いつしか異物は喀血となる   作:坂野

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第六章
コロニー6 〜静寂〜


 コロニー6にとって幸いだったのは防衛隊本部改め復興本部が無事に残っていたことだった。内部が多少荒らされていたり、外壁が経年劣化と機神兵による攻撃の両方で細かな傷などが数多く生じてはいる。それでも大きな穴や柱の破壊はどこにもなく、正に奇跡的に無事であったのだ。建物内の備品もほとんどそのままだ。避難キャンプに持ち出された物資が戻ってくれば、不便であるのは否めないものの生きていくには問題ない状態で復興が開始できる。

 オダマとジュジュは一機のポッドに乗り込み急ぎ出発した。巨神脚の脱出艇キャンプで未だ不安に押し潰されそうになりながら待ち続けている彼らを呼びに行ったのだ。数日もすれば皆を連れて戻ってくるだろう。

 決して元のままの故郷ではないが土地はある、生きる人もまだ残っている。とにかく復興の一歩を踏み出すことこそが重要だ。

 残された俺達は復興本部の中で有難く休ませてもらった。機神兵、それも顔付きとの連戦が続いた身体にとって屋根の下で、しかも寝具の上で横になれることがどれだけ幸せか。

 当然ただ黙ってお言葉に甘えるだけではない。一晩ぐっすり眠った後は皆が戻ってくるまでの数日間、大きい瓦礫や機神兵の残骸の片付けと仮設テントを張る作業に勤しんだ。空が明るい内はカルナ主導の下でコロニー6内を走り回った。キャンプ地から戻ってくる者達の為にも、せめて休息する場だけは確保しておかなければいくら故郷に帰れても酷だろう。

 

 テントを張る作業にもすっかり慣れ、片付けた瓦礫が子どもの遊び場になりそうなほどの山になった頃合いだった。

 二人がかりで瓦礫山のてっぺんに機神兵だった金属ゴミをぶん投げて一息吐く。雲の隙間から差し込む陽の光が眩しくて気持ち良い。

 視線を左右に一度ずつ振り、周囲に他の人影がないことを確認してラインが話しかけてきた。

()()()()、まだ寝てんのか?」

「うん。まだ起きてこないんだ」

「普通に話してもいいぜ。ここなら誰も聞いてないって」

「……助かる。そうさせてもらうよ」

 一応気持ち小さめな声量だ。

 黒い顔付きとの戦闘から丸二日は経過している。身体の傷はカルナの手当てもあり皆ほぼ万全な状態にまで回復している。とりわけシュルクの身体の消耗度合いが大きくはあった。おかげでこの二日間の内の前半丸一日はベッドに押し込まれていた。その挙句、通常の何倍も高い濃度の回復エーテルを注ぎ込まれては流石に回復しきっている。

 回復させる為でも短時間に多くのエーテルを摂取して副作用等問題ないのかを一度カルナに聞いてみたが、にっこり笑われて次のシリンダーを口の中に捩じ込まれた。

「衛生兵の私が診てるんだから、素人は文句言わずに黙って従って休んでなさい」

 言葉にはしなかったが目と顔がそう言っていた。絶対言っていた。ド正論ではあるのでそれ以上は俺も突っ込まなかった。

 ……話が逸れた。身体の回復はした、しかしながら"シュルクの意識"は浮上する兆しがない。前述の通り身体は万全の状態であるにもかかわらずだ。

 色々と考えてはみたが身体以外の要因でなければ残るは精神的なものしかない。心が傷ついたから塞ぎ込んでいるというよりは、気力だとか意思の力を限界以上に振り絞って吐き出してしまったのではないかと俺は見ている。身体(しんたい)回復用のエーテルでは補い切れない部分でもあるし、そこまで的外れな推察ではないだろう。

 では次の疑問として浮かび上がってくるのは、一体何に対してそこまで意思力を()ぎ込んだのかだ。

 これは十中八九モナドの枷を外す行為だろう。黒との戦闘中のシュルクはどうしてかモナドの封印を解こうと躍起になっていた。何故そのような行為に走ったのかについては今は置いておくが。

 "モナドの封印を解く"、及び"枷を外す"とほぼ同義である表現がある。"モナドの形状を変える"、"モナドそのものを生み出す"といったものだ。これらを成そうとするならば全てにおいて共通する事柄が強い意思である。意思と呼ぶと抽象的すぎるが、モナドの枷を外すことに全神経を注ぐと言い換えればかなり感覚的に理解できるようになる。

 物凄く雑に纏めるのならば、現在のシュルクの意識は集中力を使いすぎて精神的に疲れ切っている。二日も眠っているのは大袈裟かもしれないが、対象がモナドへの大きな干渉なのだから特段おかしな話でもない。

「赤に黒にと連戦続きだったからな。疲れたんだろう、きっと」

 ラインにはそんなこと伝えられないのでそれとなく誤魔化す。彼に隠し事をするのはいささか心苦しいが仕方ない。すまないライン。

「そっか。エイル(おまえ)も無理すんなよ、何か困ったら遠慮なく俺を頼ってくれよな。こんなに長い間表に出るのってあんまりないだろ?」

「ありがとう。そうだな、覚えてる限りだと初めてだ」

 エイルの意識がシュルクの内に宿ってから今まで、連続してここまで身体を動かしたのは記憶にない。基本的に状況に応じて僅かな時間だけシュルクの身体を借りるスタイルだった。俺自身も積極的にシュルクに成り代わって何かをやりたいわけでもないし、そもそも必要もなかった。

「それにしても顔付きを斬れるならこんなに苦労しないよなあ。黒いのと戦ってる時のシュルク、正直ちょっと怖いくらいだったし」

「そう……だな」

「実際どうなんだ? 実は斬れそうになってきてるとかないのか?」

 首は動かさず視線だけを泳がせる。嘘を吐いてもラインには見抜かれるだろうが、多方面に俺の持つ核心的な情報をばら撒いてしまうのも避けたいところだ。

「俺の気のせいかもしれないんだが……黒い顔付きに少しだけモナドが食い込んだように見えたんだ」

 真っ赤な嘘である。確かにこの目で確認した。"斬れていた"。

「マジかよ! 諦めなきゃ何とかなるってやっぱり本当なんだな!」

「ただ確信は持てていないというか、条件があるような気もするんだ。そういった部分も含めてこの後の行き先や目的を整理しないといけない。コロニー6の人達が戻ってきたら一旦ダンバンさんやディクソンも含めて話し合おうと思う」

 未来視(ビジョン)が気にかかる。あの場で枷が外れたのならば態々監獄島へ赴く必要性はない。しかし未来視はご丁寧に俺のよく知る映像を見せてきた。細部に違いがあったのかもしれないが、そこまでをあの一瞬で判断するのは厳しい。

 加えて特に気にかかるのがとにかく()()()枷が外れたのかなのだ。顔付きの一部は斬り落としたがモナドの形は変わっていない。矛盾を内包したままこの後どう動くか——例えば機神界に乗り込むなどはやりたくない。

 確認する方法自体はある。この場で誰か人に向かってモナドを振れば一発で判明する。それが出来たら苦労はしない。

 本当に人が斬れてしまったらどうする。そもそも何故人に対して有効かを調べるのかの説明から始めなければならない。自然な流れで人と戦う状況がやって来るなら話は別だが、仮に記憶通りの展開になったとしても巨神教異端審問官の来襲までそもそも無い。実に困ったものだ。

「ダンバンさんにはもう話は通してあるから、とりあえずは片付けが一段落してシュルクが起きてからだな」

「おう。……にしてもダンバンのことは"さん"付けなのにディクソンさんは呼び捨てなんだな、お前」

「全人類そうだと思っていたが」

「主語がデカすぎるだろ。俺と真逆だしシュルクは二人とも"さん"付けでもう合ってねえよ」

 いや全人類そうだろう。ダンバンは"ダンバンさん"だろう。

 

 そこから更に数日して無事に脱出艇キャンプにいたほとんどの者が故郷へと帰ってきた。故郷の惨状に言葉を失い、亡くした家族や友人達を想って零れた涙も決して少なくはなかったが何もかもを悲観している者は少なかった。まだやり直せる、ここから立ち直ることが出来ると涙を拭いた拳を突き上げて復興の道を迷いなく走り出していった。

 俺達は復興本部の一角を借りて今後の行動の話し合いを始めていた。ようやくシュルクの意識も覚醒し、話し合いの顔ぶれはシュルク(おれたち)、ライン、ダンバン、カルナ、ディクソンである。

 カルナは復興に回っても良いのではとの声も上がった。しかし本人がそれを穏やかに否定した。

「私も一緒に戦ったんだから情報共有くらいはしておかないとね。それにジュジュが張り切ってるから任せてみようと思うの」

 真に己のやりたいこと、やるべきことを見つけた弟を応援する愛情深い姉としての言葉だった。同時に最愛の人の命の行く先を自身の(まなこ)で見届けるまで戦い続けるという意志の表明でもあった。

「この先どうするつもりだ……と言っても、お前達は黒い顔付き(アレ)を追うんだろう?」

 本題の口火を切ったのはダンバンだ。シュルクとラインに向けての問いに二人は迷う素振りなど見せずに強く頷いた。

「当然さ、あいつはフィオルンの(かたき)なんだ」

「でもどこへ向かったか、というのが分からないんです」

 若者の覚悟を改めて認識したダンバンは左手を顎に軽く当て、役立ちそうな情報を自身の記憶から引っ張り出す。

「恐らくあの黒い顔付きの行く先は一つしかない。大剣の渓谷の先にあるガラハド壕だろう」

 一年前の決戦——ダンバンの右腕がモナドで潰されてしまったあの戦いにて、コロニー9とコロニー6の混成軍は機神勢力がガラハド壕に巨大な要塞を建造中だったことを確認している。あの決戦自体がモナドの入手と使用者の選定が済んだこともあり、要塞が完成してしまう前に一気に攻め落とす作戦であった。

 大剣の渓谷はその名の通り機神の持つ大剣で出来ている。機神の剣は巨神の身に突き刺さり、巨神界と機神界を物理的に繋ぐ地だ。機神界視点では巨神界侵攻における最前線基地になる。

「コロニー9とコロニー6はこうして奴らの襲撃を受けた。要塞は既に完成し稼働を始めているんじゃないか?」

「なら話は早いな! その要塞とやらに乗り込んで黒い顔付きを倒せば——!」

「待ってライン。僕もその意見には賛成だけど……」

 すぐにでもガラハド要塞に乗り込まんとするラインをシュルクが遮る。最終的に乗り込むこと自体は変わらない。ただ今の状態のまま攻め入ったとしても勝ち目はないとシュルクは思っている。

「乗り込む前に……僕には行くべき所がある」

「……未来視か?」

 一つ首を縦に振る。

 "未来視"という単語にディクソンが疑問の声を上げた。彼の隣に座るダンバンも似た表情をしている。そういえば知らぬのだったとシュルクとライン、時折カルナも未来視に助けられた経験を交えて説明していく。

「——成る程な。そいつは便利な力じゃねぇか」

「コロニー9でモナドを握った時に見えたものと同じ……ということで間違いはないか?」

 エイルからすればしらばくれているディクソンの反応は癇に障るがこの場では追求してはいけない。ダンバンは言った通り、あの機神兵襲撃の際にシュルクのみが少し先の未来を見ていたことを知っている。二人とも信じられないなどとは一切言わずに未来視の存在とその内容の信憑性を素直に信じてくれた。

 肝心の未来視で何を見たかについての問いにはシュルクが答える。一つ一つ、数日前に流れ込んできた情報の波を思い出しながら。

「物凄く高い場所……巨大な塔の頂上みたいな所で戦っていたんです。あの黒い顔付きと。途中で誰かの声、重たくて威厳があるような男性の声が聞こえて、モナドの力が解放されて……。未来視の中で、解放されたモナドは機神兵の装甲を容易く()っていました」

 モナドが今の状態では何も変わらない。無闇に勝ち目のない戦いに何度も身を投じるほど愚かではないから、一旦未来視の流れに委ねてみたい。未来を変えようとばかりしていた自分を変えてみる。敢えて未来視に従い顔付きを断てる力を得たい。

「僕は力が欲しいんです。普通の機神兵だけじゃなくて顔付きも、何もかもを斬れるだけの力が、どうしても」

 シュルクの意識が覚醒した際にそれとなく聞いたのだが、彼は枷を外そうとしたことのみならず、数日前の黒い顔付きとの戦いの記憶自体があやふやだった。明確に覚えているのは必死に黒に向かったことと、身体どころか魂さえも焦がしかねないほどの強い怒りだけ。

 モナドの枷という言葉も、何者かに操られるように封印を解こうとしたことも何も覚えていなかった。故にシュルクは未だにモナドは顔付きを断ち斬れぬ武器だと信じている。未来視に流れを預けようとする理由だ。

「ディクソンさんは知りませんか? 色々な所を旅しているなら近い建造物がある場所とか……」

「塔ねぇ……。流石にそれだけじゃ何とも、だな。他に情報は無いか?」

「塔だけなら私達のコロニー6にあった敵の侵入に備える物見の塔みたいな物も沢山あるものね。ヒントがあれば絞り込めそうだけど……」

 カルナに促されてシュルクが再び記憶を辿る。塔にいることばかりに意識を取られていたが、一つだけ塔から見えた景色に見間違えようのないものが存在した。

「一本の角……頭! 巨神の頭だ!」

 巨神界に生きる者は必ず知る光景、己が生きる大地そのものの形は幼い頃から刷り込まれている知識だ。幼い子から老人まで、巨神を表現しようとすれば必ず描かれると言っても過言ではない特徴こそが頭部から生えた長く鋭い角だ。

 瞼を下ろしてシュルクの出した情報から該当する何かを脳内のライブラリから探していたディクソンが一つ呟きを漏らす。

「——監獄島、だな」

 俺も行ったことはないと前置きをしてディクソンは続ける。巨神の頭頂部には巨大な黒い塔が建っているという話を聞いたことがあるらしい。ホムスには名前と簡単な外見しか情報が伝わっていないそれは古種族ハイエンターが建てたとされている。

 ハイエンターは伝説上の生物ではなく今も現存する種族の一つであるとシュルクは既に知っている。彼の話を聞く形でラインも一応は知っている。対してカルナはあくまでも伝説上の架空の存在だと思っているが寧ろ彼女の方が一般的な感覚だ。ダンバンも噂程度でしかハイエンターが現実にいる種族だとしか知らない。

「たまげるぜ? 奴らの姿を見たらな」

 言外に会ったことがあると言っている。

「今日は東、明日は西。お前ら小僧っ子の未来を護る為に世界中を旅してんだ。秘境を求め異種族とも交流して文化やら文明を手に入れてホムスの力とする——それ故の流浪の旅よ、孤独だねぇ」

「何芝居がかってんだよ。お前の道楽の面が大きいだろう、相応の利得も兼ねてるからお目溢しされてるだけだ。寂しいんなら誰かお供でもつれてきゃいいだろう」

「ひでぇ言いようだなぁダンバンは。一人が気楽でいいんだろうが」

「望んで一人なら孤独なんて愚痴は出てこないだろう」

 悪友の漫才じみたやり取りに思わず苦笑が零れる。

 呆れたように溜め息を一つ吐いたダンバンは緩んだ表情を引き締め、改めてシュルクの顔を覗き込んだ。

「——で、本気なんだな? その監獄島とやらを目指すのも、黒い顔付きを追うのも」

 コロニーという定住地を捨て、機神兵の目の届かぬ場所を探して旅をする。皆でひっそりと隠れ住み戦いから遠ざかる方法もあるとダンバンは別の道も提案してくる。復讐の旅路を歩み続ける道は決して強いられたものではない。シュルク自身の意志でいつでも異なる方向へ舵を切れる。

 それでも何度問われようとシュルクの答えは変わらない。何度も機神兵と剣を交え、黒以外の顔付きの存在も知った今ではただフィオルンの仇を討ちたい想いのみがシュルクを突き動かしているのではない。

 理由は分からずとも機神兵は異常なまでにホムスを喰い殺そうとする執念めいたものを持っている。そんな粘度を持った重たく黒い何かを腹に宿した存在から逃げられるなんて思えない。どこへ逃げたとしてもいずれ必ず見つかってしまう。

「それなら戦うしか僕にはありません。巨神界に生きる人達を護る為にも全ての機神兵を斃すしかないんです」

 シュルクの答えを聞いたダンバンは引き締まった表情のまま緩やかに口角を上げて頷いた。

「ならば俺も行こう」

「ダンバンさんもですか!?」

「おうおう、お前じゃ頼りねえってさ」

「ディクソンさん! そんなわけないじゃないですか! こんなに心強い人いませんよ! だよね、ライン?」

「ああ! これ以上に最高な協力なんて考えらんねえよ!」

 予想していてもこの人の参戦するという言葉は最高に頼りになる。戦いにおける実力もそうであるし、精神的な面で鋼鉄の支柱となってくれる。全人類、声に出す際には呼び捨てにせず敬意を持ってダンバンさんと呼べ。

「そういう反応されるとやっぱり嬉しいもんだな。身体の調子も随分良くなったし、そこのディクソン(守銭奴)が作った剣も元を取るくらい使い倒さないと割に合わん。露払いくらいに思って頼ってくれ」

 機神兵の装甲から削り出したディクソンお手製の刀である。軽いがその切先は針かそれ以上に鋭く、切れ味も一般の防衛隊員に支給されるものより遥かに良い代物だ。作った本人は特別性だから値が張って当然だと不満げだった。

 これはあくまでエイルの経験した知識——つまりは作品として見たこの世界の話でしかないと前置きはしておくが、機神兵の装甲や周辺パーツは実は大した値段にはならない。実はぼったくられてるのではないかと少しばかり不安になる。お高いのは職人の技術料と思いたい。

 

「話が変わるんだけどいいかしら?」

 カルナが右手を顔の高さまで上げた。特に拒否するものでもないのでそのまま続けるよう促す。

「黒い顔付きと戦ってた時に私達を助けてくれた大きな鳥……でいいのかしら。あれって何? 今まで見たことない生き物だったわ」

「ありゃ霊獣テレシアだ。眠れる巨神を守護する霊獣でな、巨神の上層部に棲息する怪物さ」

「この世界が誕生した時からずっと姿を変えていないくらい強力で長い歴史を持つ生き物なんだ。さっき出たハイエンターの祖先にも近いらしいけど……」

 ディクソンの答えにシュルクが補足を加える。モナド研究に付随してテレシア周りも色々と文献を読み漁ったおかげだ。

「妙なんだよなぁ。ホムスの住む下層に下りてくるなんでただの一度もないはずなんだが……」

「巨神を守護するって伝わってますし、機神兵から巨神を護ろうとしたって考えられませんか? 機神界からの侵略者は巨神にとっての敵。だから守護者であるテレシアが動いたという防衛機能の可能性はあると思います」

「一理あるな。だがそれだと今の今まで下りてこなかった理由とは噛み合わん」

「機神兵が人を喰うようになってエーテル収支が釣り合わなくなったとか……。今まではただ殺すだけで死体は全て巨神に還ってたので総量は減らなかったはずです」

「ふむ……。エーテルに敏感な原生生物なら有り得なくはないな……」

「そこ、ここは研究室じゃないぞ。テレシアが現れた理由談義は終わりだ、終わり」

 議論が白熱しかけたシュルクとディクソンをダンバンが諌めた。放っておいたら簡単に数時間は語り続けるのは目に見えていたので大変助かった。

 因みに答えは"シュルク大好きウーシアくんが助けるように指示した"である。エーテル収支だとか機神界からの侵攻だとか全く関係ない。シュルクを成長させる為にここで死なせてはならないからという理由ではあるが、割と私情の方が大きく見える。

 プネウマはレックス、ロゴスはマルベーニ、シン、更にエヌと繋がりが深いことを踏まえるとウーシアは必然的にシュルクと結び付く。プネウマとロゴスが個人に肩入れしたり好意を寄せているのだから、ウーシアもまあそういうことなのだろう。

 素直で太い芯を持つ太陽にも似た少年が好きなプネウマ、妙に駄目な面のある顔のいい男の隣にいようとするロゴス、(クラウス)に瓜二つな美少年がお気に入りのウーシア。……改めて思うとこの三兄妹、好みが強烈すぎる。

 

「ま、とりあえず一旦の目的地は巨神の頭頂部に決まりだな」

 コロニー9が巨神の脛に相当する位置である為に、コロニー9の者にとってはコロニー6でもかなり高い場所になる。しかしここはまだまだ巨神の下層部だ。頭を目指すなら上層部に入らないと話にならない。空を飛べないホムスの脚で行くにはまず巨神の腰から上がる必要がある。

「コロニー6はちょうど巨神のココ」

 ディクソンが己の脚の付け根付近を指差す。

「つまり股間だ。……ってぇな」

「口の説明だけで済んだだろう。何で態々視線誘導した」

「例えで分かりやすくしただけだろうが」

 ダンバンがディクソンの頭を軽く叩いた。当然のお咎めである。男性しかいないならまだしも、女性であるカルナも同席する場で男の股間になぞあまり意識を向けさせるものではない。カルナは困り眉になりつつも笑っていたので辛うじてセーフ判定……いや普通にアウトだろう。

「とにかくだ、股間付近に位置するコロニー6からぐるっと回って腰に向かうってわけだ」

 巨神の腰、燐光の地ザトール。この付近から現在生き残っているホムスはまず近寄らない場所になってくる。人間の気配が薄れ、ただ悠然と存在する自然の息遣いだけがそこにある。

 この先の自然は、巨神の骸はシュルクに何を訴えてくるのだろう。

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