「……起きた? フェイトちゃん」
視界で、色が揺れる。疑問すらぼやりと惚ける意識の中で、見慣れた色と声。亜麻色、やさしい声。
「あ、……なのは?」
「うん」
ふわふわとして覚束ない頭にも、はっきりと聞こえる。あぁ、よかった。近くに居たという安堵に笑みが浮かんで。そこで、また疑問が浮かぶ。
――なのは、いつからいたのだろう。どうしてここに?
こてり、と首を傾げてそれを形にすると、への字に見える唇から「むぅ」と不満そうな唸り声。
なんだか、いつものなのは、らしくない。
瞬きをして、もう一度ぎゅっと閉じて、開けて、じっと見る。
そこにいるのは、なのはだ。それは違いない。けれど、なんだろう。
「なのは」
「………」
「……?」
こちらを呼んだきり、近づかない距離を、不思議に思って。
身を起こして手を延ばす、と。歩み寄る素振りもあったかどうか。素早く手首を取られて、元のベッドの上に縫い付けられる。
見上げる場所に、彼女の姿が影を落とす。息つく音も、その振動もまた分かる距離。
薄暗い中にも見える、彼女の瞳。それが細まって、唇が動く。
「ね、フェイトちゃん」
間近に見える瞳は、普段の夜明け色に似たそれではなく、まるで夜を閉じ込めたように深い色をしている。フェイトはうん、喉を潤す動きで返事をして、その目を見つめ返す。
「キス、しよう。フェイトちゃん」
「……うん?」
相変わらずふわふわの思考では、何の予想も追いつかず。聞こえた言葉も例に違わず予想外であった。つい間の抜けた返事が零れ出た。
語尾が上がって、疑問になってしまった言葉。聞きとがめた彼女が、そこでまた不機嫌そうに口を閉じた。閉じた唇が、ちょんと突っ張って、如何にも不満ですと言いたげで。
「……ふふっ」
なんだか。どうしてか、そんななのはの様子が、フェイトには幼い子がむくれる様子に重なって見えて。
くすぐったくなって、笑った。
「む。そこで笑うの? フェイトちゃん」
「ごめん。ごめんね、悪いことなんてないよ、なのは。いいよ、もちろん」
笑って、手を伸ばした。
頬に両手が触れる。あたたかい。ゆったりと近付く距離。そうして、瞳を映す。それは吸い込まれそうに深くふかい、宇宙と空の狭間の色。
「……ん」
触れる唇が冷たく感じて。ひととき離して、また合わせ直す。くすぐったさに呼吸をする瞬間に、より奥へと、逃さぬよう、けれどそっと合わせる。
震える吐息はどちらからともなく。
いつの間にか、彼女の目尻に浮かんでしまっている雫が、目に入って。それは苦しみからではないだろうかと。心を痛め、呼吸の距離を取る。
咄嗟に、謝ろうとした。そして、口走ったのは。
「……ひどいよ、フェイトちゃん」
「――え?」
驚くフェイトの意識をおいて、唇を唇ですくわれ、そのまま隙間を埋める。
――彼女の香りがする。
呼吸して、取り込んで呑み込む。わだかまる熱が、高められてゆく。
息が少しずつあがってゆく。生まれ来る熱を逃がそうとして、喉が震える。
「――っは、」
離れた瞬間、フェイトはなのはの手首を捕まえた。挙動は獣めいて、彼女をベッドへと引く。
彼女の、抗おうとする意志は弱く。
フェイトはまだ茫とする意識が体を制御しきれずに、バランスを崩す。不可抗力でなのはが仰向けにベッドに倒れる。離しそこねた手首と、傷つけまいとする意識が彼女それにつられるようにしてベッドに倒れこむ。
軋む音。ベッドは二人の身を支えて抗議の声をあげるも、フェイトには届かない。ただ、辛うじて彼女を支えられたことに安堵し、身を起こす。
その拍子に――フェイトは、それを見た。
「……っなの、」
「…………」
元より乱れていた衣服は容易く彼女の首筋、鎖骨から離れて。そして露わになる肌には、赤い痕があった。傷ではない、痕が。
「…………」
なのはは言葉なく、つい、と目を逸らした。怒って、ではない。いじけて、と言って間違いなかろう。そうして、フェイトの横にぼふり、と倒れ込んだ。
「…………」
身体を取り巻いていた熱が引いて、急に現実がフェイトを捕まえたような錯覚がした。ゆっくりとなのはから身を起こして、必死に記憶を反芻する。
思い返す。ここまでの道を。ぐるぐると記憶を走らせてゆくと、覚醒した意識が熱の中にある、香りを感じ取った。互いに熱をかわした際に体内に取り込んだ香りには普段の彼女からはしない、アルコールの残り香もあった。そしてそれは、自分の身からも、香るもので――
お酒。眠っていた自分。不機嫌な様子。赤い、痕。
全てが一本の線に繋がった時、フェイトの身に起こったのは嵐のような後悔だった。
「あっ、その……なの、」
「フェイトちゃんのばか」
教導官の声帯から発せられたそれは、フェイトの推測を余すところなく肯定する言葉だった。
故に、何の言葉も出せなかった。ただ、シャツをきつく握り締めるなのはの姿に。そっと手を添えることだけ、許してもらうしかなかった。
(いくら安心するからって、これはないよ私……)
……おそらくは。
熱に溺れる前の暖かさと安堵が、高揚を圧して眠気を誘ったのだろう。
戯れる途中でお互い眠ってしまって。けれど先に眠ったのは自分の方で。先に起きたのはなのはの方で。
「フェイトちゃんが、付けてくれたのに……私より先に、寝ちゃうんだもん……」
「ぅ……ご、めん。ごめんね……?」
触れた肌をゆっくりと撫でると。びくりと肩が跳ねる。くすぐったさとは、また違う、反応が。
驚いて虚空にやっていた視線を目前に戻すと。
「……フェイトちゃん」
「はい」
正座で、しかし目はどうしても合わせられず手元に這わせて、フェイトは言葉を待った。
呼吸に合わせてかすかに揺れるベッドの感覚。息を整える彼女の様子を、ピンと張った神経で捉えて、フェイトは下されるであろう怒りを甘んじて受けるために、強く目を瞑った。
だが……言葉は、それからしばらくなかった。
声や振動にのみに集中していた自分に気付き、フェイトが顔を上げかけた、その時に。対面から、僅かな身じろぎを感じた。
「……ゆ」
「……ゆ?」
そっと、なのはを見る。それは、雫を宿した、水面のような瞳で。
「……許して、ほしい?」
「…………う、ん」
逸されていた瞳が、視線が、ゆっくりと合わせられる。温度が近い。心が暖かい。安らぎは、確かにここにある。
しかし今は、それ以上に。
「…………」
握り締められた胸元の手は抗議のひとつだったのだろう。手を添えて「ごめんね」と呟く。
「…………」
そっと、ベッドに身を預ける身体が見えるよう、そっとそっと、身を起こす。風の動きや軋みさえ、頬に熱を宿すような。それは彼女も同じだったようで。
赤みの差した頬と、肌の一部。
彼女も口にした、真紅の色の美酒に酔い知れる。
見上げてくる瞳。フェイトは、なのはの、その赤みの増した首筋に、自らの頭を預けた。
「、のは」
温度が伝わるように抱き締める。
「っふえっ、」
「……なのは、ごめんね。……なのは……」
驚く声を、上下する胸部から振動で感じ取る。
目を閉じて、呼吸をひとつ。
今。この視界にあるのは――
「ごめん、なのは」
所在なさげにフェイトの髪に触れていた手が、その声にぴくりと震える。
「もう一度、これ……ここに、付けても……いい?」
「…………う」
視線をあげてそっと聞く。ふいっと、猫の気まぐれを思わせて蒼い瞳がそっぽを向いた。
向こうを向いた顔の、揺れるサイドテールに指を掛けて、その乱れる毛先を梳いて。
ごめんね、と何度目かの呟きを落として、乞う。
呼吸が肌に当たる。ただ静かにその許しを乞う。
「ばか」
「うん。……ごめん」
慚愧に目を伏せる。
「……フェイトちゃん」
「うん」
身を離そうとした所で、服を引く小さな力に気付く。
ハッとして、見る。
水を湛えた、蒼い瞳が、
「、それは、やだ」
「うん……?」
「……………」
桜色の唇がフェイトの耳元に寄せられる。
――謝って欲しいんじゃ、ない。だって、
首筋に吐息を掛けつつ、ささやく声が訴える。
「っなの、は」
「…………」
もう彼女は何も言葉にはしなかった。
ただ、その両腕は母親のようにフェイトを包み、その利き手はそっと髪を撫でている。
朱を散らした頬は、微笑みを浮かべていた。
――それはフェイトにとって、何よりの許しの証だったから。
だからこそ。
フェイトは自分を包み放すまいとする手に手を添えて。身体を起こす。離れる温度に伸ばしかけたなのはの手を、しっかりと取る。
フェイトはその瞳にこそ、泣きそうに微笑んで。
「――ありがとう」
「……ん」
濡れた瞳と、首の後ろまで回される腕。
フェイトへの答えは、小さな非難と微熱の中に、返ってきた。
To be next...
お楽しみ頂けたら幸いです。
なのフェイで次に読んでみたい話の種類とかありましたら。
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小学校、A'sくらいの話。
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中学生、エクシーズくらい。戦闘系。
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StS。将来とか、話し合いな感じ。
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ViViD後、おとなのフェイ。R18も?