自由の旗の下に Under the banner of freedom   作:シューペア改革中

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ミラージュ・ネット

同盟軍統合作戦本部の正面ホールは、常時張り詰めた空気に満ちていた。

 

階級章も顔ぶれも知れぬ将校たちが交差する中、クルト・フォン・ゼートゥーアは目的を帯びた歩幅で司令塔へと向かった。

 

彼の名は既に一部の参謀間で囁かれている——旧大陸の伝説的な戦略理論を『過去』に持つ者として。

 

着任の報告が済むと、端末に疎らに入る戦況通信が目に入る。

 

宇宙歴765年、ティアマト星域に異常な動きが確認された、という一行がひかえめに表示されていた。

 

その時、彼の胸に冷ややかな確信が宿る——古い世界の記憶が、新しい戦争の鼓動と呼応し始めたのだ。 

 

統合作戦本部の会議室は、いつものざわめきが嘘のように静まり返っていた。

 

長机の上にはティアマト星域を中心にした立体星図が投影され、白と赤の光点が脈打つ。

 

参謀たちの視線は、その端に立つ一人の将校に注がれていた。

 

クルト・フォン・ゼートゥーア少佐。制服の襟章はまだ若く、だがその眼光は古参将官すら居住まいを正させる。

 

「――帝国貴族艦隊は、第二次ティアマトでの敗北を政治的屈辱として抱え続けています。名誉回復には派手な戦果が必要だ。ゆえに、局所的かつ急襲型の進攻が来ると断言できます。」

 

 低く抑えられた声が、会議室の空気をわずかに震わせる。参謀長席に座るブリュッケル中将が眉を上げた。

 

「それが“予測”ではなく“断言”である理由は?」

 

「補給線の再編と艦艇修繕の速度です。貴族領の造船所稼働率が、過去五年で最高値を示しています。さらに偽装商船による兵站試験航路がすでに確立されている。――彼らは本気です。」

 

 ゼートゥーアは指先で星図を操作し、幾つかの航路を青く染める。

 

「ここに、我々が偽の補給拠点を作ります。情報工作で『主力艦隊がこの宙域に集結する』と匂わせ、敵の判断を誘導する。罠にかかった瞬間、予備艦隊を集中させ、狭い宙域で殲滅します。」

 

 数秒の沈黙のあと、会議室のあちこちで低いざわめきが起きた。反対もあれば納得の表情もある。

 

ブリュッケル中将は椅子の背にもたれ、短く頷いた。

 

「……採用する。作戦コードは《ミラージュ・ネット》。君に実行権限を与える。」

 

宇宙歴770年3月17日、統合作戦本部は極秘作戦命令第014号を発令。

 

通信暗号の一文は簡潔だった。

 

作戦目的:帝国貴族艦隊をティアマト第七宙域に誘引し、局所殲滅を図る。

 

実施手順:

 

偽補給拠点「サイト・アリオン」設置(輸送艦12隻・護衛隊2隊)。

 

情報工作班は敵通信網に「同盟主力艦隊の集結」を示唆する暗号断片を意図的に流出。

 

前衛部隊は接触後、戦闘を装いながら後退し敵を宙域中央に誘導。

 

第三遊撃艦隊および第九艦隊は待機宙域より一斉突入し、敵艦隊を包囲殲滅。

 

指揮系統:作戦統括 クルト・フォン・ゼートゥーア少佐。

 

 ゼートゥーアは端末の送信ボタンに指を置き、一拍だけ時間を置いた。

 

戦術的な罠は、一度仕掛ければ後戻りはできない――それをよく知っていたからだ。

 

やがて彼は短く息を吐き、送信した。

 

 

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