自由の旗の下に Under the banner of freedom 作:シューペア改革中
宇宙暦767年2月14日、同盟軍総司令部参謀部第3課。
辺境警備の月例報告は、例年なら退屈な紙束のはずだった。だが、その日ゼートゥーア大尉が受け取った報告書は、異様に分厚かった。
開封一行目にはこうある。
「ファラーファラ星系における民間船舶被害、前年同期比+42%」
被害船の詳細リストには、農産物輸送船や医療物資船が並ぶ。
しかも襲撃の大半は護衛艦同行中に発生。
つまり、敵は警護艦隊の配置や航路を事前に把握していた。
「情報漏洩か、内部協力者か……」
大尉は低く呟く。
参謀部の空気は冷ややかだった。
辺境の治安維持は優先度が低い。
なぜなら、帝国との国境線こそが最重要であり、辺境は予算も人員も常に後回しにされる。
だが、ゼートゥーアは即座に上申した。
「このまま放置すれば、外縁交易ルートは麻痺し、同盟の食糧・資源輸送に致命的な遅延が発生します」
結果、急造のファラーファラ臨時討伐艦隊が編成された。
指揮官は辺境勤務の経験が長いブレナー少将、戦術参謀としてゼートゥーア大尉が任命される。
戦力は軽巡洋艦3隻、駆逐艦8隻、補給艦2隻。帝国正面の主力艦は一隻も回されない。
艦隊は宇宙暦767年4月、ハイネセンを発ち五週間の航行の末、ファラーファラ星系に到着した。
星系の重力井戸は深く恒星フレアの活動も強いため、航行は常に乱流に晒される。
航路標識も一部は海賊に破壊され、残骸が漂っていた。
現地の交易商人たちは怯えていた。
港湾施設の管制官でさえ、ブレナー少将にこう言った。
「少将、海賊どもは帝国軍よりも厄介ですよ。あいつらは補給を奪うだけじゃない、住民を売り飛ばすんです」
海賊団の中でも最大勢力は黒礁旗(ブラックリーフ)。
艦数は推定5隻程度、だが高速艇や小型巡洋艦を持ち、機動力は同盟駆逐艦を上回る。
しかも、星系第3惑星の衛星軌道上に拠点を構えているとの情報があった。
初会議で、ブレナー少将は正攻法での捜索・制圧を主張したが、ゼートゥーアは首を振った。
「海賊は正面戦闘を避けます。こちらの動きを読ませ、罠に誘い込むべきです」
彼は、廃棄寸前の民間貨物船を偽装し、積荷に爆薬と妨害波発生装置を仕込む案を提示。
護衛艦はステルス装備を使って暗闇に潜ませる。
漂流船に接近した海賊船団は通信妨害で航行不能となり、その瞬間、駆逐艦群が一斉に飛び出した。
戦闘は4分半で終了。海賊旗艦は沈黙し、2隻が鹵獲される。
捕虜から得られた情報は、星系各地の補給路・拠点の座標だった。
だが、海賊勢力は壊滅せず、残党が五つの小規模団を糾合し、二十隻規模に拡大。
拠点は小惑星帯と恒星風の影に隠され、通常索敵は不可能。
ゼートゥーアは飢餓作戦を提案する。
「敵は補給を必ず外部から受ける。補給船団を絞り込み、時間をかけて削ります」
作戦は三ヶ月に及んだ。
補給船は軌道を外れれば待ち伏せに遭い、航行すれば恒星風を利用した奇襲に捕まる。
秋までに海賊艦の半数が撃沈、残りは燃料と食料の枯渇に追い詰められた。
宇宙暦768年11月、ついに海賊連合艦隊が本拠地防衛のため姿を現す。
ゼートゥーアは艦隊を二段構えに配置。第一線は軽巡3隻と駆逐艦6隻、第二線は恒星風の裏側に回り込み、敵の退路を断つ。
開戦から15分、敵旗艦が大破。第二線が突入し、敵艦は次々に沈んでいく。
同時に降下部隊が惑星ファラーファラIIIの衛星に着陸。
25分後、海賊司令部は制圧され、指導者ヴァルゴ・レインは拘束された。
討伐は完了したが、宇宙暦769年初頭、中央政府は辺境部隊の縮小を命令。
帝国国境での緊張増大が理由だった。
ゼートゥーアは反対意見書を提出するも、握り潰される。
撤収前夜、彼は全作戦記録と航宙図、敵戦術の解析データを暗号化して保存した。
「次に来るのは海賊じゃない……帝国艦隊だ。その時、この経験が血肉になる」
こうして、ゼートゥーア大尉の初の大規模作戦は終わった。
だが、そこで培った「敵を飢えさせ、動きを縛り、勝利を確実にする戦法」は、後の歴史的戦役で再び花開くことになる。