自由の旗の下に Under the banner of freedom 作:シューペア改革中
宇宙暦762年、晩秋 ― 士官学校中庭
晩秋の空気は鋭利な刃のように頬を切り、呼吸すら白く染めた。
自由惑星同盟士官学校の中庭は、冷たい恒星光と外縁惑星から届く淡い星明かりに包まれている。
昼間は教官の怒号と訓練生の掛け声で満ちる場所だが、今はただ、整備区画から響く艦艇エンジンの低い唸りだけが静けさを破っていた。
大尉クルト・フォン・ゼートゥーアは、長身をわずかに丸め、コートの襟を立てたまま星空を仰いでいた。
その視線の先には、母星ラインハルト星団の位置があった――幼少期、帝国領との国境付近で味わった緊張と恐怖、そのとき芽生えた「国を変えねば」という思いが、冷たい空気と共に胸を締め付ける。
「こんな時間に一人で空を見ているとは、らしくないな、ゼートゥーア。」
背後から響く落ち着いた声。
振り返るまでもなく、ゼートゥーアには誰か分かった。
ユリウス・ハーケン少佐――戦術課程の模擬戦で幾度も刃を交えた男だ。
演習場での彼は猛禽のような鋭さを見せる一方、普段は驚くほど静かで冷徹な眼差しを崩さない。
あの視線は、敗北の瞬間にこそ相手の本質を測る習性を持っている。
「らしくない? いや、俺はずっとこうだ。」
ゼートゥーアは唇だけで微笑を作り、視線を星から外さなかった。
「戦場の果てに何が残るのか……それを考え続けている。」
ハーケンは横に立ち、ポケットに手を突っ込んだ。
足元の砂利が小さく音を立てる。
「お前は将官の道を一直線に進むと思っていた。だが噂は聞いたぞ……政治家になるつもりだそうじゃないか。」
「噂は早いな。」
ゼートゥーアは肩をすくめ、夜風を避けるように身じろぎした。
「俺は戦うよりも、国家を導くことに興味がある。戦術で勝っても、国が腐れば意味はない。将官の椅子から降り、政治の場で舵を取る――それが俺の夢だ。」
ハーケンは短く鼻で笑った。
「軍人のままでも国は変えられるさ。戦場で勝ち続ければ、自然と発言力は増す。」
「それでは遅い。」
ゼートゥーアの声には冷たい鉄が混じっていた。
「戦争は国家の体力を蝕む。十の勝利が一の敗北で消えることもある。政治で均衡を作り、戦争を避ける道を探らねば、我々はいつか自滅する。」
短い沈黙が落ちた。
中庭を吹き抜ける風が、二人の軍服の裾を同時に揺らす。遠くのドックでは、夜間整備班が艦体に光を走らせている。
「……ならば、俺はお前の逆を行こう。」
ハーケンの瞳が星明かりを反射して、刃物のように光った。
「俺は徹底的に戦場で勝ち続ける。政治家が作った和平を、現実のものにするための力を保証する。お前が理想を語るなら、俺は現実を叩きつける役だ。」
ゼートゥーアはわずかに口角を上げた。
「いいだろう。お前が剣となり、俺が盾となる――そういう未来も悪くない。」
二人は互いの視線を逸らさず、無言のうちに握手を交わした。
その瞬間、遠くで訓練用ドックの信号灯が点滅する。
それはまるで、二人の運命がやがて交わり、試されることを予告するような、淡くも確かな光だった。