自由の旗の下に Under the banner of freedom 作:シューペア改革中
帝国艦隊の旗艦が最後の砲火を沈黙させた時点で、同盟艦隊は勝利を確定させた。
しかし、戦場は決して安堵の場ではない。
戦闘の終結は、次の任務の始まりを意味していた。
統合作戦本部からの暗号指令が全艦隊に送信される。
発信元は第七回線、署名は統合作戦本部作戦課、少佐クルト・フォン・ゼートゥーア。
文面は簡潔でありながら、徹底していた。
『第一段階:敵艦艇の推進系を無力化。抵抗継続の艦は即時撃沈を許可。
第二段階:捕虜の収容を優先。全艦、収容可能人員数を即時通報。
第三段階:艦載医療班を拡張編成し、敵味方区別なく負傷者の処置にあたれ。
第四段階:戦域外縁に警戒線を設定、後方補給船団と医療艦隊の進入を援護せよ。』
第一艦隊司令長官は即座に旗艦通信士へ命じた。
「敵艦の推進炉制御室を狙え。破壊はするな、機能を奪え。漂流させろ」
第二艦隊は捕虜収容の主力とされた。
艦隊幕僚は苦々しい表情を浮かべる。
なぜなら、撃沈の快感に比べ、捕虜収容は膨大な労力と時間を奪い、戦闘後の艦艇乗員にとっては酷く骨の折れる作業だからである。
しかし、それが戦争というものだった。
敵兵を生かして連れ帰ることは、戦略上の意味を持つ。情報の獲得、人道的評価、そして政治的優位性――ゼートゥーアはそれを熟知していた。
第三艦隊は警戒線の外側に展開し、反撃あるいは別働隊による攪乱を防ぐ盾と化す。
その指揮官は旗艦の戦術モニターを睨みつけたまま、副官へ低く告げる。
「戦いは終わっていない。奴らの別働部隊が現れる可能性は常にある。気を抜くな」
捕虜収容は時間との戦いであった。
破損した艦艇は減圧が進み、内部の空気が急速に失われつつある。
救命艇が展開され、同盟のシャトルが急行する。
艦内に残された者たちは、敵兵であっても、その瞬間だけは同じ「生き残るための仲間」であった。
負傷者は医療班が最優先で搬送し、戦傷の深い者から順に処置が施される。
医務主任が通信回線越しに短く告げる。
「味方よりも敵兵の処置が先になっているが、これで構わんか」
ゼートゥーアはわずかに息を吐き、答えた。
「構わん。生きている者から情報は得られる。死者からは何も得られない」
戦域外縁には既に補給船団と医療艦が到着しつつあった。
警戒線内の艦隊は、順次捕虜を医療艦へと送り込み、残存する帝国艦艇の捜索・鹵獲作業を続行する。
捕虜は階級ごとに分類され、上級士官は別区画で拘束・尋問の準備が進む。
勝利の歓声は控えられていた。乗員たちは知っているのだ。
戦場における真の勝利は、敵を撃滅することではない。
戦後の秩序を自軍に有利に構築し、次の戦いを制する布石を打つこと――ゼートゥーア少佐の作戦は、そのことを誰よりも明確に理解していた。